第4話 王太子殿下リサーチ作戦
自慢じゃないが、恋人いない歴35年。
アプローチの仕方など分からない。
商品説明なら得意なんだが。
まさか、営業のおばちゃんよろしく、
「こんにちは。○○生命です。お時間よろしいですか?」
と声をかける訳にはいかないよな。
そんなことしたら引かれるわ。
いや、引かれるのは大歓迎だが、今はマズい。
どうするか······
学食、学生食堂···食堂?
そうだ、ここは社食。クソまずかった6階の食堂。
空いている席はあそこしかないという体で行けば自然だわ。
私は王太子殿下のテーブルに向い歩を進めた。
「ここ、よろしいですか」
そう言って、王太子殿下の右横に手に持ったトレーを置く。
ざわりとする周囲。
「エヴァンス家のご令嬢か」
「はい」
王太子殿下は視線で許可を出した。
視線一つで指示を出すとは上司スキルが高い。
流石だな。
本日のランチ、ポークソテーの温野菜添え。コンソメスープにくし切りオレンジ。パンは取り放題だったため、3個取った。
うん、美味しい。
食事を取り出して気がついた。
しまった。
私は基本黙食だった。
声をかけるにはどうするかと考え
手はさくさくと機械的に料理を口に運んぶ。
食べ始めて十分足らず。
完食。
どうする···
ふと目を上げると、王太子殿下と取り巻き連中がこちらに視線を向けていた。
この視線、見覚えがある。
信じられないという、呆れたというやつだ。
「何か?」
「いや、よく食べるな。しかも早い。演習中でもそんなに早くはないぞ」
近衛将軍の息子、ジルベスタがいう。
さっさと食べて仕事に戻るいつものクセが···
「食は体調管理の基本。しっかり摂るべきです。時間は有限。有効に使うべきでしょう。あっ、あなた、野菜残ってますよ」
目に入った事柄に注意をする。
つい、お局気質が出てしまう。
これ、マジでどうにかしないとな。
「苦手なんだ」
はぁっ?
これだから最近の子は···
いい年をして好き嫌いだと?
「食べなさい。ビタミン欠乏症で脚気や敗血症になりたいんですか。兵士を目指すなら身体づくりは基本でしょうが!」
「お、おう···」
ジルベスタがフォークをとり、残していた野菜をのろのろと食べ始めた。
よし!
···やってしまった···
さっき、気をつけようと反省したばかりじゃないか。
「時間は有効に使うべき···リザベッタ嬢は叔父のような物言いをするのですね」
宰相の甥のアランがいう。
きっと、宰相も社畜だな。
同胞を得た気分がする。
「意外な一面のを見ましたね」
クラウスが人好きのする笑みを浮かべた。
そりゃそうだわ。
中身が違いますから。
待て、待て。
本命と話さないで取り巻きと話してどうする。
私は必死で話題を探るが、何も出てこない。
締切スケジュールなら空で言えるんだが···
途方にくれて、横目で王太子殿下を盗み見た。
王太子殿下の制服にキラリと光るある物を見つける。
あれは!?
自然と手が伸びた。
「な、なにを」
王太子殿下がサッと身を引いた。
私は構わずにじっと手にしたものを見た。
手が震える。
「こ、これは猫の毛!白い部分と黒い部分がある···ということは、持ち主はグレーの縞模様の猫!」
「当たってる···」
王太子殿下が呆然として言った。
「しかも、この固さ···成猫ね」
「なぜ、分かる?」
「なぜわかるか?飼い猫歴30年、猫の下僕をなめるんじゃない!」
「30年?下僕?」
はっ、猫の毛に興奮して要らんことをいってしまった。
誤魔化さねば···
「さ、30年猫を飼っている下僕からの手ほどきです」
「リザベッタ嬢は猫が好きなのか?」
猫が好きか?
愚問だ。
猫のために社畜と化したわ。
ああ、あの子はどうしてるかなぁ···
ちゃんとオヤツとご飯食べてる?
母よ、猫積立を使い込んでないだろうな。
弟よ、トイレシートや猫砂の交換は小まめに頼む。
父···はいいか。
残してきたきた愛猫に思いを馳せていると、反応がないことを心配したのか、
「リザベッタ嬢?」
王太子殿下が顔を覗き込んできた。
整いすぎた顔は心臓に悪い。
「猫が好きかと?論外です···耳の後の和毛は触るだけで涙がでますし、肉球は国宝にしてもいいと思っますし、お腹に顔を埋めての猫吸いは基本ですね」
「そうか」
「ええ、」
「一度、会いにくるか?」
「いいの?!」
「招待しよう」
聞き耳を立てていた周囲が息を飲んだ。
あれっ?
何か違わないか?
さり気ない情報収集が目的だったよね。
それが何で招待に?
私は眉間に皺を寄せた。
食堂の隅で男爵令嬢が醒めた目でこちらをみているのがわかった···
アランを宰相の息子から甥に変更しました。




