檻と枷
「いえいえ、ソラさんの不手際ではないでしょう? と言うか、良く分かっていないのですが、何が起きていたのですか?」
色々な打算から、そんな言葉が口から転がり出た。
良く分からないのにソラさんの不手際はないとか、支離滅裂な台詞だ。
「ああ、それが、暴力装置の安全装置が壊されていたみたいで」
「暴力装置の安全装置?」
私の疑問に返って来たソラさんの台詞もややこしい響きだ。
まあ、言っている意味は理解出来る。
未だに閉都を守護しようとし続ける暴力装置に、何かしらの枷を施しているのだろう。
「ここの暴力装置は檻の中で鎖に繋がれていたらしいよ?」
「随分物理的ですね……暴力装置に檻と枷って有効なので?」
「喪失技巧の応用だとか。暴力装置は基本的に制御不可能で完全な破壊も難しくて、経年劣化で溶けて? 行くのを待つしかないんだって」
破壊が難しい?
スライム種に顔から視線を向ける。
スライム種は相変わらず何の感情も感じさせない佇まいだった。
「破壊がって、スライム種であっても?」
『一時的に解く事は可能。即座に元の形状に復元する』
さらっとそんな回答が表示されたが、これは私が知って良い内容なのか?
暴力装置はスライム種の集団に成す術もなく無力化されたとされていたけど、結構ぎりぎりの勝利だった?
スライム種が連合軍に加わらなければ斂都制圧作戦は失敗していた可能性まであるのか?
『暴力装置は自動的な存在。その行動規範を理解すれば封じ込める事は容易い』
失敗は言い過ぎか。それでも、スライム種抜きでは甚大な被害を被る事は確定だろう。
あんなモノに守護されているんだから、貴金属種が増長するのも仕方がなかったのかも知れない。
『その行動規範の全容は未だ完全に解明出来ていないため、予期しない拘束からの解放が起こり得る事に注意する必要がある』
「いや、それは容易いとは言えない」
「檻と枷だけで大丈夫なの?」
中々に衝撃的な情報に、私とソラさんが同時に疑問を口にする。
スライム種は何の感情も感じさせない佇まいで、回答を表示した。
『統一された集団相手の場合や過去に事例のある環境であれば被害は発生しない。拘束の強度が一定を超えると攻撃性が発露されるため、現在の拘束手法が最も安全とされている』
もしやとは思うがこのスライム種、聞いたら何でも教えてくれるのではなかろうか?
出てくるのは軒並み知らない方が良さそうな情報ではあるが。
そして節々に不穏な表現があるなあ……。
「へぇー。色々と聞いて教えて貰ったけど、やっぱり実際に見てみないと疑問にすら思わない事は一杯あるんだなあ。あ、他の暴力装置って大丈夫なのかな?」
『現在確認中』
ソラさんもソラさんで、外界から隔離されていた種族だけあって少しばかり危険に対する認知がずれている。
これは暴力装置に守られる側だったからこその認識か?
今現在も喪失技巧とスライム種に保護され続けている様な状態なのだ。外的要因に対する危機意識に関しては保護種独特の認識があるのだろう。
今もそうだ。暴力装置の檻と枷が壊されていた原因について注目がない。
そして、それは私が質問しても良い情報なのだろうか?
その認識にスライム種による誘導がないと言う保証はない。
気にはなるが、迂闊に聞かない方が良いだろうか?
『他ニ体の暴力装置に対して拘束が正常に機能している事を確認しました』
どうやって確認したのかは不明だが、スライム種がそう言うのならそうなのだろう。
大陸最強種族に対する認識は異様な耐久性と怪力だったのだが、知れば知る程不気味な内面が協調されて行く。
「ソラさんは、他の暴力装置を見に行きたいですか?」
色々と考えて、檻と枷が破壊されていた原因については触れない事にした。
一応推測は出来る。
スライム種が関わっている時点で奇跡や偶然、或いは管理の不備の可能性が低そうだ。
それが人為的であったとして、解放された暴力装置から実行犯が逃げ延びられたとは思えない。
でも、あの場に死体は無かった。
ソラさんが不審な闇人を目撃しているし、状況的には間違いなく闇人が実行犯なのだろう。
ひょっとしたら物証もあるのかも知れない。
動機の方はさっぱりだけれども、それを把握した所で商人にとっての意義は薄いだろう。
闇人は商売相手としても同業者としても有益な種族だし、これが闇人全体の謀かどうかは分からないのだから。
「んー。暴力装置はもういいかな? 思ったより経年劣化が酷くて、面影もなかったし」
ソラさんが興味を示してくれたらスライム種から色々と情報を引き出せたかも知れないが、対価の受け取りすぎも良くないのだからこれが最良だろう。
「今度はクトーさんが行きたい所に行ってみたいかな? 僕が想像出来る範囲が狭いって事が良く分かったし、実際に外を知っている人に聞くのが一番面白そう」
「ははは、嬉しい言葉を貰ってしまいましたね。それなら、ソラさんは雑塊は御存知ですか?」
「知ってますよ。貴金属種の糞便ですよね?」
……スライム種が何をどう教えているのか、それを知らないと色々な意味で危険かも知れないな。
その辺りの知識は私が教え込むべきなのだろうか。
「その言い方は貴金族種の方が嫌うので言わない方が良いですね。まあ、その通りです。雑塊は私が扱う商品ではありませんが、様々な日用品に加工が可能で便利な素材です。その加工工房とか、興味ありませんか?」
私の言葉に、ソラさんはずいと状態を近づけて目を輝かせた。
「斂都には無いって聞いてます! 見たいです!」
元の旅程にはなかったが、この際ソラさんを盾にして秘匿技術を探ってみるもの有りだろう。
秘密主義だからな、蝙蝠は。
「では、次の目的地はクプ峡谷で決まりですね」




