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女王陛下の采配  作者: ak
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懐古の風、激動の息吹









「クロードリヒ様」





懐かしい声がする。



遠く聞こえたそれは我が声ながらなんとも穏やかで。

平和だった。




愛しさも滲んでいただろう。



何せ、私達は恋の中で婚約を交わした間柄だったのだから。





私は同盟を結んだ帝国に嫁ぐことが決まっていた身だった。



次期皇帝である第一皇権者クロードリヒ・ツァイ・ヴェルガルドとは、私が4歳の時、彼が7歳の時に縁を結んだ。



王同士が決めたことであったが、私も彼も出会った瞬間から恋に落ちていたのだと思う。





会うたび、互いに贈り物をした。




芳しい花、刺繍のハンカチ、輝く宝物、形あるものから、






「クロード様、お慕いしております」



「アリア、僕も愛しているよ」





形の無い、優しい言葉すら。




私達は贈り合った。





情を受け取ってくれる心地よさとその笑顔と返されたハグに、嬉しさが篭った涙を流す日は少なくなかった。



幸せだった。




そう、幸せだったのだ。









王位は2歳下の実弟ジルベルトが継ぐことになっていた。



しかしながら習わし通りに王族は等しく学びを得るものであり、隣国に嫁ぐ私も幼少期は父王の(まつりごと)を近くで見学し、地方を巡り、国民の営みに触れた。



この国の未来に私はいないと分かっていても、133代続く王国は私の胸を震わせた。





「ジルがこの国の王様になるのね…。民たちはとても素敵で、私、やっぱりこの国が大好きだわ!」



「アリステアおねえさまのことも、こくみんはだいすきなのだと、レックスからきいてます!」



「まあ!嬉しいわ!うふふ、ジル、あなたきっと優しい王様になるわ。だってお父様からまつりごとを習うのですもの」



「えへへ。そのときはクロードリヒおにいさまとあそびにきてくださいね」




ギュッと握り合った両の手は、少しだけ大きな私が、ジルの小さな手を包み込んでいた。




いつかの、優しい日。



















「─────ええ。恙無く。計画は順調であります。宰相閣下」



「うむ。殿下らはまだ幼い。順調にいけば王権を影から握るのは容易いことよ」























─────────────…………







「王女殿下、落ち着いてきいてくださいまし。今朝、地方に向かいました国王夫妻の馬車が、崖から転落いたしました」





私にそう伝えた侍女はさめざめと泣いていた。



齢11の私は、突然の訃報に何も言えなかった。









「王女殿下!こちらにおられましたか!!」



「宰相…」



「国王夫妻がお亡くなりになったことはお聞きしましたか…。嗚呼、なんということでしょう…。しかしながらリュディシエル王国を存続させねばなりません。さあ、こちらへ。王国仕官は采配の間に揃っております」



「待って……私、次の王様じゃないわ…ジルよ」



「現在、第一王権者保有者はアリステア王女殿下にございまする。後に王位を第二王権保有者であらせられるジルベルト王太子殿下に譲るとて、国王亡き今、王国を示すのは貴女様でございます」



「そんな、」





弟より2年早く生まれた。



刺繍より、音楽より、政に他より少し才があった。



永く続く王国の中で最も政の才に長け、女であることを残念がられもした。王国仕官は巧妙に隠していたが私は知っている。






そして何より、






「王女殿下の御成」








采配の間の開きを開扉し、高らかに声音を上げた宰相が裏切り者だったことも、少なからず気付いていた。








気付いていながら何もしなかった。




いや、違う。父王も気付いていると思っていた。真意は何処にあるか、泳がせているのだと。




まさかこの裏切り者を放って亡くなるとは思っていなかったのだ…。







父王が一番信頼していた、ように見えたのは、学生からの仲であるバッセルフ・ドルトマンという宰相だった。



そして国王夫妻が突然、不慮の事故に遭ったのもバッセルフ・ドルトマンの工作だった。



幼少期からの計画だったようだ。


ドルトマン公爵家の一計。



しかし証拠は揃いすぎていた。

あの時聴いてしまった会話から、宰相に繋がる全てを精査し、幼い審美眼を光らせていたのだ。








宰相に連れられて座った采配の間の椅子は、父王が座っていた場所。





「申し上げます。王女殿下、まずは国王夫妻の訃報を国民に伝えませぬと」



「……………」



「申し上げます。王女殿下、戴冠式の日程を定められませ」



「申し上げます。王女殿下、王国仕官の部署配属は現在のままでよろしいでしょうか」






進言する王国仕官達の声が遠くに聞こえる。




少なくとも、その段階でクロードとの未来を考えることはなかった。






何より、この国未来を、ジルベルトが治めるこの国を、お前に崩させてたまるかと。










11歳という幼い私は、放っておけば隣国に嫁ぐであろう女の私は、誰もが何もできない子供だと甘く見ている王宮の膿みを後世の統治に遺さないために王位を取る決断をした。







「今より、進言せし王国仕官について、所属部署と名を名乗れ。

国王夫妻の告別式については2週間後に実施。戴冠式は2ヶ月後執り行う。神殿長、任せて良いか」




「王女殿下、かしこまりましてございます」








不正は許さない。








「王宮に勤める全ての人間の所属部署を確認したい。人事部長、采配の間解散後残るように」




「承知致しました」







何より、腐政を知りながら父王に進言すらせず、他人任せだった私を許せない。









まずは人事の選別をする(雑草を抜く)


そして不正を働くもの()を除す。

法を制定し(畑を耕し)、種を撒くのはそのあとだ。









2ヶ月後、12歳を迎えたアリステア・ヴィリウム・オ・リュディシエルはリュディシエル王国第134代国王となった。






「女王陛下、初勅を」








「国民よ。我が心は共にある。

汝らにとって膝をつく存在なれば、私は国の営みの前に膝をつこう。"健やかたれ"」










もう後には引けない。




クロード様、貴方と一緒に生きたかった。






だけど国の前に私の想いは邪魔だ。




涙はもう流さない。戴冠されたその瞬間から、私は残る想いを箱に詰めて鍵をし、もう出てこないように心の奥底に置いていった。






「王国仕官よ。その名の通り国に仕えよ。国の発展を循環する誉高き存在なり。私と共に、法の前に膝をつけ。一人(いちじん)たりとも一切の私情を持ってはならぬ。"忠誠たれ"」








大きく響く歓声は私の耳から遠く、下がる頭に不審感が収まらない。




信人(しんじん)を見極めねば。




それは後世の宝なのだから。
















その半年後、




「宰相バッセルフ・ドルトマン。如何な理由で国王夫妻を弑逆したのか。申し開きせよ」










バッセルフもまた、躾けられた人形であったと、彼が死んでから知った。













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