第43話 課された宿題
帰宅後、顔を洗う銀太を見ながら、ため息を吐いた。
「…宿題が重い…お酒飲みたい…」
脳内の小久保恵子が酒を寄越せと喚いている。
分かるよ、その気持ち。
私も飲まなきゃやってられない。
浴びるように飲んで、すべてを忘れて眠りたいよ。
けどね、未成年なんだよ、いまの私は。
三十五歳の半分の年齢なんだよ。
修行僧にでもなったつもりで諦めてくれ。
小久保恵子が白い灰になった。
「はぁっ…」
一難去って、また一難。
制度を優先するあまりに目を背けていた問題を指摘された。
いまの積立金で計算すると、支払えるのは十人程度だ。
加入者全員に支払うためには全く足りていない。
この人数で計算すると……
二クローネ三十リンギル×三十二=七十三クローネ六十リンギル
三十八か月経過しないと全員には支払うことができない計算になる。
三年と二か月。
しかも、その間何も無いということが条件だ。
支払えば積立金が減る。
加入者が減れば積立金の収入も減る。
そうすると、積立期間はさらに伸びる。
悪循環。
負のスパイラルというしかない。
八方塞がり…
あと、質問には保険金目的の加入、故意の事故や疾病、虚偽告知もあったな
小久保恵子さん、どうする?
夢見が悪く、あまり眠れなかった。
夢の中で、父が支払金が足りないと言って、支払金の代わりに銀太を差し出すのだ。しかも、差し出した相手が腹黒王太子殿下!
なぜ銀太を差し出す。
父の指にはごっつい宝石がついた指輪が嵌められていたのにだ。
「銀太より指輪を売れ、指輪を!」
という自分の寝言で目が覚めた。
寝汗と激しい動悸でこのまま心臓が止まるんじゃないかと思った。
父め、最低最悪だ。
ふぁぁ…
欠伸が…
眠気覚ましに濃いお茶でも飲もう。
お茶を淹れていると、私を呼ぶ声がした。
何だ?
「呼ばれました?」
「ああ、いてくれたか。アーチーの共済はどうなってる?あいつ、掛けてたか?」
ジェンキンスさんが焦った口ぶりで尋ねてきた。
カップを机の置き、急いで加入者台帳を開く。
ええっと…
「はい、加入されてます」
「三か月経ってるか?」
「制度開始からですので、経ってますよ。何かありました?」
「はぁっ、良かった。あいつ、猫を助けようとして、階段から落ちて左腕の骨を折ったんだよ」
「何ですって!それで猫は無事なんですか?」
思わず、大声を出してしまう。
「ああ、猫は無事だが…リザちゃん?」
猫は無事…良かった。
「アーチーのことだが…」
「猫を助けようとしての怪我、名誉の負傷、勲章ものです」
ジェンキンスさんが面食らっている。
私はコホンと咳ばらいをした。
「事故扱いとなりますから、四十リンギルのお見舞金がでます」
今日はもう金庫を閉めてしまっているため、支払いは明日以降になることを伝えた。
「出るんだな?」
「はい、出ます」
「そうか…」
ジェンキンスさんがみるからに安堵した表情を浮かべた。
支援金支払い……
三リンギル支払って四十リンギルの受取り。
確かに制度側は割に合わない。
気づかれないように小さくため息を吐いた。
「……リザちゃん、いつかは悪かったな」
ジェンキンスさんがぼそりと言った台詞。
前なら喜んでいたが、いまは少し重かった。




