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40. 時計が動く、その瞬間

 12月31日――

 年が明ける前にブラック企業団を倒さなければ、この国の企業が潰される。


「このタワーは……?」

 冬休み中の会議室にて。

 黒田がタブレットで分析したところ、闇のタワーが建っていることが分かった。


「今までにない邪悪な力を感じます。ここがおそらく戦場になるかと」

 東京タワーの隣に立つ漆黒のタワー。

 鉄骨は脈打つように赤黒く光り、まるで“企業の怨念”が形になったかのようだった。


「行くぞ」

 

「「「「「「スーツ侍、改革!」」」」」」


 6色の光を纏い、街に飛び出す侍たち。

 

「どうか気をつけて……改革の戦士たちよ」

 黒田が窓の外の光を見つめる。



 ※※※



 闇のタワーに到着した6人。

「こんなものいつの間に建ってたんだ!?」とヒデヨシが驚く。

「間違いなくこの中にブラック企業団の幹部たちがおる」

 イエヤスが家紋レンズを作動させている。


「よし、入るぞ」

 織田の合図で侍たちが入り口に向かう――が、そこで空間が歪み、暗黒の渦が現れる。


「何っ!?」


 渦は次第に膨らんでゆき、侍たちを捕らえた。


「「「「「「わぁーーー!!」」」」」」



 渦に引き寄せられ、6人は闇の空間の中ではぐれてしまう。


 

 沈黙。


 

 闇のタワー最上階――“暗黒の時計室”。

 倒れたシンゲンが、ゆっくりと目を覚ます。

「ここは……?」


 辺りを見渡すと近くにケンシンも倒れていた。

「おい! ケンシン! しっかりしろ!」

「うっ……あれ、ここは……」

「どうやら他のメンバーは、別の場所に飛ばされたようだな」

 

 2人が揃って歩き出す。

 するとガラス張りの空間の中央に、巨大な時計の歯車が回転していた。

 その中心には、黒スーツに青いマントをなびかせた、ボブカットの女の姿。


「……ようこそ、スーツ侍。時間の果てへ」


 ――ミス・タイムクラッシャー。

 ブラック企業団の幹部にして、“時間を支配する女”。

 妹のタイムバルカーを失って以来、心を凍らせたまま、時計の針を逆に回そうとしていた。


「お前……何をしておる」とシンゲンが言う。

「あたしの力で……時を戻すの。そしてスーツ侍として目覚める前に、お前たちの息の根を止める」

「なんだと?」とケンシン。


 バルカーのことを忘れようと思っていたタイムクラッシャーであったが、結局のところ彼女たちは“2人でひとつ”だった。タイムクラッシャーひとりでは、思ったように力を発揮できなかったのだ。


 だが、それだけではない。

 彼女の顔つきは鋭いものの、瞳の奥が揺れていることに気づいたシンゲン。

 落ち着いた声で諭すように話す。

 

「タイムクラッシャー……過去に囚われるのはやめるんだ」

 シンゲンの真剣な声。

「……その声、聞き飽きたわ。過去は変えられるのよ。あたしがあんた達を“止め”さえすれば――」

「――バルカーを想ってるのだな?」

「……っ」


 彼女の指先が動いた瞬間、時計の歯車が逆回転を始める。

 時間が軋み、外の夜景が巻き戻る。

 タワーの外では、車が逆走し、花火が吸い込まれるように空へ戻っていく。


「おい、時間が止まっていく……!」とケンシンが目を見開いている。

「これが彼女の“時空凍結プログラム”か……?」とシンゲン。

 冷気が立ちこめ、視界が薄桃色の光に染まる。


「あんたたちに、あの子の“消滅”の痛みがわかる?」

 クラッシャーの声が震えていた。

「シンゲン、あんたなんかに騙されたから……妹は消えたのよ! だったら時間を戻すしかないじゃない!」


 シンゲンはバルカーを思い出し、胸が痛んだ。

 初めて本気で好きになった女性だったが、自分を助けたことで、ブラック企業団のボスに消されたのだった。


「過去を救いたい気持ちは、痛いほど分かる……」

 シンゲンが祈るように目を閉じる。

「だが、過去を変えることは“生きた証”を否定することだ」


「過去は教訓、未来は希望。我らの使命は時を繋ぎ、心を燃やし続けることだ」

 ケンシンが義刀を構える。


「ならば証明してみなさい! この時の檻を破れるなら! タイムリグレット・プロトコル!」

 クラッシャーが“クロノ・ギア”を回転させる。秒針が高速回転し、時空の亀裂が走る。


 ――紅の武田。白の上杉。


 ――ふたつの影が時間の裂け目に立った。

 

 敵として千度刃を交え、味方として百度心を重ねた――その宿命が、今この現代(とき)で再び交わろうとしていた。

 

「ケンシン。俺たちの力で、時を繋ぐんだ!」

「応えよう。行くぞ」


 ふたりのスーツが光に包まれる。

 紅蓮の紋章と白蓮の花弁が融合し、塔の天井に巨大な光輪を描いた。

 時間の針が一瞬、停止する。


「な……時間が止まらない!? あたしの制御が――!」


 光輪の中央から、波動と祈光が螺旋を描いて降りてくる。

 空間が震え、重力すら歪む。熱と光が交錯し、まるで天が裂けるようだった。


「「合体奥義――紅白連環(れんかん)・時空真光刃(しんこうじん)!!」」


 衝突するエネルギーがフロアを揺らす。

 シンゲンの盾からほとばしる紅波動、ケンシンの刀を包む白の光――。

 紅波動が時を溶かし、白光が心を癒す。

 その刃がクラッシャーのクロノ・ギアを真っ二つに断ち割った。

 

 止まっていた時計が、“カチリ”と音を立てて再び動き出す。


「……あぁ……また……針が、進む……」

 クラッシャーの目から涙がこぼれ落ちる。

 それは、止まっていた心の歯車が、再び動き出した音だった。

「バルカー……ごめんね……もう、止めたりしない……」


 その時だった。

 暗黒の渦が目の前に現れる。


『……ミス・タイムクラッシャー。時間切れだ』

 

 低い闇の声が響き、タイムクラッシャーが衝撃で倒れる。声というよりデータの“ノイズ”そのものが、空間を揺らしているようだ。


 彼女の身体が光に包まれ、粉雪のように散ってゆく。

 思い出す――

 上司と部下の板挟みに合い、定時帰りする彼らに恨みを抱いていたこと。やがて長時間労働により心身に不調をきたし、ブラック企業団のボスに声をかけられたこと。


 妹のバルカーとともに、この世の企業を時間で狂わせようとした。

 だがそうなる前に、声をあげていれば。


「時間に追われていたのは……あたしたちだったのかもね……バルカー……」

 穏やかな微笑みを浮かべながら、そう呟く。


「タイムクラッシャー!」

 シンゲンが彼女の元へ向かうと、そこには消えかけている彼女――ブラック企業団に入る前の彼女の姿があった。

「やはり、あの海で出会ってたのだな」

「シンゲン……あそこで妹と会ってたのね」

「ああ」

「……」


 やがて彼女は光の中で、完全に消滅した。

「タイムクラッシャー……あの恐ろしい声はいったい」

「あれは動画の声だ」とケンシンが答えた。

 ここまでの力を持つ者……おそらくブラック企業団のトップだろう。


 シンゲンが静かに手を合わせる。

「時を止めたいほどの痛み……それを超えた先に、明日があるものを」

「ああ。彼女の願いも、我らの心に刻まれた」

 ケンシンが呟き、時計を眺めた。


 時計の音が静かに響く。

 塔の外の夜景が再び動き出し、東京に“時間”が戻った。



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