第15話 猫に嵌められて婚約した悪役令嬢
ドンドンドン!
ドアが激しく叩かれる。
ドアを開けようとする父。
そうはさせじと背でドアを押し、開けられるのを死守する私。
「開けなさい、リザベッタ!」
誰が開けるか。
開けたら地獄が待っているじゃないか。
「まったく……何が不満なんだ…せっかく、正式に婚約の打診が来たというのに」
黙れ、父。
王族の末席に連なれば、窮屈で人目を気にする生活。
そんなの私には不満だらけだ。
「旦那様、リザベッタ様はきっと、恥ずかしいのですよ」
「そんなものか?」
「リザベッタ様はお年頃ですから」
メイド長と執事が父にいっている。
勘違いも甚だしい。
恥ずかしいだけで身体を張って入室を拒否する令嬢がどこにいる。
全力で拒否しているのがわかりそうなもんじゃないか。
大丈夫か、この家。
「旦那様、王太子殿下がお見えになられました」
「な、なに。すぐに行く」
は?
王太子殿下が?
何しに来た。
はよ、帰れ!
父が慌てて居なくなったのを気配で察した。
居なくなったので全身の力を抜いた。
額に浮いた汗を拭う。
王太子殿下の相手で、当分はこちらには来ないだろう。
その隙にバリケードでも作るか?
部屋を見渡す。
高級そうな家具に気後れした。
脳内で庶民の小久保恵子が
「身体を張れ」
と言っている。
だな。
はー……
どうしてこうなった……
いや、理由は分かっている。
あの株式化の案だ。
中世期の経済市場のこの時代に株式化して市場を回すなんて発想はない。
そりゃ、画期的だ。
そんな経済の提案されたら、宰相が喰いつくのも無理もない。
宰相まで婚約を推挙するなんて計画にはなかったわよ。
そのせいで、陛下の乗り気も加速して、婚約話が一気に具体化してきた。
最悪の展開じゃない。
もうね、死ぬ気で悪役令嬢演じるしかないじゃない。
どうしよう……
何か事件を起こす?
あれ?
何か廊下が騒がしくなってきた……
父が何かを叫んでる
「殿下、お待ちを!」
王太子殿下がこちらに向かって来ているのだろう。
はあ?
家のプライベートな部分にまできたの?
この時代の認識はどうなっているのよ。
王太子殿下だからって来ていいわけないよね。
父よ、家長として言ってやって!
「その、リザベッタは朝から……」
言えよ、ハンガーストライキ中で部屋に籠っていると。
この際だ。
引きこもりになったと言っても許すから。
「お恥ずかしながら、開かずの扉となっており、誰とも会おうとしませんで…」
「誰とも?」
「ああ、勘違いしないでください。婚約が嫌というのではなく、あーその、恥ずかしがってですね…あれも年頃ですので……」
婚約が嫌だから閉じこもっているんじゃないか。
何、歪曲しているんだ。
情報は正しく伝えなきゃだめでしょが!
「リザベッタ、ここを開けなさい」
父の悲壮な声がする。
無視。
ここは開かずの扉。
天岩戸だ。
開けるものか。
「エヴァンス卿、私に」
「しかし、殿下」
「いいから」
代わったところで誰が開けるか。
開けて欲しけりゃ、婚約話を反故にするか天宇受賣命を連れてこい。
私はドアを押す全身に力を込めなおした。
ミャァ……
…え?
ええ?
ミャァ?
力を入れ過ぎて、幻聴?
「リザベッタ、約束していたアルのきょうだいを連れてきたのだが?」
アルちゃんのきょうだい!?
ばっとドアを開けた。
脊髄反射だった。
「どこ?」
「ほら、ここに」
王太子殿下が提げているバスケットの中にアメリカンショートヘアがいた。
私好みのずんぐりむっくりの体型。
口周りの白い部分が少し広いのがなんとも言えない。
その子は顔を傾げて私を見ている。
首におしゃれなカラーをしていた。
「さあ、受け取って」
「いいの?……ありがとう」
震える手でその子を抱っこした。
ああ…
至福……
「君に会うと思ってな。…気にいった?」
声に成らずに頷いた。
感動で涙が出た。
「大切にするから…絶対に大事にするから」
「そうしてくれると、私も嬉しい」
王太子殿下が満足気に微笑んだ。
父よ、これで反対はできないぞ。
父を見ると、満面の笑みを浮かべている。
周囲も喜んでいる。
え?
みんな猫好きだったの?
それならそうと言ってよ。
「これで形式は整った。あとは正式な発表だけだ。エヴァンス卿、リザベッタ、では、これで失礼する」
王太子殿下が颯爽と歩く。
父が王太子殿下を先導し、御付きが後に続いた。
「「リザベッタ様、ご婚約おめでとうございます」」
メイド長をはじめとする使用人一同が頭を下げた。
は?
何言ってんの?
「婚約した覚えはないけど?」
「何をおっしゃっているのですか」
はいっ?
「ご婚約のお品をお受け取りなられましたでしょう」
猫は貰ったけど…?
どこに婚約の品があるっていう……
腕の中の猫の首元がキラリと輝いた。
カラーに大きなサファイアが付いている……
策略に嵌ったー!!
完全に、嵌められた。




