第58話 王城からの召喚
商工会での結論は、世間で玉虫色の決着と言われるな。
よくやる手だ。
結論を出せないときに先延ばしにしたいお偉方がよく使うのを、十数年の社会人経験から知っている。
潰されないだけマシなんだろうけども。
確実に胃痛の原因とはなった。
脳内では、小久保恵子が胃薬を買い込んでいる。
すまん。
半年かぁ……
あれ?
そろそろ王城からの課題の期限じゃないか?
私の脚を支えに銀太が立ち上がった。
つぶらな瞳をした銀太が
みやぁん
と鳴き、私のこめかみ辺りからはつーっと一筋の汗が流れた。
「半年後の再評価とは……老獪だな」
「潰すには惜しいが、不安もあるとういことでしょうな」
公務の休憩時間、意図してレオナードは宰相を茶に誘った。
テラスに設えた真鍮のテーブルセットに向かい合って座っている。
眼下には手入れをされたバラが咲き乱れていた。
三段のケーキスタンドには小ぶりなサンドウィッチや焼き菓子、プチケーキが用意されていた。
紅茶が注がれ、芳香が立ち昇る。
「さて、そろそろ呼び出すとするか」
「それがよろしゅうございますな」
「お前がどう攻め、あれがどう反論するか。楽しみだな、宰相」
「おや、憎まれ役は、私ひとりに押しつけるお積もりでいらっしゃいますか?」
「私は見届け人ゆえ、口出しは出来ぬよ」
レオナードが軽く受け流す。
「いやはや、あの令嬢は薬ともなれば、毒にもなる。あの制度とやらも一歩間違えば、国庫を破綻に導きかねない···ここにお迎えしていいものか···宰相としては、反対すべきなんでしょうな」
レオナードは微かに口角を上げ、宰相の言葉を聞きながら紅茶に口をつけた。
先が読めぬほど面白いものはない。
あの女はこちらの想像を平然と上回ってくる。
泣きついても来ない。
足掻く。
足掻き、次を見出す。
あの女ほど諦めが悪く、強かなのは見たことがない。
猫のことになると、人が変わるのも面白い。
鬱屈とした王家にあの女が入れば、どうなるか。
(さて、どこまで見せてくれるか)
王家に必要なのは従順な者ではない。
考え、動き、変えられる者だ。
もしその力が本物なら。
「逃がしはしない」
「はっくしょん」
女性にあるまじき、豪快なくしゃみをした。
ヤバい。
私がこのくしゃみをするときは、ロクなことが無い。
あちらの世界でも、このくしゃみをした後、上司の経費の使い込みと、同僚の社内不倫が発覚し、喧嘩沙汰になったという、ダブル事件に散々な目にあった。
着任してから三年間の経費の洗い出しに倉庫から会計資料を取寄せるなきゃならないは、出社しなくなった同僚の分まで仕事しなきゃならいは、で死んだ。
虚ろな目でパソコンを叩いている姿は亡霊のようで、恐れて誰も近寄らなかったことを思い出した。
あれがまた?
ジェンキンスさんの偏屈と強情がパワーアップして、誰かれ構わず喧嘩をするのか?
ポールさんが、脱税していたのがバレて、査察に入られる?
それとも共済の方か?
あと、考えられるのは、王城···いや、こっちはまだほんの、ほんの少しほど時間があるから大丈夫だろう。
頭の中では、小久保恵子が白装束に身を包んでいた。手には御幣。
護摩を焚いた祭壇の前に座って、
「悪霊退散!」
と叫びながら、手にした御幣を振り回していた。
小久保恵子が
キエェェェ――ッ!!
と雄たけびを上げた、そのときだった。
コンコン
「リザベッタ様、王城からの召喚状をお持ちしました」
――そっちかいっ!!




