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第61話 婚約者に復活からの意義あり!

宰相の判断に固唾をのむ。

嫌な汗が背中を伝う。

脳内の小久保恵子は、既に荷物を詰め込んだスーツケースに銀太とアルちゃんが入ったキャリーバッグを持ってスタンバっている。


「課題は完全達成ではない……」


宰相が目を細めて私を見る。


「…しかし…着想と実績は評価に値するなれば…」


だから、結論を言って!

胃が死ぬ!

あっ、小久保恵子がスーツケースを開けて、胃薬探し出した。

国外逃亡?平民落ち計画続行?

どっちよ。


「王太子殿下、王太子妃は、貴方様の片腕。判断は貴方様に任せるのが最善かと」


だから、さっさとはっきり言え!!


「相分かった。なれば、リザベッタ フォン エヴァンスは、私の婚約者に戻す」


王太子が断を下した。

父が小躍りしている。

父よ、ここは王城だぞ。


「意義があるものは、申し出よ」


謁見の間に異議を申し出るものはいなかった。

王太子が


「意義はないものと…」


というまでは。


「意義あり!」


朗々とした声が響いた。

謁見の間の全員が私を見た。


「リザベッタ?」


父が愕然とした顔をしている。

父よ、すまない。

私は根っからの庶民なんだ。


「王太子殿下、課題達成の可否による婚約者復帰でございますが、お慈悲を以ての合格ならば、それは不合格ではないでしょうか」


「リザベッタっ!!」


あっ、ムンクの叫びみたいになって、父が絶叫していた。

いや、だからここは王城。

家じゃないんだから、行動には気をつけようよ。

王太子と宰相も驚いているが、最小限の動作や表情で押し留めているぞ。


「リザベッタ嬢、それはどういうことかな?」


気を取り直した宰相が問いかけてきた。


「言葉のとおりです」


「では、お前は達成できなかった時の条件を飲むと?」


王太子が目を細めて言う。

そうね、銀太とアルちゃんの猫権無視したあの最低最悪の条件のことね。

誰が飲むと言った。


「いいえ。王太子殿下と宰相閣下の下された課題への評価は〃課題は完全達成〃です」


「そうだな」


「着想と実績を評価してのもの。なれば、私には共済の実績を上げる義務があります。これは現場にいなければできないこと。王太子殿下の婚約者の座にいてはそれは無理です」


「そうきたか···」


王太子殿下が口元に微笑を浮かべた。


「だが、国民に明日を与えたこと、かつて無い着想から制度を作ったことは事実だ。しかも、財を一切使わずに。これを評価しないことはできぬ。また、腹心を向かわせれば、賢いお前のこと、どうとでもできよう」


ちっ、やっぱり一筋縄じゃいかないか。

仕方ない。

奥の手出すか。


「私は共済だけを申しているのではではありません。私の危険性をも申し上げています」


「どういうことだ?」


「私がマリエッタ嬢に持たせた改革案、ご覧になっていらっしゃいますよね?」


「···あれか」


「あれは、却下だ。リザベッタ嬢」


宰相が一刀両断した。


「なぜです?あれを施行すれば、国民の健康生活の向上になると思いますが?」


「一体いくらかかると思う。国庫を破綻させる気か」


「私が王太子殿下の横に立つと言うことは、あれを推し進めることにもなりますが、よろしいでしょうか」


「ぐっ」


私が出奔前にマリエッタに持たせた改革案は、国民皆保険制度。国民全員が公的医療保険に加入する制度。国が医療費の九割から七割を負担し、これまで治療費の関係で病院に掛かりたくとも掛かれなかったひと達が病院に掛かれるようにする制度提案。国庫の負担は莫大になるのは明白。

だから宰相は私を婚約者と認めることはできない。

さあ、どう出る、王太子殿下。

私は王太子殿下を真っ直ぐに見た。


「······」


脳内の小久保恵子が悪い笑みを浮かべていた。

多分私もつられて悪い笑みを浮かべていた。

宰相は額を押さえた。


「やはり危険人物ではないですか。だから反対だったのです」


王太子が吹き出した。


「ははははは」


謁見の間に笑い声が響く。


「やはり面白いな、リザベッタ」


「殿下」


「結論は保留だ」


王太子殿下が愉快そうに私を見た。

目には不穏な色が見える。

やっぱり、厄介じゃないか、この腹黒王太子は。


「国民皆保険とやらについても含めてな」

本日は2話投稿となります。

次話のエピローグにて、第一部完結となります。

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