第11話 勝手な周りの勘違い
マリエッタの回想
リザベッタ様はすごい。
どんどんと周りをいい方向に変えていく。
「提出書類はちゃんと方向を揃えて出しなさい」
この一言で当番が揃えなおす必要がなくなった。
「10分前には席に着き、始業できるようにしなさい」
始業……?よく分からないけど、余裕を持って授業に臨めるから初めからちゃんと聞ける。
それだけじゃない。
私みたいな下位貴族は、礼儀作法やマナーは最低限しか身に付けていないから見る人が見れば、かなり低いらしい。そんな私たちにリザベッタ様は
「見ていられない。ちゃんとしなさい」
といって教えてくださった。
そのおかげで、礼儀作法の先生からは所作が綺麗になったと褒められた。
王太子殿下に目をかけられているのに一切の甘えはなくて、決して、王太子殿下をお名前でお呼びしない。婚約者となられていないから、けじめをつけていらっしゃるのだ。ふつうはできることではないと思う。他人にはきびしく、自分には甘いってひとが多い中、リザベッタ様は自分にはさらに厳しく律していらっしゃるのだからすごい。
側近の方たちにも間違っていれば、注意をされているし。
リザベッタ様についていくと決心したあの日の私に間違いはなかった。
以前、リザベッタ様が意地悪だったのはわざと装っていたのだ。
ご自分の行動で周囲の反応を見て、改善点を探していたと噂されている。
私も同意見。
私に厳しくされたのだって、きっと何か意味があったのだと思う。
リザベッタ様のお考えを察せなければ、側付きの女官になる資格はないわ。
私、もっと頑張ります。
待っててくださいね、リザベッタ様!
王太子殿下の無自覚
「アルちゃん、元気にしてましたか?」
私への挨拶もそこそこにリザベッタはアルを抱き上げた。
高位の令嬢ならしないであろうに嬉々としてアルの腹に顔を埋め、匂いを吸う行為。
アルから上げた顔は、至福といった色を浮かべていた。
変わった令嬢だと思っていた。
媚もせず、おもねりもしない。
名前を呼ぶことを許したにもかかわらず、
「誤解を招かれませんから」
と頑なに呼ばない。
立場を考えてのことか思慮深い。
「今日はアルちゃんにお土産をもってきましたよ~」
リザベッタが笑みを消し、振り返った。
「王太子殿下、よろしいでしょうか」
「ああ」
……あくまでも一歩引いた態度か
リザベッタはいそいそと何かを取り出した。
?
細長い布の筒?
ところどこに穴が開いている。
ああ、芯が入っているからつぶれないのか。
よく考えられているな。
「これはリザベッタが?」
「ええ。アルちゃん、こっちですよ」
おざなりな返事
筒の先でリザベッタが紐がついた短い杖を振ると、アルが飛びつくように走る。
「あまーいっ!」
タシタシと前足でアルが紐を捕まえようと必死になっていた。
アルのこのような姿は見たことがない。
リザベッタもアルも楽しそうだ。
遊び疲れたアルが床に寝そべった。
アルの頭を撫でる。
「いいな…猫…どうしているかな……」
ポツリというリザベッタの瞳に陰りが浮かんでいた。
寂寥感とでもいうのか。
慰めたくなる。
「そんなに好きなら飼えばいいだろうに」
「えつ?」
「猫を飼えない理由でもあるのか?」
リザベッタがぎゅっと抱きついてきた。
なっ……!
瞳が輝き、うっすらと色づいた頬に一瞬、意識を奪われた。
「そうよね、猫飼えばいいのよ。ああ、なんで思いつかなかったんだろう」
さっと身を離すリザベッタに名残惜しいと感じるのは……
「ありがとう。そうと決まれば……」
リザベッタは手早く帰り支度をする。
「あ、これアルちゃんのおもちゃ」
私の手に持っていた杖を渡す。
「アルちゃん、また遊びに来るから元気にしててね」
名残惜しそうにアルを撫でる一方、私には
「では、失礼します」
あっさりと儀礼的に挨拶をして帰って行く。
リザベッタの後ろ姿見送ると、私はアルの頭を撫でた。
「私よりアルか……」
なぜかため息が出た。
「くっしゅん」
あぁーっ、誰か、ろくでもない噂しているな。
私は鼻を啜った……
よし。
明日は服装にダメ出しをしよう!




