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第9話 なぜか評価が上がる悪役令嬢

翌日のお昼休み。

王太子殿下ご一行様が来るのを見計らう。

……そろそろ来る。


下位貴族の友人たちといるマリエッタ。

横に広がりおしゃべりをしながら歩いている。

……普通に指導が入るマナーだ。


「横に広がっておしゃべりしない!通行の邪魔よ」


遠慮のない指導を飛ばす。


「礼儀を知りなさい」


ふふふ。

お局時代、新人が泣きそうになった口調だ。

……どうだ。


「リザベッタ様……」


マリエッタは慌てて後ろに下がる。

が、友人の一人は納得がいかないのか、


「酷いです。誰にも迷惑をかけていません」


それ。

もうそこから違う。


「私たちが下位貴族だから、嫌がらせですか」


「酷いです」


いるのよね、こういう子。

ため息が出る。

ため息を吐いた私の態度に馬鹿にされたのかと顔を赤くする。


「礼儀は知ってます」


「恥をかかせるなんて…いじわるです」


「そうでは………」


「何の騒ぎか?」


私の声を遮る声。

来た。

いいタイミングだ。

王太子殿下、ご登場である。

すぐにカーテシーをする。


王太子殿下の目には私がマリエッタたちに理不尽な言いがかりをつけているように見えていたはず。

さぁ、叱責しなさい。


「王太子殿下…嫌がらせではありません」


一番やってはいけないこと。

いいわけ。

ダメ押しだ。


「リザベッタの言うとおりだ。ここは共有の場。広がって歩いていれば、迷惑になる」


……は?

いや、ちょっと待って。

あのハラスメント一歩手前の口調、聞いてた?


「私もリザベッタ嬢の指摘は、正しいと思います」


アラン、宰相の息子なら

”言い方が悪い”とか、”いいわけは見苦しい”

とか指摘しろ。

追い打ちをかけるようにクラウスがいう。


「それに、道を譲り、殿下に真っ先に挨拶をしたのはリザベッタ嬢ですね。そのリザベッタ嬢が礼儀を知らないはずはないかな」


「リザベッタ様は私たちにこうあるべきだと教えてくださったのですね……!」


マリエッタ!

そこ、違う!

私の好感度を上げて、どうするの。

いじめられた儚い令嬢を演じる場面でしょうが。


「そういうことだ。さあ、リザベッタ、昼食を共にしよう」


腕を差し出す王太子殿下。

どうせ差し出してくれるならアルちゃん希望。

王太子殿下の腕なんて要らない。

私に注がれる視線。

……お局時代の私を見ていたものと違う……

憧れと畏れが混じっている……

それ、悪役令嬢に向けるものじゃないよね。

王太子殿下や取り巻きの視線も柔らかい。

ランチを食べながら、

……違う。

そうじゃない。

そうじゃないんだ!

と心が悲鳴を上げた。




午後の授業。

さっきは失敗をしたが、今度は大丈夫。

マリエッタ一人に絞るから。

授業内容は数学。

ふむ。

得意分野だ。

これはいける。

数字に強くなきゃ、生保会社で業務はできない。

徹底的に指摘しよう。

マリエッタと同じグループになる。

……ちょっと疑問なんですが。

数学でグループ学習って、なに?

私の学生時代にはなかったわよ。

方程式や関数なんて自分で解いてなんぼでしょ。

まぁ、グループでやることで教え合い、連帯感が深まることにはなるんだろうけど。

ささっと解いてしまおう。


「できまして?」


「解りませんわ」


「生活に必要はない。わからなくても問題のでは」


「他のグループは見せ合っていますよね…」


……イラっ。

やらなくとも誰かがやるだろう。

必要ないからしないだと?

見せ合ったら身につかないだろう。

……言いたい。

言いたいが、無視だ、無視。

マリエッタに集中すると決めたんだから。


「マリエッタ様、解けまして?」


「それが……」


マリエッタがおずおずとノートを出してくる。

……役者ね。

いいわ、その怯え感。

これぞ、悪役令嬢降臨!

手を組んだことは間違いなかった。

どれ……

……なにこれ。

まだつるかめ算でやってるの?


「効率が悪すぎる。代数をつかいなさい」


さっと式を書きつける。


「これで分かるでしょ」


「解りやすいです、リザベッタ様。ありがとうございます」


マリエッタが感動したようにいう。

心なしかグループの全員が目を輝かせて私を仰ぎ見ている。

……お願い。

ここは怯えて……


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