41. 圧を超えて、信頼へ
闇のタワー中層、通信制御フロア。
壁一面のモニターには、無数のグラフとチャートが点滅していた。
警告音が鳴り続け、システムの圧力が空間を歪めている。
「暑い……苦しいよぉ……」とヒデヨシがふらつく。
「……空気が重い……」
イエヤスも額に手を当てる。
呼吸をするだけで、胸が締めつけられるようだ。
すると、そこに黒スーツにオレンジ色のマントをなびかせた、大柄の男がいた。
「ようこそ、“プレッシャードーム”へ」
低く響く声が、床下から広がった。
その名は――ミスター・ハイプレッシャー。
ブラック企業団の“成果主義の権化”と呼ばれる存在。
「俺のドームでは、酸素も会話も、成果次第。数字が悪ければ、息をする権利すらない」
「そんなバカな話があるか!」
ヒデヨシが扇を広げる。
「息の詰まる職場なんて、モチベーションゼロだ!」
「モチベーション? くだらん。数字を出せぬ者に存在価値はない」
ハイプレッシャーが指を鳴らすと、周囲のモニターが輝いた。
「インフィニティ・ドーム!」
グラフが針のように突き出し、空気が圧縮されていく。
「ぐっ……! 体が……動かない!」
イエヤスの膝が沈む。
空気そのものが重力のように押し寄せ、ふたりを地に縫いつける。
「これが“成果至上圧”。ノルマ達成率90%未満の者は、存在を許されぬ!」
赤いグラフが彼の背後で光る。
ヒデヨシは歯を食いしばりながら叫ぶ。
「上司が部下を押し潰してどうする! 成果は“追わせる”もんじゃねえ、“育てる”もんだろうが!!」
「理想論だ。現実は数字でしか語れん!」
ハイプレッシャーが両腕を広げると、壁の数値が閃光となって襲いかかる。
「プレッシャーカッター!」
グラフの刃が空気を裂き、ふたりを突き刺そうとする――
「――舐めんなよッ!」
ヒデヨシの扇が黄金に輝く。
「俺は部下の笑顔で会社を回す! 笑顔・マネジメント・百万石アプローチ!」
扇から放たれた金の光が、空気を揺らす。
圧力の中に、わずかな“ぬくもり”が生まれた。
「なるほど、暖かい空気か。だが、甘いな!」
ハイプレッシャーが再び指を鳴らす。
「極圧・封鎖!」
空気が凍りつき、酸素が奪われていく。
ヒデヨシが息を詰まらせた瞬間、イエヤスが立ち上がった。
「データ分析、完了……! お前の圧力は“過剰負荷ループ”だ。圧を返してやる――論理調整アルゴリズム・展開!」
イエヤスの蒼い光が床を走り、モニターの数字を一つひとつ再計算していく。
グラフが反転し、ハイプレッシャーの周囲に“逆圧縮”が発生した。
「なにっ……!?」
「お前が押しつけたプレッシャーは、“信頼”で支え合う組織には効かない!」
イエヤスが叫び、ヒデヨシが再び立ち上がる。
ふたりの目が合う。
蒼と金――冷静と情熱。
相反するようでいて、実は最強の組み合わせだった。
「行くぜ、イエヤス!」
「応えよう、ヒデヨシ!」
金の瞳が燃え、蒼の思考が閃く。
互いに目線を合わせ、呼吸をひとつにする。
「「合体奥義――黄金蒼陣・圧裂・ブレイク!!」」
ヒデヨシの扇が黄金にほとばしり、イエヤスの扇からは冷たい蒼光が床を走った。
空気を圧する力を反転させ、ハイプレッシャーのパワーを内側から粉砕する。
圧が解放され、爽やかな風が吹き抜けた。
「……プレッシャーを……利用した、だと……?」
ハイプレッシャーが崩れ落ちる。
「圧は悪じゃないぜ? 使い方次第で、人は強くなる」
ヒデヨシが笑う。
「人を信じることが、一番の推進力なんだよ!」
イエヤスが静かに頷く。
「プレッシャーも、“共感”で等分すればエネルギーに変わる――それが“持続可能な働き方”だ」
ハイプレッシャーは薄く笑う。
その時だった。
暗闇の向こう側が沈むようにぐらつく。
『……ミスター・ハイプレッシャー。お前の評価はゼロだ』
圧縮ノイズが響き、ハイプレッシャーはデータの粒子となって消えてゆく。
彼は執行役員で、業績のプレッシャーに押しつぶされながら部下を洗脳して成功論を語っていた。前向きな声かけをしつつ圧力で支配していたが、パワハラだと内部通報を受けてしまう。そのような中、ブラック企業団のボスに声をかけられたのだった。
「俺はただ自分がプレッシャーに潰されるのを……恐れていただけなんだ……」
そう言いながら、彼はブラック企業団に入る前の姿に変化していく。だが、すでに身体はほとんど透き通っていた。
「お前、やっぱりあの海での……」とヒデヨシが近づく。
「ふっ……あの時サーフィンをしていた時が、一番良かったのかもな」とハイプレッシャーは最後に言い残す。
残ったのは、穏やかな風と再起動した通信ランプの光。
「……なんという力だ」とイエヤス。
「この気味悪い声は……動画の奴」とヒデヨシ。
床のひび割れから黒い霧が立ち上り、空間の温度が急速に下がっていく。
光を失ったモニターの奥で、誰かの視線を感じた。
――まだ、戦いは終わっていない。
ふたりは互いにうなずき、闇の奥へと足を踏み出した。




