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異世界と性犯罪者が嫌いです。〜ざまあごときじゃ済まさない〜  作者: 小村ユキチ
祝祭

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1

  お前らさえいなければ





 日が立つのは早いものである。そうは言っても1週間ほどではあったが。


 いよいよ祝祭の日まであと一日だった。干拓地の設営に関しても昨日で一旦区切って、今は誰もが準備にエネルギーを向けている。テツジとうららもビール樽を運んだりパン生地をこねたりと多少の力がいる作業でお手伝いをした。


 この1週間、ずっと二人は一緒にいた。恥ずかしいくらい一緒だった。テツジが自分の描いた図解で風車の基本構造を説明したり工学青年ジョエルと熱心に排水システムについて話し合ったりしてるときも、あるいは引き潮に合わせてついに第一干拓地が閉め切られる作業を指揮しているときも、彼女は大体彼の腕に抱きついてるか背中に貼りついていた。

 もちろんミシェル(やはりコーギーだった)も尻尾を振りながらついてきている。少しずつ人に慣れて、そのうち子どもたちと遊ばせることもできそうだった。


 いつの間にか、この世界で一番評判のカップルになっていた。どこへ行っても祝われたり冷やかされたりした。いちおう気が付かないふりをしているが、恐らく祝祭では軽い結婚式のような催しも開かれるのだろう。

 夕焼けの光が赤ワインの色に溶け始めている時間だった。光晶というアイテムがあるとはいえこの世界ではそこそこ深い時間と言って良いが、窓の下ではからはまだ太鼓と笛と、それに原始的な弦楽器の調べが心地よく注ぎ込んでくる。明日は楽しそうだ。


「少し……膨らんできましたか?」


 クロエがうららの胸を確認している。もちろんテツジはそちらに背を向け窓から楽団を見下ろしている。


「ちょっとですけど、はい。痛いのは少しずつ慣れてきました」

「私はやはり、これはうららさんだから治っているのだと思います。凪さんと長く過ごしてる私はこれっぽっちも良くなっていませんから」

「……でも、テツジさんの影響は絶対ありますよね」

「私が試してみます?」

「エッ!?」

「ふふ、冗談ですよ。でも、夜をともにとまでは言わずとも、同じ屋根の下で寝るくらいはいずれ試してみることにはなるでしょう。本当のことを言うと、皆さんウズウズしていますから」

「それは、はい、わかってます……私もそんな、あの、独占しようとかは……」


 つまり、彼をある程度共有して新月機関員全員の胸が治らないか確認するという話である。必要性は十分に理解するが、色んな意味で落ち着かないテーマだ。


「結局、凪さんは顔を出してくれませんでしたね」


 うららが話を変えてくれたので、テツジは少し安心した。


「あの人はあの人の準備が忙しいのです」


 そう云うクロエの声には少し疲れが見える。昼過ぎまでは凪のところにいて、戻ってきてからこちらでジャムの数を管理したり篝火の配置変更に追われたりと、クロエは常に仕事をし続けている。今もうららと話しながらずっとノートに色んな数字を書き込み続けていた。いつか倒れないか心配である。

 一方の凪は、大量の性犯罪者を使って何やらとんでもなく大規模な『実験』を繰り返していた。元から常軌を逸した人ではあるが、最近また一つたがが外れてしまった気がする。彼は祝祭が終わり次第魔王城に向けて『総出撃』するつもりらしく、奴隷の魔物で構成された大陸軍グランダルメを着々と組織し続けている。


 彼は、とっととこの世界を()()し切る気なのだ。


 その考えはきっと、とても正しい。ムカデでダンジョンを塞がなければ成立しない平和など平和ではないし、魔王城から飛来した竜の謎も残っている。ケリは早めにつけるべきなのだ。そういう部分で、凪は決して甘えない。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これは彼の人格というよりも性分だろう。『祝祭ができる程度には安全を保証した、ならば次へ、次へ』と……。


 では魔物を滅ぼし切ったら、凪はどうするつもりなのか。


 それが目下のテツジにとって一番の欝要素である。


 ふさっと、柔らかい感触が足に触れた。ミシェルだった。苦労して体を洗い毛も刈ってやったのですっかり見違えた。()がいつこの世界にワープしてきたのかは残念ながら知りようがないが、少なくとも二ヶ月、もしかすると一年以上一匹で生きてきたのかもしれない。それでも飼い主がわかるのだから、犬とは本当に尊い生き物である。


「おいでミシェル」


 テツジは屈んで彼の頭に手を添えた。実を言うとまだ餌をくれる人間程度の認識で、あまり懐いてくれていない気がするが、それでも奴隷魔法を使った『命令』は極力しないようにしている。


 いつの間にかうららも側にいて、肩を並べて寄り添った。


 淡く香水の匂いと、甘えたミシェルの鳴き声、息遣い。


 それを撫でる小さな白い手。


 こんな世界だが、今の彼は幸せだった。うららというとても不幸な女の子の力になれたことは本当に嬉しいし、彼自身とても救われている。

 またいずれ、悲しくなる日は来るのだろう。

 少なくとも明日の祝祭は楽しみたい。



 だから……本当になぜ、この日だったのだろう。


 

 突如、地面が揺れた。

 最初は小さく、次第に強く、ついには立っていられないほど大きく世界が振り回された。暴れるミシェルをなんとか抱きとめる。

 色んなものが外で倒れる音がする。

 人知の及ばない狂乱。

 まるで巨人が冗談で世界を揺らしているような……。


 やがて揺れが収まり、クロエが厳しい表情で息を吐く。


「驚きました……なんだったのでしょう?」


 テツジとうららは、顔を見合わせた。


 互いに血の気が引いていた。ここは港町である。


「みんな、急いで高台へ!」


 テツジは叫んでいた。


「丘の方へ避難をしてください!!」

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