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第38話 初支払いとトラブル 助ける仕組み、零れる想い

小口共済を始めて三月半が過ぎた。

本人なら月二リンギル。

家族は一リンギル。

その代わり、加入から三か月を過ぎていなければ支援金は支払われない。

と、仕組み自体は単純だった。そのため、加入を希望する人たちも増えていった。

商会に勤める半数の人たちが加入している。

説明したはずなのに、どこまで理解されているのかは怪しかった。何処かにこの支援制度の内容を書いたものを置いておく方がいいかなと思い始めた。

支援金は順調に集まっている。

集めたお金はポールさんの好意で商会の金庫に入れさせてもらっているが、そろそろ、ちゃんとした預け先を探した方がいいかもしれない。

窓口業務もあるし、いつまでも兼業する訳にもいかない。

どうしようかな···

来客用の部屋からポールさんが出てきた。

外出するのか、上着を羽織っている。


「商工会へ行ってくるよ」


「はい、気をつけて」


ポールさんがこちらを見る。


「この制度を始めた時には、どうなるかと思っていたんだがね···」


ポールさんが苦笑を浮かべていた。


「半数が入ったんだって?」


「はい。この制度を通じて、万が一のことを考えているんだと思います。」


「そうだね。まぁ、頑張りなさい」


ポールさんが商会を出ていった。

労いの言葉に頬が緩んだ。

帳簿付けをして暫く経った頃、乱暴に商会の入口が開いた。

な、何事?

職人らしき中年のひとが慌てた声を出した。


「た、大変だった!倉庫で荷崩れを起こした。店主はいるか?!」


「先ほど、商工会の方へ行かれました」


「ちっ、こんな時にいねえのかよ。三人、荷崩れに巻き込まれやがったんだ」


「あ、私、呼んできましょうか?」


「すまねぇ、頼めるか。俺はハンスの奴を探す」


「はい」


商会の入口に終了の看板を出した足で、私は商工会へと走った。

崩れた荷の下敷きになった三人は全員が帰らぬ人となった。

三人のうち二人は共済に加入していたが、残りの一人は加入していなかった。


「こんなに早く使う日が来るなんてね…」


アンナさんがしんみりとした声で言った。


「本当は、制度を使うことがないのが一番いいんですが…」


「そうだね…で、今日持って行くんだろう?」


「はい。アンナさん一緒に来てもらっていいですか?」


「ああ、オリバーもあいつの連れ合いのハンナも幼馴染だからね」


私はアンナさんに確認してもらい、二クローネ三十リンギルを入れた袋に封をした。

支援金を届けるはずなのに、足取りは重かった。

アンナさんも私も言葉少なに歩いていた。

ハンナさんは、アンナさんを見ると堰を切ったように泣き出した。

子どもの手前、我慢していたのだろ。

背中をさするアンナさんの目にも涙が滲んでいた。

ハンナさんが落ち着いたころ、私はアンナさんに袋を渡した。


「これさ、少ないけど」


「これって…」


「これから生活が大変だろう?あいつが、家族のためにって入って共済からの支援金だよ」


「あの人が?」


「そんな柄じゃないのにさ、照れくさそうに入ってたんだよ。家族のためだってさ。あんたたち事が大事だったんだね」


ハンナさんは再び嗚咽を漏らした。

オリバーさんが急にいなくなり、これからどうしようと不安だったらしい。

支援金があることで、不安が少し減ったといい、この制度があることと夫のオリバーさんに感謝をした。

役立ったことが嬉しい。胸の奥が、少しだけ救われた気がした。


「どういこと!何でうちはもらえないの!」


もう一人の加入者であるグレインさんの奥さんが商会に乗り込んできた。


「オリバーさんとこは貰えて、うちが貰えないなんて不公平じゃない」


「オリバーさんは、制度が始まってすぐに加入されたので、支払条件の三か月を満たしていました。けど、グレインさんは先々月からの加入で、支払条件を満たしていなかったんです」


支払えないことを説明をする。


「たった、一か月じゃないの、全額とは言わない、一部だけでも支払ってよ」


「……ごめんなさい。それはできません。それをしてしまったら、この制度が壊れるんです」


「じゃあ、うちは運が悪かったっていうの!?」


何も言えなかった。


「払ってやれよ」


仕事仲間だったのか、誰かの声がした。

私だって、支払えるなら支払ってあげたい。

けど、例外を作るとそれが慣例になってしまい、制度自体の崩壊につながる。


「そうだよな。掛金払ってるんだしよ」


「オリバーのところには払って、グレインのところには払えないって納得いかねえ」


「オリバーはアンナの幼馴染だったからか?」


「依怙贔屓だろう、それじゃあ!」


「どうなんだよ、ええっ!!」


「この制度を維持していくためには、支払条件を曲げることはできません」


私は顔を上げた。

制度を守るために―

私は鬼になるしかない。


「万が一の事があった時にお支払いするためにも、掛金の積立総額とお支払いする総額が同じでないと維持はできないんです。また、公平に支えるため、支払いに備えるためにも三か月を過ぎないと支払いができないと決めたのはそういう理由があります」


お腹に力を入れて声を出す。


「例外はありません。例外を一度でも作れば、決まりはなし崩しになってしまいます」


誰も口を開かなかった。

けれど、向けられる視線だけで分かった。

――この制度は、いま試されている。













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