全て我が掌なれば。
初めての小説投稿です。
暖かく見守っていただければと思います。
また、作中で聞き慣れない単語や、存在しない言葉(造語)があります。ふわりと見流して雰囲気で読んでください。
誤字や使い方の違う言葉もあるかと思います。
わざとやってるもの、本当に違うであろうもの、混在しております。
見にくいことを承知での投稿となりますので、御容赦ください。
それでは今見てくださっているあなたの時間が優しいものになりますように。
左手に王杖。
右手に宝剣。
そして────
「今ここに、リュディシエル王国第134代国王の戴冠を認める」
頭部には王のみに戴かれる王冠。
134代続く王国の歴史に初めて齢12の女王が誕生した瞬間だった。
───────────……
「女王陛下、先日メリドの町を襲った嵐で崩壊した大橋の件です」
「メリド大橋は隣国との貿易で必要不可欠だ。国の予算の10分の1を回せ。以前は大木で作られていただろう、今回は鉄骨を。」
「民人調査部長、ディオル・マック、王命承りました」
「十分な準備を行い、事故なく。専門家の指導の下であれば新しい技術を取り入れて良い。"研鑽たれ"」
「女王陛下からの御言葉、現場の者も士気が上がりましょう。一言一句違うことなくお伝えいたします」
「女王陛下、2ヶ月後に控えた建国記念式典の件でございます。3点ほどご確認頂きたいことがあります。まずは…」
王の間での謁見が絶えない。
戴冠した日から10年。
一度も絶えたことはない。
為すべきことは多く、新しく手を伸ばさねばならないこともある。
リュディシエル王国第134代国王である、アリステア・ヴィリウム・オ・リュディシエルは常に多忙を極めていた。
「一つ、式典当日の私の装いに関して、全て侍女長に一任する。
二つ、料理の内容は招く客人の一国一人に合わせるものとする。難しいが、料理長には是非奮闘してもらいたい。これに関し、いついかなるときも料理長の謁見と相談を受ける。
三つ、騎士以外の王宮の勤め人を30名増やすこととする。この2ヶ月のみではない。30名の部署配分は人事補佐官に一任する。能く見極めよ」
「侍女長、マリーベル・アストライア、王命承りました」
「料理長、ヴォーデック・ヤン、王命承りました」
「人事部補佐官、リュド・ギオル、王命承りました」
命を受けたものそれぞれ、頭を垂れて王の間から出て行った。
息をつく暇もない。しかし民から国を任されている。税を受けてここにいる。王とは民の安寧のためにある。
少ない記憶と思い出の中で、私は先王夫妻からそう学んだのだ。
全て計画通り。全て順調である。
無事、建国記念式典を迎えることができれば後は容易い。
「よし、次だ」
「女王陛下、王弟殿下がお見えになっております」
「中へ」
「王弟殿下の御成」
開かれた扉の向こうから銀の髪が揺れた。
自分と一緒のそれが、いつにも増して輝いているようにも見える。
従者を連れ颯爽と私の前へ膝をつく唯一の肉親に寂寥を感じなくなったのはいつからだろう。もう、忘れた。
「女王陛下におかれましてはご機嫌麗しく。国仕中の謁見をお赦しいただき、恐悦至極に存じます」
「よい。して、用件は」
「その前に人払いを。身内の話にございます」
「赦す。皆、少し休憩しよう。ここまで長く付き合わせてすまぬな。60分後、国仕を再開しよう。"憩癒たれ"」
女王の言葉に居合わせた者全て疾く去りゆく。
王国仕官の行動は10年の国仕を経て培った。
先王の統治とは違う、現女王の威厳がそこにはあった。
ここに残るのは女王アリステアとその実弟ジルベルト、女王補佐長ガイ、女王護衛騎士団長リオ、王弟補佐長レックスの5人のみ。
しかし女王はこれを赦さない。
「ガイ、リオ、レックス。暫く二人にしてくれるか」
「女王陛下、しかし、」
「ガイ。何を心配することがある?世間話だ。10分後入ってくるが良い。皆、共に昼食を取ろう。侍女に昼食を持ってくるよう伝えよ」
「王命、承りました」
少しばかり心配性の面が見える我が補佐官に頷いて見せると、3人は一礼して出て行った。
「さぁ、テラスへ行こう」
「はい」
春の暖かな風に吹かれて、双銀が煌めいた。
「姉上、国仕お疲れ様です」
「ああ。ジルベルトは稽古をしてきたのだな。髪が濡れている」
「おやバレてしまいましたか。会う前に整えてきたつもりでしたが…」
眉を下げて笑う弟にニコリと微笑むと、先程侍女が淹れた紅茶を啜った。
「それで、何用かな?人払いは済ませた。言うがよい」
「姉上は御婚約並びに御結婚はされないのでしょうか?」
…まさか。それを聞かれるとは思わなんだ。
確かに補佐官達からはその話も上がっている。が、断り続けている最中だ。
弟にまで話が行っているとは考えもしなかったが、後継の件を考えると仕方のないことか。
言わないだけで他の王国仕官達もそう思っているのだろう。
「今はまだ、とだけ。国民のために為さねばならぬことが多くある今、それが先決だ。ジルベルト、お前はリズメイラ嬢と仲良くしているようだな。花を贈っていたとガイから聞いている。仲睦まじきことは良いことだ」
我がことのように誇らしく思っている。
このまま良い関係であってほしいとも願っている。私の唯一なのだから。
実弟の話に心喜んでいると、ジルベルトは決心したように重く口を開いた。
「クロードリヒ様とは復縁なさらないのでしょうか?」
胸の奥がズクリと痛んだ。気がした。
鈍い痛みだ。だが泣くほどでもなく、荒ぶるほど心揺れたわけではない。
「何度も言わせるな。御方と婚約したのは昔の話。破棄したと、また、それが復縁に至ることはないと言っているだろう」
「婚約の話は破棄された今でも御方からお話があっているとガイから聞いております。姉上が頑なに拒否されているとも。何故でしょうか。昔はあんなに想い合っていたではありませんか」
「あやつはおしゃべりが過ぎるな。箝口令を敷くか」
「なりません。私も、ガイも、姉上を敬愛しているからこその行動です。御容赦ください」
カタリと。
ジルベルトがカップを置いた。
私を見るその目に決意を宿して。
「今は姉上に守られていると。ええ。分かっていますとも。…しかし!私も姉上を大事に思っております。ご自身の幸せについてもご一考ください」
ギュッと握られた両手に、ゆるりと温かさを感じた。
ありがとう、ジルベルト。
「……もうすぐ。もうすぐだ、ジル。雑草を抜き、石を除し、畑は耕した。種も撒いた。芽吹いている。後は花が咲くだけ、実が成るだけだ」
「…姉上…」
「素晴らしい実を、お前に。"恩寵たれ"」
ギュッと握り返した大きな手を、私は昔のように包み込んであげることが出来なかった。




