第24話 逃亡者と銀太の暴走
やりやがった、あの元凶王太子殿下。
街中に触書を出した。
しかも、似顔絵付きで!
ハンスさんが触書を持って帰ってきたときの衝撃は忘れられない。
伝票を確認して、日付ごとに紐で綴る。
帳簿を開いたとき、ハンスさんが外回りから戻ってきた。
「えらい騒ぎだ」
「なにかあったのかい?」
アンヌさんが顔を上げた。
「おうよ、この前噂になってただろ。王太子殿下の」
「ああ、あれかい」
ペンを持つ手がピクリと動いた。
何か進展があったのかと注意深く耳を澄ました。
「お触書が出たんだよ、しかも似顔絵付きだ!」
「へぇーっ」
指名手配された…
とうとう指名手配犯だ。
「リザちゃん、気になるのかい」
「そうですね、ちょっとは…」
心臓がバクバクしているが、必死で平静を繕った。
「そう思って、持って帰ってきてやったぞ」
ハンスさんがどや顔で触書を取り出した。
「ちょっと、見せなよ」
アンヌさんが横から搔っ攫う。
「へぇー…何かリザちゃんに似てるねぇ…」
「お、やっぱりそう思うかい?」
一瞬、息が止まった。
サーっと顔から血の気が引いた。
「まさか…私にも見せてもらえますか?」
震える手を叱咤しながら触書を受け取った。
触書に書かれた私の似顔絵。
……
微妙…
似ているような似ていないような。
写真の無い世界でよかった。
これなら誤魔化せるか…
「そうですか?似てないと思いますけど?」
「そうかい?」
「そうですよ。本人ならここで帳簿なんて付けてませんよ」
「それもそうだね」
「それよりも、アンヌさん、ここなんですけど…」
話を変える。
ハンスは?とみると机に脚を上げて、お茶を飲んでいた。
ほっとする。
いまは誤魔化せたが、対策を取ったほうがいいな。
眼鏡でも掛けるか…
「ごめん」
商会の入り口に王城のお仕着せを着た人物と護衛の兵が立っていた。
…今日は厄日か。
帳簿を付けるふりをして、顔を見せないよう俯いた。
「何か御用でしょうか?」
アンヌさんが対応にでた。
「ああ、これをどこかに貼ってもらえないか?」
何やらを取り出し、アンヌさんに渡している。
触書だ。
一体何枚作らせたんだ?
税金の無駄だから。
国民の血税は大切に使ってください、王太子殿下。
「わかりました、どこか目立つところにでも貼っておきますよ」
「頼んだぞ」
何事もなく帰りそうだと安心した、次の瞬間、
「ああ、そこの娘」
びくりと体が強張った。
見つかったか――
「先ほど、紙が一枚落ちたぞ」
違った……
「あ、ありがとうございます」
くぐもった声でお礼をいいつつ、落ちている伝票を拾うために身を屈めた。
一行が出ていく。
背中にどっと汗が流れた。
この調子では街中に触書が出回っていると思った方がいい。
捜索隊も編成されているな、きっと。
どうする、リザベッタ……
疲れた……
私は部屋に帰ると、思いっきりベッドにダイブした。
ベッドに寝ていた銀太が迷惑そうな表情で私を見る。
どんな表情しても可愛い。
今日は特に癒される…
見つかったら最後だと、びくびくしながらの帰路。
生きた心地がしなかった。
それでも、部屋には銀太がいると、ともすれば、すくむ足を前に出し帰ってきた。
一息ついたところで、大家さんからのお裾分けで銀太と夕食を食べる。
私にはスープとおかず、銀太には鳥肉を茹でてほぐしたもの。
ありがたい。
明日、休日でよかった。
部屋から一歩もでない。
絶対に。
銀太と引きこもり予定だ。
朝。
いつもと変わらない日常に安堵する。
銀太は窓際で日光浴。
銀太が外に出ないように窓を小さく開け、簡単に掃除をする。
モップを片付け、窓際の銀太を見る。
何かを見つけたのか、銀太が窓を前足でこじ開け、飛び出した。
―えっ!?
「ちょ、ちょっと、銀太!?」
銀太の後を追うため、慌てて外へ飛び出した。
銀色の影を追いかけて走る。
―速い。
ずんぐりむっくりのくせに。
広場の方に向かっている。
人混みに紛れる銀太。
見失ったら最後だ。
私は目を凝らして銀太を追った。
ふと銀太が足を止めた。
よ、良かった…
銀太が見知らぬ人の足元にすり寄った。
「銀…」
声を掛けようとして、息を呑んだ。
視線の先…
銀太がすり寄っていたのは――




