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第14話 なぜか婚約者にされそうです

ふと明治の文豪、夏目漱石の小説の一説が思い出した。

『智に働けば角が立つ。情に掉させば流される。とかく人の世は住みにくい。』

まったく、そのとおりだ。

小久保恵子―いや、リザベッタとして、自分の立ち位置を見失っていた。

他人の感情に配慮し過ぎたり、人情に流されている場合ではない。

このままでは私の誰にも縛られない人生設計が詰む。

猫、まっしぐらなら大歓迎だが、王太子妃へまっしぐらなどごめん被る。

悪役令嬢として、決定的に、取り返しがつかないほど嫌われる計画の策定。

断罪され、平民落ちへ。

丸刈りに鉢巻をしたガッチリ体型のオヤジが叫んでいる…

気合いだ、気合いだ、気合いだー!

…よし。

ここから巻き返す。

私は計画設計書を広げた。

設計書は断罪計画と生活設計計画の二部構成だ。

平民におちたときの生活設計は大事だ。

生きていく上で必要最低限のお金は持っていないと猫に不自由な生活を強いるし、お酒も飲めないから。

伊達にファイナンシャルプランナー1級ではない。

投資で儲けますとも。

投資以外にも商売アドバイスをする予定だ。

知識なら売るほどある。

ドンと来い!

いや、いま集中するのは、断罪計画の方だ。

赤ペンを手に取ると、修正を書き込み始めた……




眠い……

俗に言う"六当五落"は正しかった。

修正に熱中するあまり、四時間しか寝ていない。

馬車に揺られる間、何度意識が飛び、そのたびにハッと起きたことか。

認知能力もいまいちだし。

集中力も落ちている。

今日はやることをやったら、さっさと帰って寝てやる。

学園に着くと、真っ先にマリエッタを探す。

石造りの廊下を見苦しくない程度で足早に歩いた。

アーチ状の窓から射す陽射しが寝不足の目に眩しい。

この計画の要の一つは、マリエッタにかかっている。

寸暇を惜しんで修正した計画書を渡さねば。

戦略の共有は重要。

マリエッタの勘違い行動は戦略の共有がなされていなかった弊害だ。

しっかりとマリエッタに叩き込まねば……

……なんでいないのよ。

授業始まってしまうじゃないの。

焦る。

いた!

マリエッタに近づくと、計画書を手渡す。


「これからの計画だから、しっかり理解してね。おかしいことやわからないことがあったら、あやふやにせず、必ず、私に確認して」


念のため、釘を刺す。

どうとるかは本人次第。

……嫌なことを思い出した。

確認をせずに勝手に処理をした部下のせいで、何度、仕事が増えたことか

リ〇〇ン片手のやり直し残業、涙したわよ。

”そう思ったんです”

”私はこうしたかったんで”

なんで勝手に解釈するかな。

聞けよ!

手順には理由があるんだ。

苦々しい思い出に微かに眉を顰めた。

マリエッタは計画書を握りしめて


「しっかりと読みます」


力強く言った。

大丈夫だろう。

授業が始まる鐘がなった。




ありがたくもない王太子殿下からの呼び出し。

……今度は何だ。

行きたくない……

極力避けたいのに、なぜ呼び出すかな。

暇なのか?

ミスを押し付けるために呼び出しする上司を思い出した。

はあ……

足が重い……


「お呼びですか、王太子殿下」


王族専用の部屋にいた王太子殿下にカーテシーをする。

学園に専用の部屋とか経費の無駄。

毎年王族が通うとは決まってないだろうに。

私ならこういうところは削減対象に計上する。


「堅苦しい挨拶はいい。楽に」


「いえ、そういうわけにいきません」


線引きは大事。

他人行儀大賛成。


「相変わらずだ」


王太子殿下が苦笑した。


「聞くところによると、猫をまだ飼えていないとか」


誰のせいだよ。

あんたが変なことをのたまったから、父が


「軽々しく動物にうつつを抜かすわけにはいかん」


とか言って、私の愛猫計画は頓挫したわよ。

不敬とは思うけど、睨みつけたい……


「はい」


呪詛を込めて返事をしてやった。

ふん。


「アルのきょうだいがいるのだが、どうだろうか?」


えつ!?

天使?

アルちゃんのきょうだいということはアメショーよね。

あの子と会えるの?

ええ、あの子じゃないことは分かっているわ。

分かってはいるけど、姿だけでも似ている子に会えるのは嬉しい。

ど、どうしよう……

女の子がいいかな、やっぱり、今回も男の子にしようかな?


「リザベッタ?」


両手で王太子殿下の手を握った。


「本当に?いいの?」


「ああ」


王太子殿下から下賜されたとなれば、父も文句はつけられない。

ああ、バラ色の日々が……

……うううっ

涙が出てきた。

猫神様が降臨なされる。

王太子殿下の指が目じりに浮かんだ涙を拭う。

あ、すみません。

お世話かけます。


「リザベッタ、話が……」


今さら、"嘘です"は聞かない。

王族たるもの言葉には責任を持っていただかないと。


「王太子殿下…」


「こちらにリザベッタ嬢はいらっしゃいますか、殿下」


応えも待たず、バン!とドアが開いた。

取り巻きアランとマリエッタが入って来る。

だから、礼儀はどうした!!


「ああ、リザベッタ嬢。私は何といえばいいのか」


アランがものも言えず、プルプル震えていた。

言えないのなら無理に言う必要はない。

それと、急な興奮は体に悪いわよ。


「アラン、どうした」


「殿下、これをご覧ください」


と出したのは、私がマリエッタに渡した断罪計画書……

え?

マリエッタ、あなた見せたの?

しかも、宰相の甥に。

……よくやった!

アランのあの態度は糾弾のだったのね。

さすがはマリエッタ。

ちゃんと私の意図を組んで行動してるじゃないの。

もしかして、この子、ポンコツ?と一瞬でも思って悪かったわ、マリエッタ。

あなたはできる令嬢だった。

さあ、王太子殿下、断罪の宣言を。

私はいつでも準備はできてるわ。

あ、でも、アルちゃんのきょうだいの件はよろしくお願い。

王太子殿下が真剣な表情で設計書に目を落としている。

眉間に皺。

いいぞ。


「リザベッタ…」


「はい」


腰を落とし、ウキウキと沙汰を待つ。


「国家運営に必要なのはこういう視点だ。見事だ」


はい?


「経済をどう回すかが、問題でした。この案は素晴らしいです。叔父に草上してよろしいでしょうか?」


宰相に草上?


「未来を見据え、民の生活まで考えていらっしゃるなんて!」


マリエッタは頬を紅潮させている。

いや、考えてないし。

それ、断罪計画書よね…?

ちょっと、それ見せて。

私は王太子殿下の手元を覗き込んだ。

……これ、生活設計の方じゃないか……


「余剰資金を投資という名目で集め、必要な場所に出資する。出資を受けた者は配当として還元するなど誰が思いつくだろうか」


違う!

それ、断罪計画の副産物だから!!


「将来をここまで現実的に見据えている令嬢は初めてだ。他の令嬢と違う。対等に話せるとは」


王太子殿下が感心したように呟く。

感心なんて要らない。

上司のように


「女のくせに小賢しい」


と嫌悪にして。


「無駄がない……国家運営に通じる発想だ」


「殿下、私は賛同いたします」


その賛同、要らんっ!!


「感情ではなく計画で動く。国家運営に必要なのはそういう人間だ」


「殿下、リザベッタ様こそ相応しいお方です!これ以上の方はいません!」


マリエッタ。

あなたやっぱりポンコツよ。

なぜ、私に確認しないの。

言ったわよね、おかしいことがあったら聞いてと。

王太子殿下の婚約者に突き落として、どうするのよ!

婚約者になるのはあなたのはずよ、マリエッターっ!!
















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