表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
56/62

第56話 積み重ね

正念場だと気を引き締めた。

ミレーヌさんが忠告してくれたじゃないか。


「リザちゃん。気を付けなさい」


「お金が絡むと、人は簡単に意地悪になるものよ」


そうだ、忘れてた。

小久保恵子として、あちらの世界で嫌というほど見てきたではないか。

保険金を巡る仁義なき戦いを。

相続は争続。

お金を前にしたら人は変わるってことを。

高利貸しにしたら、死活問題だ。

共済に賛同するわけはない。

それでも賛同してもらわねばならない。

賛同をしなくても、妨害だけは、何としても止める。

商工会の共済事務室に支払実績を書いたものを貼った。

目立つように大きな紙にした。

ワイトニング商会から始まって四ヶ月半。

怪我での支払 一件、事故での支払 一件。

そして、同時に、

加入後三ヶ月未満は対象外。

重大な過失があるときは対象外。

嘘の告知※

わざと怪我をしたり、病気になった場合。

故意に事故を装った場合。

自殺※

支払が共済の存続に著しい影響を及ぼすと考えられる場合は支払額が減額される。

戦争や大災害時は支払われないが、共済の存続に影響がない場合は支払われることがある。

※但し、加入後三年を経過した場合は支払対象となる。

支払われない例も貼った。

良い面も悪い面も包み隠さず、目に見える形を示した。

都合の悪いことを隠して得た信用は、きっと長続きしない。

解約に来た人もこれを見て、考え直す人も現れ始めた。


「聞いていたことと違うな」


「支払われているんだな。なら、ちょっと止めとくか」


少しずつではあるが、効果が現れていた。

これで落ち着いてくれるかと思っていた矢先にそれは起こった。

事務室にいた加入者の二人の男性が、これ見よがしに大きな声を上げた。


「ワイトニング商会の奴らは支払われるんだろ。けど、俺たちは、まだ支払れないって不公平じゃないか」


「ワイトニング商会の奴らだけが、得するよな」


他の加入者が顔を見合わせる。


「確かにそうだ」


誰かがぽつりと呟いた。


「あの二人、コネクス商会とバルト商会の人じゃない?」


「そうよ、態度が悪かったから覚えてるわ」


潜めた声でベテランの女性事務員と痩せぎすの女性事務員が話すの耳にした。


「女はすぐ、依怙贔屓するからな。もしかしたら、日数が足りなくても、顔が良ければ支払ったりしてな」


「はぁ?そうなったらやってらんねぇ。これだから女は信用ならねぇんだ」


「こんな紙切れに騙されんなよ」


私は貼り紙の前に移動した。


「これは、加入者の方に共済制度がちゃんと支払われているという実績を示しています。支払われた方に確認を取って貰っても構いません」


騒いでいる二人へ目を向ける。


「また、いくつかの商会の方々が、一部を省略して説明されているようなので、正しく理解をしていただくためです。共済はこの約束に基づき運営、支払をしています」


二人が憎々し気な視線を私に向けた。


「贔屓するのは、女性だけじゃないわよね。男性だってしてるわ」


「若くて美人とか、可愛い子とかには甘いわよね」


「そうそう、こんなのは仕事するしか能のない奴にやらせとけとかいってさ。何様よって思ったわ」


女性事務員たちからの援護射撃。

あーっ、わかる。

小久保恵子もよくやられた。

まぁ、小久保恵子の場合はそんなことされたら一睨みして凍らせていたけど。

どっちの世界も同じだ。


「女、女っていうけと、事務をしたり、補助したりして助けているのはその女たちじゃないの。きちんと正確な書類を持ってきてから言ってほしいわ」


聞いていた何人かの男性がバツの悪そうな表情をしていた。

反省するように。


「確かに、あんた達の言う通りだ」


「書いてあると確かめられるな」


コネクス商会とバルト商会から回された男たちは旗色が悪くなった。

何も言わず、後ずさり、逃げるように出て行く。

まだ、不安が消えたわけじゃない。

信用は、一度説明しただけでは生まれない。

何度でも向き合って、積み上げるしかないのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ