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第26話 勘が良すぎるあの人

(これだけ探しているのに見つからないとは……)


レオナードは長椅子に身を投げ出した。

固く結ばれていた襟元を緩めた。

触書をだした。

できる範囲で人員を割き、捜索隊を編成した。

時間ができれば自ら足を運んだ。

だがー見つからない。


(さすがと褒めるべきか、見事だというべきか……)


リザベッタが本気を出すと自分ではどうすることもできないと知った。自分には知略、技量、共に足りない。

対等に話せる稀有な人物。

王太子より猫を優先する変わった令嬢。

貴族の女性なら誰もが望む最高位。

なにが不満だったのか。


(…わからない)


リザベッタが持ってきた布の筒からアルは頭を出して寝ていた。


「お前はいいな…」


無意識に呟いた。

扉の外から控えめな音がした。

応えをひとつ。

侍従が入室してきた。


「失礼いたします」


「何か」


「お伝えしていいものかと迷っておりましたが、やはり、お伝えしたほうがいいと思い参りました」


「話せ…」


「先日、猫を保護されたことを覚えていらっしゃいますか?」


「ああ。アルに似た猫だろう」


侍従が頷く。


「似ておられました……あの方に」


レオナードは身を起こした。

侍従に鋭い視線を向ける。


「どういうことか?」


「一つ目は、探している猫の特徴を些細な部分まで的確に説明されました」


「……他には?」


「平民の女性にしては、物事を見る視点が深すぎました。普通の平民なら、保管管理や確認方法の簡略化など気にしないはずです」


レオナードは去って行った後ろ姿を思い出した。


「……宰相とエヴァンス卿を呼べ」


侍従が礼をして下がっていく。

扉が閉まる。

レオナードは再び長椅子に身を預けた。

宰相たちが集まるまで、暫し、目を閉じる。


「殿下、お二人が隣室でお待ちです」


侍従の声にレオナードは目を開けた。

侍従が近寄り身支度を整えるのを待ち、隣室へ向かった。

宰相とエヴァンス公爵が立って頭を下げた。


「二人とも楽に」


「何かありましたか、殿下」


「ああ。手がかりが見つかった」


「そ、それはリザベッタの…」


ガバッとエヴァンス公爵が顔を上げた。

憔悴していた顔に生気が差した。


「リザベッタ嬢は、どこにいらっしゃたのでしょうか?」


「場所はまだわかっていない」


エヴァンス公爵がガックリと肩を落とす。

宰相が横目で”これほど感情の起伏が激しくて、血圧は大丈夫か?”と様子を伺った。


「そこでだ―罠を張る」


「罠…ですか」


「足取りを完璧に消しているリザベッタだ。探し出すの困難に近い」


「確かに」


「リザベッタが出てこざる得ないようにする」


「出てきますか?こう申しては何ですが、私が病だと知っても出てこないような気がします。猫の体調管理には細心の注意を払うくせに、私には完全無視。乾布摩擦でもしていればいい、だそうで…どう思われます、宰相殿」


「乾布摩擦とは?」


「なんでも、一年を通して、上半身裸で乾いた布で擦る健康法で、風邪を引きにくくなるのだと申しておりました。真冬にこそしろというんですよ、真冬に」



「斬新ですな…心臓にきそうですが…」


宰相が言葉を濁す。

レオナードが咳ばらいを一つし、


「話を戻していいだろうか?」


「「申し訳ございません」」


「いや…公爵も先ほど申していたように、リザベッタは猫を溺愛している」


「そうですね。わが娘ながら異常なほどですが」


「…そこでだ……」


レオナードは、低く声を落とし、その内容を密かに告げた。

シャンデリアの明かりが薄暗くなった部屋を照らす。

壁に映る三人の影が蠟燭の揺らぎとともに揺れていた――。



―ゾクリ。

理由のない寒気が、背筋を撫でた。

風邪引いたかな?

ベッドの上では銀太がへそ天で寝ている。

お前は猫だぞと笑いながら言った。

穏やかな日常。

明日も――同じように過ぎればいいな。




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