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第40話 少しづつ変わる

「おはよう、銀太」


いつものように銀太に先ず、朝の挨拶をする。

銀太は朝ごはんを早く出せという表情で私を見た。


「はいはい、下僕がいま、ご用意させていただきます」


銀太に朝ごはんを用意し、自分の分に取り掛かった。

パンと大家さんから貰ったコケモモのジャムに紅茶。

紅茶の湯気をぼんやりと眺める。

昨日は、正直、眠れなかった。

制度を続けるべきなのか。

私が余計なことをしたんじゃないか。

何度も考えた。

それでも朝は来る。

来てしまうなら、やるしかない。


「いただきます」


ジャムを塗ったパンを齧りながら、今日の予定を考える。

帳簿つけて、あれやって……

”なる様にしかならない”

と、気持ちを変えた。

”明日のことは思い煩うな。明日のことは明日自身が思い煩うであろう。その日の苦労は、その日一日で十分である”という言葉を思い出す。

考えたところで仕方がない。

小久保恵子の良いところは、諦めも悪いが、諦めもいいところだ。

制度に残っている加入者のためにも、制度の維持に向けてできる限り頑張ればいい。

窓から射しこむ朝陽を浴びて銀太が前足を出して伸びをした。




「ごめんください」


商会のドアにつけているベルが鳴り、どこかで聞いたような女性の声がした。


「ハンナじゃないか。どうしたんだい?」


アンナさんが出迎えた。


「近くに来たものだから…」


「あれから、どうだい?」


「馬車の停留所近くの食堂で働くことが決まったし、いつまでもくよくよしてられないしね」


「そうかい」


安堵したようにアンナさんが笑った。


「それと…」


ハンナさんが私を見て、頭を下げた。


「ありがとう。あなたが持ってきてくれたお金で私たち親子は立ち直れた。オリバーがくれた最後の贈り物を受け取ることができた…本当にありがとう。今日はこれが言いたくてきたの」


「あいつの”どうだ。俺は間違ってなかっただろう”っていうどや顔が目に浮かぶよ」


アンナさんがお道化て言った。


「絶対してるわ」


ハンナさんがちょっと顔を顰めて相づちを打つ。

そのあと二人は声を出して笑った。

胸が(つか)えた。

役に立ったことが目に見えた瞬間だった。

じわじわと暖かくなるのを実感する。

力になれた。

加入者同士で支えられた。

一人は支えられなかったけど、一人は支えられた。

涙が出そうになるのをぐっと堪えた。

まだ、泣かない。

泣くのはまだ後だ。


「よかったな」


ハンスさんの声。


「はい…」


少し涙交じりの声になった。


「泣いてるのかい?」


「えっ?」


アンナさんがハンスさんに詰め寄った。


「ハンス、あんたリザちゃんを泣かしたんじゃないだろうね?」


「そうなの?酷いじゃない」


ハンナさんがハンスさんに非難の目を向ける。


「ち、違う。違うよな、リザちゃん」


「大体、あんたはね……」


アンナさんのお説教が始まった。

私は焦るハンスさんが、なぜかおかしくて笑った。



共済制度の詳しい支払条件や注意する点を書いた紙を商会の壁に貼り出した。

もっと早くしなければならないことだったと反省する。


「もう一度、加入できるかい?」


後ろから声を掛けられた。


「……悪かったな」


職人さんは、ばつが悪そうに頭を掻いた。


「怖くなって辞めちまったけどよ。オリバーんとこ見てたら……やっぱ入っとくべきだと思った」


不器用な言い方だった。

けど、その言葉が嬉しかった。


「あ、はい」


私は手続きをするために机に戻った。



制度に懐疑的なひとはまだいた。

加入を躊躇しているひともいる。

それは仕方がない。

実績が薄いのだから。

実績を積み上げていけば、いつかは理解してもらえると信じる。


悪い流れがほんの少しではあるが、変わりつつあった。





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