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第7話 芋よりパンが食べたい

「ちょ、ちょっと待って」


逃げる男爵令嬢に声をかける。

……足、速くない?

普通は鈍いとか走ってコケるのがセオリーでしょうが。

私の息が続かないわよ。


「話が…あるのよ……待って…」


男爵令嬢の足が止まる。

助かった。

これ以上は走れない。

息を整える。


「リザベッタ様が、私に何のご用ですか?」


「……」


しまった。

この子の名前がわからない。

えっと、名前…なんだっけ?

いや、ここで聞くのは負けな気がする。


「お話があると言いながら、無言ですか?」


待って、いま思い出すから。

けど、この物怖じしない性格。

○だ。


「王宮に行かれたんですよね?」


行った。

猫に会いに。

……それ以外はどうでもよかった。


「王太子殿下とふたりきりだったとか」


いや、従僕がいた。


「何かを渡されたとか」


アルという猫を抱かしてもらった。


「そして、名前呼びを許された」


許可を出したのは間違いないが、一方的に許可が出ただけだ。

私は呼ぶつもりはない。


「王太子殿下も親し気にされています」


それは否定できない。

このままでは肝心の話ができない。

ええい、名前は後だ。


「貴方、王太子殿下の婚約者を…」


「婚約者となられたのはリザベッタ様です」


は?

……いつ、私が?




男爵令嬢マリエッタの回想


我がノルマン家は貧乏だ。

貴族といえば、聞こえはいいが、地位は下から数えたほうが早い男爵。

領地も小さく僻地だ。

収入は微々たるもの。

細々と暮らしている。

どちらかというと平民寄り。

当然、使用人なんていない。

貴族は学園に通わなければならない。

なんともありがた迷惑な制度で通う羽目になった。

問題は通うための費用。

だが、貴族は学費や寮費がタダということだけは助かった。

そうじゃなきゃ、理由をひねり出してでも通わなかった。


「学園や王都では、変な男性には気をつけるのよ」


「お前は可愛いから、心配だ」


送り出されるときに言われた言葉だ。

両親は人がいい。

あまり疑うことを知らない。

そのせいで貧乏くじを引くのを子供の頃から幾度も見てきた。

反面教師。

状況を冷静に分析し、立ち回りを考える。

必要ならあざとさを使うのもやぶさかではないと思っている。

学園に入学し、周囲にはちょっと抜けてる風を装った。

儚さを演出するのも忘れない。

それもすべて、高位貴族を捕まえ貧乏から脱出するためだ。

王太子殿下が在学されているのは知っていた。

婚約者がいないことも。

上手くいけば、シンデレラストーリーに乗れる。

やってやるわ。

芋よりもパンが食べたい。

ライバルは多い。

筆頭は公爵令嬢、リザベッタ・フォン・エバンス嬢。

他人を見下げる高慢ちきでわがままな令嬢と思っていたのに、最近は核心をついた指摘をする。

まるで人が変わったように。

もしや、あれは王太子殿下の気をひくためにわざと演じていたとか?

で、実はこっちが本性···。

なら、できる。

厄介だなと感じたのは正解だった。

まんまと王太子殿下の気を引き、有力な婚約者候補となった。

いや、発表されてないだけで内定したとか…?

悔しくてしかたない。

だから避けていたのに、なぜ追いかけてくるのよ。

引導を渡しにきたわけ?




訂正しなければ。


「正式に決まってもいないことを、さも決まっているかのようにいってはいけません」


完璧な指導口調。

ぽかんと私を見る男爵令嬢。

だから、指導してどうする、私。


「それは余裕から?」


素直じゃない。

減点1だな。


「よく見なさい」


「先ほどのお昼を見せつけておいて、言ってます?」


「私の対応を見てましたか?王太子殿下だけをみていませんでしたか?」


「······」


「視野が狭い。物事は多方面から見て判断するべきです」


男爵令嬢が息を飲み、唇を噛む。

…あっ、これ。

ヤバい。

よく知っている表情だわ。

くる、くると思った次の瞬間ー。

男爵令嬢の目に涙が浮かんだ。


「どうせ、ノルマン家は所詮男爵位よ。端から王太子殿下の婚約者に選ばれるとは、思っていません。けど、毎日の食卓に芋じゃなくてパンが上がる夢を見て、何が悪いんですかっ」


えっ?

芋?

パン?

……どういう繋がると?





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