↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
88/135

88.奇跡の三人にお伝えします

 騒がしい見舞客が出て行くと、佐倉はすぐに「早速始めましょう」と言い、隣り合わせにベッドが配置されている権藤と市谷に近い位置に椅子を置いた。

 一番奥の窓際にある空飛ぶカァちゃんのベッドからは少し距離があるが、話をするのに不都合はない。

 空飛ぶカァちゃんには『羽』を飛ばし『テグス』で声をキャッチしてもらえばいいだけだ。

 そして、権藤と市谷の耳元にもこっそり羽を伸ばせば二人も聞きやすくなる。


 佐倉は聞かれてもいないのにペラペラと言い訳を始めた。

 「遠山さんは声が小さ目の方なんですよね。知ってました?小さな声の方って耳がすごくいいんですよ。前に遠山さんがかなり遠くで響いた小さな音を聴き分けたことがあって驚きました。この大きさで話したら聞こえます?―――聞こえる?ああよかった!じゃあ始めましょうか」


     ◇◇◇◇◇


 佐倉は麹町と二人で官舎近くの喫茶店からこの病院に駆け付けた時のことから順に話を始めた。

 自分がショックのあまり何もできず、青ざめて役立たずだったことは省略して、警察を麹町が脅し、病院スタッフにもしつこく釘を刺し、録画・録音を確認したことからわかりやすく話して聞かせた。


 その夜、病院に駆け付けた家族に大まかな事情を話し、そのまま安全のために佐倉の実家に子供たちを匿ったこと、事故の時も力になってくれた大学の先生がそのまま協力を申し出てくれたこと。


 そして事の始まり――英介の予知についてである。

 ここでは静の能力のことまでは話さなかったが、もし英介の予知の能力が明るみに出れば波乱を呼ぶだろうし、英介とその家族にとって今以上に辛い日々が訪れることを危惧したために、判断に迷い、何が正解かどうするべきなのかを決めかね、打ち明けられずにいたこと。

 助けを求めておきながら、予知をした能力者は自分の友人だなどと嘘をついたこと。

 そして佐倉を守るために権藤にまで嘘をつかせてしまったことが申し訳なく、正直であるべきだったと後悔していると。

 佐倉はこのことを心から謝罪した。

 

 権藤と市谷の表情からは理解と許しが読み取れたが、佐倉は自分の甘えが引き起こしたこの事態と失敗を決して忘れないと伝え、彼らのベッドの枕元で深く頭を下げた。


 空飛ぶカァちゃんのベッドに近づき同じように謝罪した時、空飛ぶカァちゃんのテグスからは混乱と不安の気持ちが読み取れた。

 そして空飛ぶカァちゃんは佐倉に伝えてきた。

ーー(もし自分だったら、どのように判断し行動したかわからないのですが、

ーー(英介を守ろうとしてくれてありがとうございます。

ーー(いつも感謝しているんです。

ーー(佐倉さんが悪いとは思いません。


 空飛ぶカァちゃんは決して佐倉を責めなかった。

 いつもと同じように感情を抑えがちだった。


 佐倉は羽からこれに応えた。

 ――(本当に申し訳ございませんでした。

 ――(実はまだ話したいことが沢山あるんです。

 ――(静ちゃんのことでも、他にも。

 ――(今日はこの事件の顛末をお話ししますがいずれ全てお話します。



 佐倉は英介の予知について、あと二つ。

 『誰も声をあげない官房長官の定例会見』についてのイメージ予知と、『黒田が三人の回復について安心していた映像』が見えた予知について簡単に伝えた後で、時間は前後するが、これから話す内容について、まずはざっと伝えた。

 権藤と空飛ぶカァちゃんのスキャンダル記事から始まり、麹町先生による釜谷と橋本菜月の確保、事件の当事者と先生方が録音録画した証拠をジャーナリストの尾崎が配信したことなどを話して聞かせたが、三人ともここまでの話で既に興奮している様子が窺えた。


 そしてさらに尾崎が配信したもう一つの音声――破壊遺産の卑劣な脅し文句と怒鳴り声。

 山本ミキの破滅はこの段階でもう決まってしまったが、その後で、翌朝の議員会館前。

 黒田と佐倉は、水谷をつぶすために敢えて記者に囲まれ『山本は総理の言いなりで逆らうことは絶対にない』と答えたことを説明すると、三人ともかすかに体が震えたようだった。

 

 その後の午後四時からの『官房長官の定例記者会見』のこと――そこで謎のサイキッカーが出現し、会見場が荒れ、水谷のお抱え記者以外からは全く質問が出なかったことを話して聞かせた。

 会見場が静まり返る中、そのサイキッカーが自分の能力を使って記者の頭の中に直接言葉を入れ、水谷の卑劣な所業を喋りまくって、けなしまくり、水谷の罪や卑劣な行いの証拠がどこにあるか、水谷の金銭授受問題ほか危険な支持団体等について誰をつっつけばそれらの証拠を得られるかについて得意気に話している横で、お抱え記者だけが官房長官に質問をし続けていたことを伝えると、三人の体が熱くなっていることが佐倉にはよくわかった。

 

 極めつけの『~事前防災・資源エネルギーを語る~安心できる社会への道筋』での話。

 ここにも謎のサイキッカーが登場し、麹町が耳にした山本ミキと釜谷の秘書の会話から、空飛ぶカァちゃんを研究会会場に連れて行き、ここで第三者の目の中で匿おうとしたこと。

 そして、この会の中では佐倉と黒田が山本ミキとスポーツトレーナーの卑劣な行いをはっきりと証言し、サイキッカーが権藤や麹町のような政治家に卑劣な政治家をなんとかしてほしいと、世の中を変えてほしいとペラペラと話しまくったあとで、あっという間に消えていったことを詳しく聞かせた。


 結局このあとで、釜谷の証言と秘書の橋本菜月の証言の一致もあり、釜谷逮捕と水谷が退陣に追い込まれ辞意表明、身柄確保となったこと。

  

 ここまで伝えると、やっと権藤に安堵の表情が見られ少し口元が綻んだ。


 さて、いよいよ尾崎の配信についてである。

――『悪魔のようなスポーツトレーナーと笑う議員』


 「遠山さんには申し訳ないのですが、誰かがこっそり仕掛けたらしい監視カメラの映像に、会館内のトレーニング室での山本ミキとトレーナーの卑劣な行いが沢山録画されていたんですよ。実は私の映像もね。これが尾崎さんに届けられて、静ちゃんや英介にどうするかを確認した上で、配信したんです」

 

 佐倉がこう言うと、空飛ぶカァちゃんのテグスからうなり声なのか溜息なのか、何とも言えない悲壮な音が伝わって来た。

 そして佐倉に伝えてきた。


 ――(あれを見られたんですか……もう私、恥しかありません。

 ――(どうしたらいいんでしょうか。

 ――(私、反復横跳びを山本先生に録画までされたんです。

 ――(死にたい。

 ――(私は運動神経が……もう外を歩けない。


 録画どころじゃなくて、もう永遠に消せなくなっている状態なのだが、佐倉は敢えてそれを教えなかった。よく考えれば気が付いてしまうことだし、出してしまったものを今更引っ込めることもできないのだから。


 佐倉はこの件についてはあまり引っ張りたくなかったので、ちゃっかり簡単にまとめた。

 「このことは遠山さんの意向を伺えませんでしたので、申し訳なかったのですが、結果、破壊遺産は完全に破壊され、女トレーナーはネットで晒し者。それから、海でのことで嘘を垂れ流した連中も顔写真が流出していますから。気の毒だとか思わないでください。自業自得です、それにつきます」


 佐倉はこのことで空飛ぶカァちゃんの気持ちを羽から知ろうとは思わなかった。

 たとえ空飛ぶカァちゃんが気付かなかったとしても、佐倉は空飛ぶカァちゃんの口から聞きたかったし、そうするべきだと思った。


 佐倉は「今日はここまでにしましょう。実は麹町先生にはまだ英介のことをお伝えしていないのですが、必ず私からご説明いたします。英介のことは、まずは権藤さんと遠山さんにお話しすべきことだったんです。本当にすみませんでした」と言い結んだ。


 「明日は尾崎さんの配信も確認していただければと思いますが、流れとしてはまあこんな感じでした。多少、話が前後したかもしれませんが、英介の予知のおかげで助かった部分が大きいんです。ただ、予知と全く同じことが起きたわけではないんです。ですがほぼ方向性は同じ。だから、他に漏れることが怖いんです。このことだけはどうか他言しないでいただきたいんです、英介を守るために。どうか、どうかお願いします」


 彼らの了承を得られたところで、権藤の枕元でこう言った。

 「党の皆さんには麴町先生が――多分、飯田さんが対応して下さっていると思うのですが、私は詳細がわかりません。それから、先ほど飯田さんがお帰りになる際に仰っていたのですが『あの男が自分から権藤さんに見切りをつけて出て行くような形になるのが腹立たしい』と。万が一、離党騒ぎが起きたら飯田さんがなんとかすると。権藤さんのことをすごく気遣っているご様子でした。また明日権藤さんのご意向についてお伺いしますが、それを直接飯田さんに伝えに行きますので」


 権藤は佐倉にこう言われると、目をつぶった。

 余程ショックだったのだろう、佐倉はそう思い、そっとカーテンを閉めた。


 権藤は今までに飯田と交わしたやり取りを思い出していた。

 飯田という男は、我が儘で短気な麹町より話しやすくはあったが、じーっと見てくる強い視線が気になり何かを見透かされそうな気がして、実は麹町より苦手な相手だった。

 何かと話しかけてきて、余計なことを言ってくるのも気に入らなかった。

 忠告なのか指摘なのかわからないが、なぜ言ってくるのか、どうして自分に言ってくれるのか、それを考えると未熟な自分が辛くなった。

 権藤は麹町にも憧れを持っていたが、それ以上に亡くなった飯田の父親を尊敬していた。

 その息子である彼に指摘されることが、自分のくだらないプライドを刺激したために、自分は党首として見るべきものを見ようとしなかったのだろうかと、そんな風に思えてきて権藤は歯を軋ませた。

 気付けなかったこともそうだし、もしかしたら自分は薄々勘付いていたのではないかと、そんな気さえしていた。

 これからの党の運営を思うと正直泣きたくなった。

 “党の顔である議員を連れて一緒に離党を”――これを聞いた時、権藤は情けなく傷ついた自分を息子に見られたことも辛かった。

 飯田が病室を出て行ってから、以前、飯田と小さな研究会で行き会った時に、名指しで身内の議員について『あいつの動きに気を付けろ』というようなことを言われ腹を立て、あれこれ言い返したことを思い返すともうたまらなかった。

 明日、佐倉から飯田に伝えてもらうことと、党の皆への指示についても、権藤には重くのしかかるものばかりだった。


 さて、なぜか空飛ぶカァちゃんに対してだけは行儀よく羽を引っ込めている佐倉だったが、図々しくも恩人である権藤の思いを羽で読み取った佐倉は、とうとう新たな推し活を開始するため議員会館に車を走らせた。

 権藤のところの『吉川伸造』と『偽装野党の代表代行』の頭の中を図々しく覗き見るために。

 

 

 


 


 

 

 お読みくださりありがとうございます。

 今回はそんなつもりではなかったのですが、出来上がってみるとアニメでよくある“録画しても見ないで消す”ことになる総集編のようになってしまいました。

 次回からまた動きがあると思います。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。