96.謝罪と地域対話という名の公開処刑開始(2)
司会進行の一人『大石さん』の子供たちを小菅が馬鹿にして見下す発言をしたところで、次の人『小渕さん』にバトンタッチとなった。
『小渕です――小菅さん、折角の話し合いの機会ですのにそのような発言はやめてください。小菅さん、あなたは今、百合乃ちゃんのことをビクビクしてみっともないなどと仰いましたが、それは仕方がないことだと思いますよ。百合乃ちゃんはあなたの上のお兄ちゃんにあんなに強く目をつつかれて大変なことになったんですから!あんな酷い目にあわされたらどんな子だって怖くてビクビクしていまいますよ?口を慎んでいただきたいです。配信の場ですから』
ーー(ちょっと、関係のない話を持ち出さないでください。そんな何年も前の話を!ほんの子供の頃の話じゃないですか、全く!あの時は……そう!静ちゃんにうちの子は殴られたんですよ?しかもグーで!女の子がグーで殴るなんてありえませんよ、本当にあの子は短気で乱暴な子ですよ。あなたご存じでしょ?)
佐倉家では、小菅の息子が静に殴られた事件の話を聞いて、実に楽し気な弾むような声があがった。
まず栄太郎がオロオロして「えっ?静ちゃん?」と言うと、英介が「栄太郎、これ本当。ねえちゃんはやったんだ」と言い溜息をついた。
佐倉は拍手をして大声でこうだ――「よくやったね、えらいね静ちゃん」
佐倉のとうちゃんは「グーか!何回くらい殴ったの?」と言って嬉しそうだ。
佐倉のかあさん、のほうは「昔、乱暴なやつに私もやったことがあるわよ。平手だったけど」などと言っている。
「えええっ、本当に?」と言い栄太郎が興奮したところで、PCから進行役・小渕の反論の声が響いた。
佐倉家の面々はすぐに画面に注目。
『静ちゃんを乱暴な子だなんで言わないでくださいよ。静ちゃんは友達のためにやり返しただけじゃないですか!うちの子は見てましたから全部知ってますよ。あなたの上のお兄ちゃんは本当に酷い子でした。強く突かれた目を押さえて物凄く痛がって泣いている百合乃ちゃんのお腹を強く蹴ったんですよね?だから静ちゃんが怒ったんです。静ちゃんは『百合ちゃんの代わりに私からお前にお返しだ!』って言って最初は平手打ちしたんですよ。でも同じように平手打ちを返されたから、グーで返したんです。そんな子やられて当然じゃありませんか!なんで静ちゃんがやり返されなきゃならないんです?悪いのはあなたの上のお兄ちゃんなんですから!』
ーー(あなた、気は確かですか?ちょっとふざけていたら、うっかり当たってしまっただけだったのに、殴ってくるなんてとんでもないことですよ?先生だってわざとじゃなかったことをわかって下さいましたから。大石さんが大げさに騒いだだけじゃないですか)
小菅は愚かな母親だった。とんでもない発言をしているのだが、本人は気づかずに続けた。
ーー(そりゃあ全快するまで少しはかかりましたけど、病院に行ってちゃんと良くなったじゃないですか、先生もちょっと大石さんが大げさに騒ぎ過ぎだと仰ってましたよ。それを、)
すると、この件には全く無関係の保護者の一人が口を挟んだ。
ーー(いやちょっと、今の話は本当なんですか?すごいことを聞きました。うちが転校してくる前の話ですか?そんな、目を突くなんて恐ろしいことですよ。小菅さん、そんな軽く考えたらいけませんよ。失明することだってありますからね。しかし、先生の対応がどうも信じられないんですが……どの先生ですか?今もうちの学校に在籍してる先生ですか?)
これには大石がすぐに答えた。
『いいえ、今は隣の区にいらっしゃいますよ。あの先生は不適切な指導が続いたとかで、研修とカウンセリングを受けているそうですよ。これだけは申し上げておきますが、私はあの先生に強く抗議したりとか、娘のことで酷く言ったりしたことはありませんから。あの時どんなに理不尽な対応をされようとも子供のためと思って我慢したんです。でも、今は親として毅然とした対応が出来なかったことを後悔しています。あの先生は、小菅さんの息子さんと仲直りするべきだとか言い出して、互いに謝ろうと言ってきたんですよ。眼帯をした娘は、小菅さんの息子さんに謝らされたんです。それはおかしいって怒ってくれた静ちゃんを、あの先生は廊下に出したんです。『和を乱すのはやめろ』って言って静ちゃんに怒鳴ったそうですよ。静ちゃんは丸々一時間立たされたんです。うちの小学校には信じられない先生がいたんですよ』
ーー(いやちょっと、それはあまりに……私は驚きました。いつの話ですか?)
その保護者が訊ねると、大石が静たちが4年生の頃のことだと答えた。
海水浴の話からは大分それてしまったのだが、しばらくこの件で話し合いが荒れてしまった。
小菅は、あの時先生は正しい対応をしており、静が先生から指導を受けるのは当然だと言い張った。
『まさかあの先生が正しいという人がいるとは……呆れました。そういえば、あの先生は小菅さんからの要望だと言っていましたが、静ちゃんのせいで仲直りが出来なかったからもう一年同じクラスにさせると言い出して、あなたの息子と百合乃を同じクラスにしたんです。静ちゃんとはわざと別のクラスにさせられて、本当に意地の悪い先生でした。あの先生はそれまでも色々やらかしていたそうですよ。それでストレスでもあったんでしょうかね、クラスの中でターゲットにされた子供がいても放置して、それを見てまるで楽しんでいるかのようだってことで、ある保護者の方が学年主任に相談して、それで大事になったんです。小菅さん、今回の海水浴の件もそうですが、その後で静ちゃんや英介君が苦しむことになったのはあなたのような保護者も原因の一つになったのだと思います。とにかく、あなたは謝罪するべきですよ』
大石の言っていることはもっともなことだった。
小菅は逆上し、何やらいつまでも喚いていたため進行役がマイクをミュートにした。
さて、いよいよ黒谷が話す番となった。
主催者側の三人は、黒谷が海水浴の件で自身の後悔や謝罪の気持ちをどんなふうに話し出すのかを、それぞれ予想していたが、今の小菅の話を聞いて慌ててしまったのだろう。黒谷は最初から聞き苦しい言い訳と見え透いた嘘を繰り返した。
黒谷は、海水浴の事件では自分は加害者どころか、アキラの母や小菅に押さえつけられていた被害者の一人であり、そのため自分の思いとは正反対の態度を取るしかなかったのだと言い出した。
下の娘のユミも同じで、英介君が気の毒だったがアキラ君が怖くて何も言えなかった、助けてあげられなかったことで胸を痛めていたなどと涙声で話し始めたので、進行役の三人はあきれ果てた。
するとすぐに、この涙の訴えに対して発言したいと申し出た保護者が――英介とは別クラスのそろばん塾で一緒の同級生が、黒谷の発言を全面的に否定した。
ーー(驚きましたよ黒谷さん、そんな嘘はやめた方がいいですよ。うちの子供が言ってましたけど、ユミちゃんは海水浴場で英介君がアキラ君を捜しまわったり、ボランティアの保護者に何度も声をかけて心配していた時だって酷い悪口を言ってたそうじゃないですか!うちの娘はそのことでユミちゃんと喧嘩したんですから。それに、英介君がクラスのみんなから避けられるようになって、酷い言われ方をされていたからか知りませんが、ユミちゃんはずっと、英介君が転校することになったあの最後の日の前日まで、英介君のことを悪く言ってたそうですから。海でアキラ君がいなくなって寂しかったんだろうけどみっともないとか、きっとアキラ君は英介君といるのが面倒になったから逃げたんだとか、とんでもないこと言ってたんですよね。勝手にどこかへ消えたアキラ君が悪いのに!いいですか、ユミちゃんが英介君に対して思いやりの気持ちを持っていたなどと、くだらない嘘はやめたほうがいいですよ。うちの娘は違うクラスだったから、実際どれほど酷くされていたかまでははっきりわからないけど、英介君が学校で全くしゃべらなくなって、体育の時だって――あんなに運動神経の良かった子がぼんやりして、サッカーボールを顔にぶつけられたりとか、柔軟体操を一人でやったりとか、それを笑ったりしてずっと本当に酷かったって!うちの子はそれを窓から見たんです。他の子だって酷すぎるって言ってたんですよ。英介君が何も言わないからって調子に乗って!それなのに何を言い出すんですか!あなたの話を聞いていて恐ろしくなりましたよ私は)
佐倉家の連中は、今度はこの話で逆上した。
さすがの栄太郎もむっつりとして「ふざけやがって!」などと言って、いつもと逆に静を驚かせた。
進行役・小渕が言った。
『ご発言ありがとうございます。知らなかったことですのでお知らせいただいてよかったです。サッカーボールを顔にとか柔軟を一人でとか……放っておく先生も先生ですよ。はあ、私も驚きました。黒谷さん、今回我々は遠山さんにちゃんと謝罪をしたいという思いで配信するんですよ?黒谷さん、ユミちゃんのこともそうですが――『アズミちゃん』のしたことはちゃんと謝るべきじゃないですか?アズミちゃんは静ちゃんが階段を下りている時に上から突き飛ばしたんですよね。人殺しの娘って言いながら、急に後ろからすごい力で背中を押したそうじゃないですか!あれほどの運動神経の静ちゃんも反応が遅れたために足首を捻って酷い捻挫をしたんですよ。受験の数日前だったっていうのに!しかも性格の悪い男子生徒達と一緒に笑って、倒れている静ちゃんの脚をけっとばしたんですよね。恐ろしいことですよ本当に。それで先生にはわざとじゃなくてぶつかったって言ったんですよね。先生の方も、その言葉を鵜吞みにして調子よくそういうことにしたんですから。自分のクラスのトラブルは隠したい先生でしたからね。とにかく、とんでもない教師と生徒に溢れた学年でしたよね。あの先生は今は低学年の受け持ちでしたかね、それも恐ろしいですがね。とにかく黒谷さんも、遠山さんと静ちゃんと英介君に謝罪していただきたいです――私達も謝罪したいと思ったんですが、実は、」
ここでまた黒谷が発言を申し出たので話をさせたところ、恥ずかしげもなくサイキッカーの話を持ち出してきた。
ーー(言わないでおこうかと思いましたが、実は先日、今話題になっている能力者の方が私に話しかけてきたんですよ。遠山さんが、事件の後で、私が遠山さんの自宅に心配して電話をかけたことを思いだしていたとのことでした。寝ている時に私が心配して電話をかけたことと、ユミが英介君のことをとても心配していたことを思いだしたみたいで、遠山さんは寝ながら、夢を見ていたのかわかりませんが泣いていたそうです。能力者の人は、遠山さんの考えていることが分かったので私の所に来たんです。遠山さんへの思いやりの気持ちを持っていた親子に、ちゃんと真実を説明してもらいたいってことで、それで私は、)
進行役・吉田がすぐにこれを遮った。
『驚きました。まさか、そんな風にその話をされるとはね。黒谷さん、あのサイキッカーは私達の所にも現れたんですよ。それであなたの発言を疑問に思ったのか、色々訊ねてこられました。そのことをこれからお話しますね』
まさに、黒谷と小菅の真実へようこそ――の会だ。
せっかくのこの会は保護者の真実を語る会に変わってしまった。
――【海水浴場での事件を考える】
~嘘と暴力に傷つけられない学校環境をつくるために~
謝罪そして信頼を取り戻すための地域対話
どうせ、アキラの親が来るはずもなかったこの会議。
地味に始まった話し合いではあったが、それなりにサイキッカーを満足させられそうである。
哀れな言い訳が続く。
お読みくださりありがとうございます。
次回でその他大勢保護者会は終わる予定です。




