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第22話 悪役令嬢、マリエッタと街を歩く

「リザベッタ様、本当によろしいでしょうか?」


マリエッタが当惑気味に尋ねてきた。


「いいのよ、問題はないわ」


人のざわめきと喧噪。

活気ある街並み。

荷馬車が行き交い、往来する人々。

煉瓦や木材で建てられた家屋はどこか懐かしい、絵本のような街並みだった。


「王太子妃になられる方が供も付けずになんて…」


「いたら何も見れないでしょ」


私は強引にマリエッタに街を案内させていた。

昨日、隙を見て学園の人気のない場所にマリエッタを連れ込んだ。

念のため、辺りを確認し、顰めた声音で訊く。


「マリエッタ、貴方、街を歩いたことはある?」


「ありますけど…」


思った通りだ。

ニヤリと腹の中で笑う。


「なら、案内しなさい」


と上から目線で言う。

反論は受け付けないという圧もかけるもの忘れない。


「えっ?でも…」


「明日のお昼にここで。いいわね」


交渉事は相手に考える隙を与えてはだめだ。

有無を言わさずにその場を去った。

いつもの高級ドレスだと目立つので、平民が着るようなドレスを着ている。

背格好の似たメイドから一着融通してもらった。

対価はクローゼットにかかっているドレスとの交換。

メイドは「過分すぎる」というが、口止め料も込みだ。

他言無用を約束させた。


「ここは商店街?」


「は?商店?」


マリエッタは怪訝そうな表情を浮かべた。

しまった。


「商店が立ち並ぶ場所なの?」


「ああ、そういうことですか。そうです。この辺りは主に生活に必要な雑貨を売ってます」


「市場とかはどこ?」


「この先の角を曲がったところにあります」


「どこで暮らしてるの?」


「裕福な方は三ブロック先で、普通は五ブロック先になります」


防犯面を考えると三ブロック先か…家賃高そうだな。


「五ブロック先の治安ていい?」


「?」


首を傾げるマリエッタ。


「子どもが一人でも歩けるかってこと」


「領地でそうでしたけど、場所によると思います。裏路地なんかはちょっと…」


場所次第ってことね。


「リザベッタ様、なぜそのようなことをお聞きのなられるのですか?」


しまった。

考えてなかった。

そりゃ、疑問持つわよね。

どうする…?


「えっと…」


言い淀む私にマリエッタは


「わかりましたわ!」


え?

何が?


「視察ですね。平民が生活に苦労していないか、困ったことはないかをご自身の目で確認されているのですよね!」


「そ、そうよ」


「さすがはリザベッタ様。そういうことでしたら、マリエッタにお任せください。ご案内します」


「ありがとう」


変な方向に勘違いしてくれたのは勿怪の幸いだけど。

…やっぱりこの子、方向性が違う…

私の目が遠くなった。

それからのマリエッタは積極的に街の情報を教えてくれた。

労働賃金、生活費、家賃相場ー

必要な情報はひと通り頭に入れた。

この点に関しては、見直した。

なにかしら取柄はあるもんだな。

平民街へも足を延ばし、物件を見て回った。

市場や食堂が立ち並ぶ辺りも歩いた。

さすがに歩き疲れたな…

広場に出たところで、ベンチに腰掛けた。

午後の陽射しが噴水の水にあたりキラキラと輝いていた。

風が心地いい。

ぼーと頭を空にする。

やっぱりいいな。

だれに気兼ねをすることがない、息ができる。

それだけで、こんなに楽だなんて。

隣に座っているマリエッタに感謝を告げる。


「今日はありがとう」


「お礼なんて…お役に立ててよかったです」


にっこりと笑うマリエッタ。

根はいい子なのよね、ホント。

パンさえ絡まなきゃ。

ごめんね、マリエッタ。


「あのさ、これからいろいろあると思うけど、頑張るのよ。貴方なら、大丈夫よ」


「なんですか、まるでお別れみたいですよ。マリエッタはリザベッタ様に付いていくんですからね」


返事ができずに笑って誤魔化した。


「さあ、帰りましょうか」


「はい」


ベンチから元気よくマリエッタが立ち上がった。

学園まで他愛のない話をしながら歩いた。

学園の門の前、陽が沈みかけてくる中で、私は厚くなった封筒を取り出した。


「これ、渡しておくわ」


「これは?」


「後でみなさい。きっと役に立つわ」


マリエッタは厚くなった封筒を胸に抱いた。

私はあえて、「ごきげんよう」とはいわずに


「さようなら」


と言った……





それから五日後。

婚約発表を一週間後に控えたその日、私は消えた。

銀太と共に――

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