表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
50/60

50. 麹町爺の破壊遺産足止め工作(2)

 17時半過ぎ。

 大学の研究者と技術者らが中心となった、減災を効果的に推進していくことを目的とした研究会の会場。

 権藤は空飛ぶカァちゃんと麹町の私設秘書の()()と一緒にこの研究会に参加していた。


 麹町は山本ミキと釜屋の秘書の不穏な会話を聞いてすぐに権藤に連絡し、元々この研究会に参加する予定だった権藤に、空飛ぶカァちゃんを飛び入り参加させるから面倒をみるよう促した。


 以前権藤がこの研究会に空飛ぶカァちゃんを参加させて、研究者や技術者と意見交換をさせたいと山本ミキに申し出たところ、秒で却下されていたのだが、麹町と権藤がサイキックの予知の話をした時にこの話をしたばかりだったので、麹町は今日この研究会で空飛ぶカァちゃんを匿うことにしたのだ。


 危険から身を守る際に一番頼れるのは『第三者の目』であることを麹町はよく知っていた。

 それが大学の教授たちであったり、先日の災害警戒区域の調査に参加していた技術者であれば、“人間ドローン”としてそれに貢献した空飛ぶカァちゃんを守る目として申し分ない。

 

 麹町は自分のところの大男を残して、自分だけはいったん部屋に戻った。


 権藤には、空飛ぶカァちゃんに“消防士の真似事“をさせないように直接言いつけてあるし、大男には自宅に送り届けてからもしばらくは空飛ぶカァちゃんの住まいを見守るように頼んでいた。


 予知の通り、水谷が黒幕らしい悪だくみ談義を盗み聞いた麹町は、今日は可能な限り部屋に残って何かの時の対応をするつもりだった。

 

 さて、議員会館に戻った麴町を見つけた山本は、引き攣った笑顔を浮かべながら大嫌いな麹町に歩み寄った。

 意地の悪そうな目を大きく見開いて高速で瞬かせながら、部下を心配する上司を演じながら麹町に訊ねた。

 「遠山さんは何時ごろに自宅に着きますか?女性一人だと心配ですから」


 麴町は面倒くさそうに「仕事が終わり次第に決まっとる。くだらんことを聞くんじゃない!ちゃんと棟の管理人と団地の組合長が戻らせるからぎゃあぎゃあ言うな」と言って、まるで蚊を追い払うように右手を山本の目の前で左右に振った。


 「でも!私は何時頃自宅に着くか確認しないといけませんから。いくらなんでも七時には戻りますよね?」

 山本は食い下がる。


 麴町は顔を顰めてため息をつき「いきなりどうしたんだ?いつも佐倉のにいちゃんに任せっきりだろうが。わしがちゃんと車も手配しとるのに何が気に入らん?」と言ってじろりと山本を睨みつけた。


 突き刺さるような視線に捉えられ、そのまま口を噤んだ山本をせせら笑いながら、麹町が言う。

 「そんなに空飛ぶおねえちゃんが心配なら、今からあんたの部屋に行ってちょっと話そうかね?ご親切な山本さんよ」


 この挑発に山本はカッとなったが何も言い返せず、わなわなと震えだした。

 

 調子づいた麴町はしつこい。

 「さあ、働くレディーの勤務時間についてあんたの意見を聞こうじゃないか」


     ◇◇◇◇◇


 19時を過ぎた。


――(ほんとにミキは使えないわ。麹町に部屋に入り込まれるなんて真性の馬鹿につける薬はないわね)

 

 水谷は空飛ぶカァちゃんへの命令を山本ミキにさせるつもりだった。

 しかし、山本は麹町が居座って帰らないため空飛ぶ女に電話をかけられないとメールしてきたのだ。


 『申し訳ございません。どんなにお願いしてもお帰りいただけないんです。どうしましょうか、遠山さんにはメールで連絡しましょうか?』


 山本からのこのメールに水谷はすぐにこう返した。

ーー『メールをする必要はないです。仮にもし、既にメールなんかしていたら困ったことになるわね……もちろんあなたがですよ。私に断りもなく勝手なことをしないように。こんなに遅くまで働かされてきっと疲れている彼女にうるさく言うのはやめなさい。彼女には帰宅してゆっくりしてもらいなさい。もう彼女のプライベートの時間ですよ。だからもう彼女が何をしようが()()()()()()()()()()()()でもあるわよね。あなたも同じようにゆっくりなさい』


 山本はその返信内容を見て冷や汗が噴き出た。

 心臓が早鐘を打つようにリズムを刻んだ。


 水谷の言葉にはいつもなんとなく棘があるが、彼女の口癖の『困ったことになるわよ』という言葉……この言葉が出ると、言われた者は何かしらの処罰を受けることが多いのだ。

 以前本村もよく、このひと言を呟かれて怯えていた。


 麹町はメールを確認する山本のうろたえた様子をじっと睨みつけながらこう思った。

――(もうしばらくこの馬鹿女で憂さ晴らしするか)


 一方、指示役にさせるつもりだった山本の失態にイライラしていた水谷は、腹いせ紛れに掌で机をバンと叩いた。


――(ここまで頭が悪いと逆に私が危険だわ、飛ぶ女にメールしようとするなんてね。そろそろミキには退場してもらおうかしら、別になんの役にも立たないし。はあ……どうするか、橋本(釜屋の秘書・橋本菜月(はしもとなつき))に電話させて面倒なことになるくらいなら直接私がするか?……さてどんなふうに誘い出す?せっかく()()()を呼んであるんだもの、今日決着をつけるべきよね。先手を打たないとこっちがやられる)


 水谷が人差し指で顎をつつきながら考える。


――(いえ、やっぱりミキにさせよう。なんとか麹町を追い出させて、帰宅する途中で指示を出させるしかないわね。いくら馬鹿でも私に言われたら必死でやるしかないのはわかるはずだもの。ふふっ、さて、いったんミキを安心させてあげましょうか)

 

 水谷はこの後、山本ミキに今日また連絡する旨のメールを送ってやった。

―――『さっきはきつい言い方をしてごめんなさいね、研究会のこともあるし、今日また連絡します』


 このメールは山本をホッとさせた。


 しかし、ここまでの山本宛てのメールでは、水谷は何かの証拠になるような指示を一切書いていない。

 もう山本は哀れな捨て駒なのだ。


     ☆☆☆☆☆


 20時少し前。

 空飛ぶカァちゃんの電話が鳴った。


 権藤と麹町のところの大男に緊張が走る。


 研究会は既に終了しており、ビル内に残っているのは権藤と特に懇意にしている大学の准教授と助教の二人のみ。

 鳴り続けるコール音に気が付いた助教の男がたずねる。

 「出ないんですか?なんかかなりしつこく鳴らしてきますね」


 空飛ぶカァちゃんは不安そうにスマホを見つめていて答えない。


 権藤と大男は二人して『出るな』と両手で制している。


 なんだかわからないが深刻そうな三人の様子が気になった准教授が近づいてきた時に、いったんコール音が途切れた。

 空飛ぶカァちゃんは胸に手を当ててほうっと息を吐く。

 しかし、またすぐに電話が鳴る。

 

 准教授の男が言う。

 「何か心配事でも?どうも招かれざる相手からのコールって感じだけど」


 権藤と大男が眉間に皺を寄せて頷く。

 大男がそうっと空飛ぶカァちゃんの手からスマホを取り上げテーブルに置いた。

 

 助教の男が困り果てた様子の三人の顔を見つめて、そのスマホを手に取った。

 「俺と先生で何かできることは?」

 

 

 

ここまでお読みくださりありがとうございます。

次回は山本ミキから空飛ぶカァちゃんへの命令の部分になります。

ちょっとムカつく場面ですが、少しだけご辛抱くださいませ。

----------------------------------------------

本日と明日、『Black Notes』も続きを投稿いたしますので、お読みいただいているようでしたら、続きもよろしくお願いいたします。ここからは結構展開がわかりやすくなってきますので。


いつもありがとうございます。

もし少しでも面白いと思っていただけましたら、ブックマークやご感想をいただければ励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ