第13話 王太子妃街道待ったなし
炎上ウェルカムの服装指導が、評判爆上がり。
策略が裏目にでた反動でくたくただった。
私は重いからだ引き摺って公爵邸に帰った。
自慢ではないが、私は庶民中の庶民。
小久保家は由緒正しき庶民一家だ。
父が35年ローンを組んで買った建売住宅は、駅から徒歩18分の2階建て4LDK。お情け程度の車庫。猫の額より狭い庭。
そこで育った人間だ。
それなのに――
豪華絢爛な公爵邸は、どうにも落ち着かない。
公爵家の娘だから、お高そうな置物の壊したところで、壊しても弁償は求められないだろうが、心臓に悪い。つい、触れないよう無駄に広い部屋のど真ん中を歩いてしまう。
ぞろぞろいる使用人に傅かれることにも慣れない。
どこに居ても人の目があるのは落ち着かないったらない。
罪人でもあるまいし、監視かって言いたくなる。
自分の部屋だけが、唯一の安息地――のはずなのに……
「リザベッタっ!」
だから、父よ、ノック!!
距離感やプライバシーの尊重を無視した行動は辞めろと言っているだろう。
今日こそは年頃の娘に対する心得を滾々と説明せねば。
パーソナルスペースに踏み込むなど言語道断。
世間で娘から父親が”ウザい”と嫌われるのはそういうところだ。
「お父様、何度も……」
「お前はエヴァンス家の誇りだ!」
父が私の抗議を遮るように言った。
は?
ほこり……?
ハウスダストになった覚えはないが?
「陛下よりお言葉を賜ったぞ」
掃除しろとでも?
「お前が王太子殿下と私的に会っていることが、お耳に入り、王太子殿下にお聞きになったそうだ」
は?
ちょっと、ボケを噛ますのは一旦止めよう。
嫌な流れだ。
何を聞くっていうのよ。
単にアルちゃんに会いに行ってるだけだが?
……待てよ。
もしや、やらかしてたリザベッタの噂を耳にした王様が、
「悪役令嬢と言われている令嬢と親しくするなど許さん!」
とでも諫言したとか。
OKだ。
家臣の令嬢として謹んで従わせてもらいますとも。
アルちゃんと会えないことが悲しいが……
そこは武士の情け。
月に一回の面会を許してもらおう。
子のいる夫婦の離婚の条件でも認められるし。
脳内で着古したスウェットを着た小久保恵子がチューハイ片手にガッツポーズをしている。
となると、計画に修正が出てくるな……
断罪から勘当に変更しないと。
「リザベッタ嬢は他の令嬢とは違うと。王太子殿下はそうお答えになったそうだ」
あ?
「それを聞かれた陛下は、お前に強い関心をもたれてな。私に内々にそういうこともあるから心しておけと……王太子殿下との婚約も近いぞ、リザベッタ。よくやった!」
――――は?
父の発した一言がほくほくしている私を地獄へと突き落とした。
な…なんて言った?!
婚約も近い?
「王妃教育の準備も進めるそうだぞ」
は?
「作法、政治、外交、歴史……忙しくなるな」
無理。
無理無理無理。
「お前ならこなせる」
「こなしたくないんですが!?」
「殿下が気にされた令嬢はお前が初めてだそうだ」
「ちょ、ちょっとお待ちを……他の令嬢と違い、どうしようもないポンコツ令嬢という意味じゃ……」
「そんな令嬢を近くに置くものか」
「目を離すと危険だから監視しているとか」
「それこそ、側近が排除するわ」
「いや、だけど……」
「ああ、王宮に入れば、猫など飼う暇はないだろうな」
……は?
……今、なんて言った?
「王妃たるもの、軽々しく動物にうつつを抜かすわけにはいかん」
猫を飼えない?
地獄じゃん!
脳内で、スウェット姿の小久保恵子がチューハイ片手に崩れ落ちた。
絶対、嫌だ。
「いやぁ、めでたい。祝いの準備をしなくては」
めでたくなんぞない!!
喜色満面の父。
憂色満面の私。
誰かウソだと言って……
――いや、待て。
ここで諦めたら終わりだ。
婚約前に回避すればいい。
方法はあるはずだ。
悪役令嬢として、嫌われる。
決定的に、取り返しがつかないほどに。
……やるしかない。
私は静かに拳を握った。
(次は、もっと確実にいく)




