73.名キッカー佐倉が得た主導権
推し活中のサイコパス男が麹町に喚き散らす。
その内容は、後列の記者達にも同じように届く。
そして、今回は尾崎、末次と小暮、黒田、更には会場にいる研究者や技術者全員の頭の中にも痛みと共にその男の声が響き渡った。
ーーー(おう、爺さん!あとは尾崎さんに研究会のおっさんたち、あとは秘書の兄ちゃんたちか?
ーーー(今、幸運にもこの部屋に入れた奴ら全員に俺に声が聞こえるはずだぜ。
ーーー(でも録音はされていないはずだからよ、後で確認してみるといい。
ーーー(いいか、この俺は、政府も知らないサイキッカーだよ。
ーーー(そこにいる記者にさっき、“推し活してるサイコパス男”とかって断定されてムカついてる男だよ。
ーーー(いいか、別に俺は爺さんや尾崎のとっつぁんの推し活男じぇねえからな?ふざけんなよ気持ち悪い、誰が推し活だ!
ーーー(さっきそんなふうに思ってた奴、後で覚えてろよ?お前ら絶対に見逃さねえからな?
ーーー(いいか、どっちかっつうと俺は空飛ぶ人のファンなんだよ。
ーーー(とにかくいいか、俺はお前らの頭の中に直接話しかけてんの。
ーーー(さっき定例会見の会場でも後ろの記者さんにこれをやったんだよ。
ーーー(あとでさっきの会見の配信見りゃわかるだろうが、誰もしゃべってなかったろ?
ーーー(そういうことなんだよ。そういうことでこうなった。
ーーー(って!そういうことでこうなったって……まるで爺さんの真似みたいじゃねえか!あーヤダヤダ老化しちまったの俺?
ーーー(いいか爺さんよ、あんたが持ってる情報で今ここで出しても安全なものを、正確に、順序だてて話してくれよ。
ーーー(びゅんびゅんびゅんびゅん話が飛びやがって!
ーーー(これじゃ訳が分からねえじゃないか!
推し活中のサイコパス男がこういったところで、麴町が怒鳴り声を上げた。
「なんだこいつは?どこにおる!何を使ってこうしてるんじゃ!」
ーーー(理解が遅いな、やっぱり爺さんだからか。
ーーー(俺はな、政府の連中も居場所を掴めない男なの。いわば最強のサイキッカーなのよ。
ーーー(爺さんがまともな政治家だから目をかけてたんだがよ、ここまで説明が下手なんじゃアレだよ。これじゃみんなが混乱するだけじゃねえかって思って心配になったんだよ。
ーーー(だから仕方ねえから再登場してやった訳さ。
ーーー(さっきからコレをやりすぎて疲れてるっていうのによ!
ーーー(爺さん、とにかくいいか、ちゃんと順番に説明してくれ。
「馬鹿もんが!ペラペラくだらんことをしゃべりおって!何が最高のキッカーだ?お前は運動選手なのか?名前を言え名前を!」
ーーー(はあ?俺がサッカー選手だっての?)
ーーー(笑いが止まんねえぜ!ラグビーだったらどうすんだよ?
ーーー(いいか、おれは精神感応の能力者なの。
ーーー(あんたらが頭の中で考えてることが俺には筒抜けなんだよ。
ーーー(爺さんよ、あんたの考えも俺にはわかってんの。いいか、だからちゃんと、
「黙れ!おいラグビーだか何だか知らんが、黙れ!いい加減にしろ!どこで騒いでおる!出てこい」
マイクを持った麹町のこの声は会場内に響き渡り、真っ赤になって怒鳴り散らす麹町の声にほぼ全員が顔を顰めた。
麹町の恐ろしい剣幕に驚かされ、また呆れてしまったことで、逆に冷静さを取り戻した尾崎が、麹町を落ち着かせるために穏やかな声で、ひとまずこう問いかけた。
「麹町さん、どうやら我々の頭の中に直接語りかけてきているみたいです。この人は超能力者のようですよ。後ろの皆さん、そういうことですよね?」
後列の記者が頷いた。
そして、尾崎と面識のある記者の一人が「そうです。ついさっき、定例会見の会場で同じように頭の中に声が響いてきました。今全員にこうしているってことですから、別にその、これを言ってもいいですよね?」
その記者はなぜか上を向いて、目では見ることのできないサイキッカーに問いかけた。
そのサイキッカーは、今質問してきた記者にだけこう答えた。
ーーー(その通り。今はあんたにだけ話しかけてるよ。
ーーー(あんたの名前もあんたの上司のとんでもない嫌な奴のことも知ってるよ。いつもご苦労様と言いたいね。他の奴らには聞こえてないはずだ。
ーーー(あんたが掴んだネタ、あいつに何度も握りつぶされたんじゃねえの?
ーーー(尾崎のとっつぁんと同じく、あんた、まともな記者さんなんだから。
ーーー(そいつの名前はここじゃ出さねえが、官僚の飛ばし2件のこと。
ーーー(そのことしか俺は知らねえが、他にも沢山あんじゃねえの?
ーーー(あんたが正しかったんだよ。水谷の前の奴の時もそうだっただろ?
ーーー(今後のために今、俺が言ったことをしゃべってみるといい。俺が強制的に言わせたってことにして今ここでしゃべるといいよ。そうしないとあんたの上司のことをこれからバラしまくるとかなんとかって言えよ。
こう言われた記者が「え、それはちょっと」とか「さすがにそれは僕は」と言ったところで、またサイキッカーの声がここにいる全員に響いた。
ーーー(あーあーもうね。この記者さんは上司のことを庇ってんだか何なのか知らんけど、俺が言えっていったことを隠したいんだとよ。言った方がいいぜ?あんたが言わないと、ここにいる全員のヤバいことをバラしまくってとんでもないことになるぜ?
ーーー(もちろんあんたのクソ上司のこともここでペラペラしゃべってやるよ。
サイキッカーのこの発言を受けて、多数の記者が慌てて声をあげた。
「おい、とにかくこの男の言うことを聞いておけ!」
「そうだ、どこの誰かもわからない男だが、何を言ったんだ?」
「あんた一人のためにこの場が混乱させられるのは困るんだよ」
ーーー(その通り!今ここで言わないと逆に記者連中からあんたが責められるぜ?
ーーー(それにあんたの上司がもしあんたを飛ばしたり、今の立場を脅かしたら、俺があいつを徹底的に追い詰めることを約束するよ。
こう言われてこの記者は両手で額を押さえた。
隣からも前からも、恐ろしい目で睨みつけられたこの記者は諦めてこう言うしかなかった。
「この方が言うには、僕が掴んだネタが握りつぶされたことを知っていると。ずっと前のこともそうですが、前回の官僚の件も……前総理の時も今の、その、総理に関することも僕が正しかったと。これをここで言わないと、僕の上司のことを色々話すと、そんなことを言われました」
会場は一気にざわついた。
気の毒な記者は、今後のことを思って頭を抱えていただろうが、サイキッカーのこの言葉で少しだけ救われた。
ーーー(いいか、記者さんよ。あんたこそまともな記者だから言うが、もしあんたを飛ばそうとしたり、なんらかの嫌がらせをするような奴がいたら、それこそそいつはカスみたいな野郎だから。ここにいる全員がそれを知ってるし、あんたに手を出す奴のことを記事にしてくれるだろうよ。
ーーー(そうしてくれるよな?記者さんよ。
ーーー(そうしないと、あんたらも俺にやられるぜ?どう?
ーーー(はいどうぞ、頷きサインをお願いしますよ。
すると、後ろの記者達は一斉に三回首を振った。
それを見た麹町は、ラグビーをやっているらしい名キッカーが本当にこの会場か、会場の上階だが横だかにこっそりと隠れながら、自分の頭に言葉を伝えてきたことにやっと気が付いたらしかった。
「わかった。わしに何を言わせたい?」麹町がついにこう言った。
ーーー(ありがとよ爺さん。まずは釜谷の秘書の女と山本のコソコソ話からだ。
ーーー(どうして爺さんはその内緒話に気が付いたんだ?それをまず話してくれ。
「そりゃさっき言っただろうが!お前は人の話を聞いていなかったのか?」
ーーー(おい爺さんよ、話が色んな方向に飛んでその話は全く訳がわから、
すると会場にいる記者が、サイキッカーを加勢するように一斉に声をあげた。
ーーー ーーー ーーー
記者その1が言うーー『いいえ、仰ってません。ご自身の部屋で遠山さんを作業させて、その日に山本議員の部屋の前で釜谷さんのところの秘書が話していたとしか、聞いてお、』
記者その2同じくーー『誰が話していたかがわからなかったのですが、山本議員の部屋の前で誰が、』
記者その3慌てるーー『話の内容は仰らなかったので……部屋の前に立っていらしたんですか?それで麹、』
記者その4が言うーー『こうなって胸騒ぎがしたとしか、』
ーーー ーーー ーーー
これを聞いた麹町がすぐにまた大声で喚き出した。
「人の話をちゃんと聞いておけ!わしはちゃんと言った。山本の部屋の前で釜谷の秘書と山本がコソコソ話をしておったと、さっき絶対にわしは言った。わしはちゃんと言ったじゃろうが!スカッとは聞いたか?黒田も、ちゃんと聞いておったか?」
黒田はにっこり微笑んで佐倉に答えを押し付けた。
「佐倉君、僕はその時ちょっと音声調節で混乱してたのだけど、君ならわかるよね?」
こう聞かれた佐倉は、まずは面倒ごとを押し付けられて困ったような顔をして、黒田を睨みつけた。
そして、申し訳なさそうに「いえその、私は、」と小さな声をだした。
黒田が笑いを堪えている様子にムッツリとして口をへの字に曲げた佐倉をみて、まさか今この会場を混乱させている“ラグビーをやっているらしい運動選手の名キッカーのサイキッカー”が、この秘書であるとは誰も思いもしなかった。
佐倉はここで素晴らしい演技力を発揮し、なかなかの困り顔を見せつけた。
そして、うまい具合にこの後の主導権を握れそうだと思った佐倉はこんな言い方で麹町をなだめにかかった。
「いえ、私はさっき麹町先生がどのように仰ったかについては、ここにいる皆さんと同じように正確に再現することはできませんが、」
佐倉はひとまず『正確に思い出せず再現することが出来ないのは皆の方である』と言って麹町をなだめた後で、麹町がまた喚き出しそうなのを見て、すぐにこう続けた。
「実は、私は先生から詳しく説明を受けていたのでだいたいのことを把握しておりますので、先ほどの発言について先生が仰ったことを一言一句記憶する必要がなかったんです。ですから……つまりその時の状況を知っていた私はそれほど必死になって先生の話をメモする必要がなかったという訳です。そのため、私も皆さんと同じように先ほどの状況を正確に再現できないんです。ただ、先生が仰りたいことは存じております」
佐倉の発言を受けて、記者の一人がこれに飛びついた。
「じゃああなたにお聞きしますが、山本議員の部屋の前で話をしていたのは、山本議員と釜谷議員の秘書の方ということで間違いはないんですね?」
「その通りです。もしかしたら先生も、先ほどそのように仰っていたかもしれませんが」
佐倉はにっこりと微笑んでこう答えた。
多くの記者がほっとする中、サイキッカーはこう言った。
ーーー(はあ?俺は爺さんの支離滅裂な話に呆れたぜ?最初からこの秘書に聞きゃよかったっての?軟弱そうな顔しやがって。泣き虫秘書ってのはこいつか?爺さんよ。頼りになりそうもない弱っちいこいつに聞いてもいいのか?俺はあんたに聞きたいんだよ。
ーーー(泣き虫野郎なんてのはろくでもない野郎だろうがよ!そうだろ爺さんよ?
「馬鹿もんが!うちのスカッとはしっかりしておる!見かけによらずちゃんとした男じゃ。よく知りもしないで何を言うか。スカッとも今言ったろうが、わしはちゃんと言っておったと」
麹町はさらにこう続けた。
「いいかスカッとよ。お前がちゃんともう一回説明してやれ。人の話を理解できないこの無礼者にちゃんと説明してやれ!」
佐倉は困り果てたように苦笑いをし、麹町の気が変わらないうちにこう答えた。
「承知いたしました。もし私が大切なことを言い忘れたり、内容に抜けがあったら先生がお助け下さい」
お読みくださりありがとうございます。
投稿出来ず申し訳ございませんでした。
なかなか熱が下がり切らず、ようやく一話確認できました。
また頑張っていきたいと思います。
よろしくお願いいたします。




