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第41話 新しいことは目立つ

いつものように帳簿を付けていた。

あと数日で月末だ。

机の上の伝票と帳簿を合わせ、記載漏れがないかを確認していた。


「リザちゃん、これ頼む」


四十手前くらいの倉庫番の男の人が納品書を持ってきた。


「はい。ポールさんに?」


受け取った納品書を数える。


「ああ」


「六枚ですね。渡しておきます」


いつもならさっさと立ち去るひとがもの言いたげにいる。

なんだ?

不倫のお誘いならお断りだ。


「ジェンキンスさん、他になにか?」


月末が近いんだ。

忙しいんだから用件があるなら早く言ってくれ。


「…それとな…できるか?」


なにが?

主語はどうした、主語は。

私はエスパーじゃないんだ。

分かるか。

”おい、あれ”で通じるのは、三十年超のベテラン夫婦だけだ。

そう言えないので、小首を傾げておく。


「…共済だよ…」


小さな声だった。


「あ、はい。大丈夫です」


「どっから聞いてきやがって…俺は入る気なんてねえのによ、かかぁが入っとけってうるさくてよぉ…」


体裁が悪いのか、気恥ずかしいのか、最近こういう人がチラホラ現れる。


「掲示板の制度内容、ちゃんと読んでおいてくださいね」


「ああ。わかってるよ。じゃ、頼むな」


二リンギルを置くと、そそくさと出て行った。

加入者名簿に名前と加入した日を記入して、掛金を専用の袋に入れた。


「···はじめはどうなることかと思っていたが、踏ん張ったね、リザちゃん」


「ポールさん」


ポールさんは部屋から上半身だけを覗かせていた。


「見たこともない、誰もやったことがない事をやると、叩かれたり、悪く言われたりするものだよ。失敗や瑕疵が見つかれば、なおさらだ」


「はい。今回のことは、私の甘さが招いたことだと思ってます」


「それが分かっていれば十分だ。商売は三年続けば本物と言うからね。先ずは、三年を目指すことだよ」


先達からの励ましと助言をありがたく頂いた。


「そういえば……」


部屋へ戻りかけたポールさんが足を止めた。


「商工会で、君の制度の話が出ていたよ」


「え?」


「面白いことを始めた娘がいるとな」


思わず目を瞬いた。


「まぁ、褒めてるのか、警戒してるのかは半々だろうけどね」


ポールさんが肩を竦める。


「新しいことは、嫌でも目立つものだよ」




同じ頃、王城では。

天井付近にまである大きな窓からは、午後の陽射しが降り注いでいた。

窓の前には重厚な執務用机。

部屋の中央には金細工の施された応接台。応接台を囲むように椅子があった。

長椅子には上品な初老の婦人が座り、宰相が向いに座していた。

レオナードが羽ペンを置いた。


「ミレーヌ夫人、久しぶりだな」


「王太子殿下におかれましては、ご健勝のこと、お慶び申し上げます」


「城を辞した其方に、此度は無理を言ったな」


「何を仰られますか、お役に立てて嬉しゅうございますよ」


ミレーヌと呼ばれた夫人が微笑みを浮かべた。


「しかも、王太子妃に関わることなど。元女官長として冥利に尽きますわ」


レオナードが口元を僅かに綻ばせた。


「ミレーヌから見て、どうだ?」


ミレーヌは表情を引き締めた。


「王太子妃には適任かと、存じます」


「そうか」


「はい。ふふふ…そういえば、殿下からの御目付役とばれてしまいましたわ」


レオナードが眉を上げた。


「先日、”そこまでお手数をおかけするようなことでもなかったのですが、手回しをしていただき、ありがとうございましたとお伝えください”と言われましたから。状況をよく見ていらっしゃいますわ」


「早々に勘づかれるとは思っていたが…」


「しかし、あの令嬢は…」


宰相が口を挟む。


「手に負えないというか…」


「王太子妃、ひいては王妃になられるのです。お飾りでは務まりませんわ。宰相たる貴方はそんなこともお分かりではないの?」


「お前は、あの令嬢のことをよく知らんのだ」


「何をおっしゃいます。人見知りのジルが初見で懐いていただけでも稀なことですのよ。信じられますわ」


「国政を任せられるかを猫で判断するな」


ミレーヌが目を眇めた。


「私、知っておりますのよ。あなたが家で時折、ジルに相談なさっていることを。あなた、ジルが触れた方を献策していらっしゃるでしょ」


「な、なぜそれを!」


「家のことで私が知らないことなどありませんのよ」


「お二方、もういいだろうか」


レオナードが睥睨していた。

宰相が咳ばらいを一つした。

二人そろって頭を下げる。


「「失礼を、殿下」」


「他に何か気が付いたことは?」


「そういえば…”共済”とかいうものを始められましたわね」


「共済?」


レオナードの目が細められた。

興味を示す。

ミレーヌが商会であったことを話し出した。


「……金ではなく、不安を扱う仕組みか」


宰相の顔に真剣みが浮かんだ。


「…加入者で少額を積立ておき、死んだら一定額を遺族に支払う…か」


「路頭に迷うしかない者には救いでしょうな」


「上手くいっているのか?」


「少し問題が発生したようですが、解決したように私には見えましたが」


「面白い…本当にあの令嬢は私を飽きさせないな…」


レオナードの瞳が怪しく光った。






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