41.佐倉さんのとうちゃんと母さん
空飛ぶカァちゃんの書棚にから出された『虹色の音符』は、佐倉の父と母の心の奥にひっそりとしまわれていた痛みや悲しみ、それに伴う後悔を、いきなり目の前に突き付けて呼び覚ました。
彼らはただ空飛ぶカァちゃんに届け物をしに来たのであって、まさかそこでずっと探していたその本が出てくるとは夢にも思っていなかった。
空飛ぶカァちゃんは軽い気持ちで好意から本を渡したのだが、その行為は何の心の準備も覚悟もできていない状態の彼らに過去の古い傷を突き付けてしまった。
この無神経なやらかしを佐倉にどうしても謝りたくて、空飛ぶカァちゃんが佐倉宛てに連絡を寄越したのは、麹町が参加していた定例意見交換会が終了してから数十分ほど経った時だった。
その時佐倉は、麹町からしつこく語学力について突っつかれて困り果てていた。
佐倉が、エネルギー関連の大手外国企業の日本法人CEOと麹町の通訳のために、彼らの横に文字通りへばりついていたところ、そのCEOの旧知であるらしい駐日大使が駆け寄ってきて急にアラビア語で話しだしたため、麹町が『なんて言ってんのかスカッとにはわかるか?』と不安そうに小声で訊いてきたのでどうしようかと躊躇していたところ、その大使がなぜか佐倉にアラビア語で話しかけてきたため、つい答えてしまったことで、佐倉はその大使にその後しばらく“へばりつかれ”、まるで彼の通訳であるかのように、軽く30分は付き合わされた。
その大使は最初に佐倉が『大変申し訳ないが簡単な会話しかできない』としながらも、実際は大切な母国の言葉を丁寧に正確に話し、二度ほど『今仰った部分ですが、専門的な単語でしたので英語で確認させていただいても?』と率直にたずね、しかも内容に全く間違いがなかったことで、佐倉を有能で誠実だと褒め、麹町に対してはたどたどしい日本語で『彼は素晴らしい!今度から必ず呼んでほしい』とまで言った。
佐倉が恥ずかしそうに微笑むと『ここまで話すにはとても努力したことだろう』と言って嬉しそうに佐倉の肩を叩いたりした。
麹町の立場からすると、最初に話していた相手との会話を邪魔された形になってしまったのだが、大使があまりにも楽しそうにしているので、麹町はしばらくの間佐倉を貸し出してやった。
途中でうまい具合に、佐倉が麹町の存在をさっきまで話をしていたCEOに思い出させたことで、途中からは英語を交えた通訳に戻ったが、それでも大使のほうは佐倉にアラビア語で話しかけ続けた。
佐倉はもう諦めていつもの笑顔で丁寧にこれに応えた。
意見交換会は問題なく――というより麹町の想定を超えた円滑なコミュニケーションが取られ、その大使とCEOを通じて他の初顔合わせの参加者とも積極的な交流ができた。
麹町にとっては非常に満足のいく結果となったのだが、やっと大使から解放された後に、佐倉は『スカッとがアラビア語を話せるなんて山本も知らないだろう、一体どういうことか?』と詰め寄られた。
そのあまりのしつこさに言い訳するのも面倒になり、佐倉が「語学センスはあるほうかもしれませんね。実は子供の頃から多言語習得が趣味で色々な語学教材を使って声真似をしてたんです」と言ったのだが、麹町は『嘘言うな、そんな子供がいるか!そんなんであんなにしゃべれるはずなかろうが!』と大声でわめきだし、顔を近づけて頬をつねってきたりしたので「本当ですよ。もういいじゃないですか、語学の天才とでも思ってくだされば光栄ですよ」と面倒くさそうに受けが流そうとした時に、空飛ぶカァちゃんからの連絡が入ったのだった。
佐倉はこれ幸いとばかりに大声で熱の具合をたずねたり、防火スーツは無事に受け取れたかと確認したりして麹町の追及地獄から上手く逃れた。
麹町はため息をつき、電話中の佐倉に『この話の続きは必ずするからな』と言って背中を向けて手を振った。
佐倉はそのまま空飛ぶカァちゃんの話を聞いた。
空飛ぶカァちゃんが謝罪のために連絡してきたことがわかると『責任を感じる必要は全くないし、よかれと思って本の貸し出しを申し出てくれたことはわかるから謝ったりしないでほしい』と言って空飛ぶカァちゃんをなだめたのだが、佐倉の両親の辛そうな表情が目に焼き付いている空飛ぶカァちゃんは申し訳ないという気持ちが大きく自分を責めるようなことばかり言っていた。
佐倉はそれに辛抱強く付き合い、最終的に『父と母はずっとあの本を探していたので近いうちに見つけたことを伝えるつもりだったが、また山本に振り回されたせいで忘れていた』という適当な言い訳をなんとか受け入れさせた。
そして、佐倉はサイキックの予知のことや空飛ぶカァちゃん自身の能力について、一度ゆっくり話してみたいので時間を作ってほしいと申し出た。
空飛ぶカァちゃんは『自分もそうしたいと思う』と言った。
誰かに自分の能力について打ち明ける――自分がそんなことを思うなど、空飛ぶカァちゃんにとっては初めてのことだった。
佐倉のほうはと言うと、隠し事が多すぎて何から話せばいいのかじっくり考える必要があったのだが、まずは予知をしたサイキックというのが英介であることと、静の能力について話すことが先決だった。
その前にまずは静とじっくり話さなければと思っていた佐倉は『今はいったん、山本や総理の指示には絶対に従わないでほしい』ということを空飛ぶカァちゃんに言い聞かせた。
また、黒田にはサイキックの予知については伏せるが、万が一にも佐倉がいないところで空飛ぶカァちゃんをどこかに飛ばせるようなことがあったら、できるだけうまく、それをやめさせるような方向で調整してもらうように頼むつもりだということ、そして、麹町と権藤に空飛ぶカァちゃんに対する人権問題について、できるだけ早いうちに言及してもらうように働きかけるつもりだと説明した。
今は、空飛ぶカァちゃんの安全を守りたいのだということを何度も伝え、静と英介のためにも絶対に危険な真似をしたり、くだらない奴らのために自らを犠牲にするような真似だけはしないでほしいと訴えた。
謝罪をするつもりが、心配されて励まされる形となった空飛ぶカァちゃんは、電話の切り際に『佐倉さんのおかげでこれから先のことを前向きに考えられるようになった』と言い、自分や子供たちのために佐倉がここまでしてくれたことや、ご家族の方にも温かい励ましをいただいたこと――
これまでの全てのことが、どんなに嬉しくてありがたいことなのか伝えきれないと言った空飛ぶカァちゃんの声は震えていた。
『私には感謝しかないです』
佐倉には、そう言った空飛ぶカァちゃんが泣いているのがよく分かった。
空飛ぶカァちゃんが電話を切った後も、佐倉はいつまでもスマホを耳に当てたままで『感謝しかないのはこっちだよ』と言い――『あなたがあとがきに書いてくれた言葉を見つけた時の喜びは、きっとあなたにも誰にもわからないよ』そう言って目をつぶった。
――(さあ、明日の朝は静ちゃんにメールだな)
ことサイキックに関して、佐倉の一番の理解者は静だった。
静は理解が早いだけでなく想像力に深みがあった。
――(あの子はきっともう私の正体をわかっているだろうね。静ちゃん、だから君が気に入っているんだ。英介は悪魔みたいに意地悪だって言うけど君は優しい子だよ。英介もいつかきっとわかる)
◇◇◇◇◇
土曜日の午後、佐倉は車を出して静と英介を迎えに行った。
空飛ぶカァちゃんからの許可を得た佐倉は、その日、翻訳家・糸数万里の訳本を大量に借り受けた。
本はそのまま車で佐倉の両親の元へ届けられることになり、静と英介は佐倉の実家に招待されることになった。
佐倉が一人で暮らすマンションに二人を招いてもよかったが、このご時世、何が非難の対象になるかわからない。
そのため、父母が住む実家で、夜にでもじっくりとサイキックの話をするつもりだった。
――(ちょうど防火スーツを届けたばかりだし、山本には子供に同情した父が招待したと言っておけば問題はないだろうし、年寄りの家に泊まらせるなら私を嫌っている総理が難癖をつけずらいからな)
サイキックが関わること、静と英介の件については慎重にしていかなければならない。
佐倉は英介の祖父母に、最近落ち込んでいる英介の気晴らしになればと思うので父母の住む実家で一泊させたいと申し出た。
彼らは迷惑になるからと言って断ったのだが、佐倉が両親が楽しみにしているのでぜひそうさせてほしいと願い出て、半ば強引にお泊りが決まった。
いつもの英介なら飛び跳ねて喜ぶところだが、空飛ぶカァちゃんの火事のことを予知してからの英介は口数も少なく、ほんのちょっぴり笑っただけだった。
むしろ静のほうが『よっしゃあ!』と言って飛び上がった。
“とうちゃん、とうちゃん“と変なアクセントで呼ばれ続けた気の毒な佐倉の父に会えるのと、マザコン佐倉の母親がどんな人なのか興味津々だった静はごきげんになり、英介の肩に手をかけ『早く準備しろ』と命令してから、自分もいそいそと泊り支度を始めた。
結局、英介の祖父母は「いつも気遣ってもらってばかりで申し訳ない」と何度も頭を下げて二人の孫を送り出すことになった。
佐倉は英介と約束した通りに、静にはまだ英介の予知能力のことを話していなかったし、静の能力についてもそれは同じだった。
今の段階では、このことはある程度ぼやかして話した方がいいと佐倉は思っていた。
不安定な英介に衝撃的な秘密をあれこれ抱えさせるのは危険だし、それこそ逆に静を危険にさらす可能性があると思ったからである。
佐倉が少し他人の思考を読めたり、自分の意思をある程度他者に伝えられるちょっとしたサイキックであると伝えた上で、そういう力のある自分と触れ合ったことで『静ちゃんも時々人の思考が読めるようになったらしい』とでも言っておくつもりだった。
もしかしたら英介のサイキックも『佐倉と触れ合ったせいかもしれない』――と、いったんこんな風に伝えておき、空飛ぶカァちゃんの安全が確保され、彼女が普通の生活を取り戻した後にゆっくりと検証したり、今後英介が生活していくうえで注意していくべき事柄をじっくり話して聞かせてもいいと考えていた。
不安定な英介に静のテレパシーについて全て話せば、自分の思考を読まれるという不安や不快感からかなりのストレスがかかるだろうことは容易に想像できたし、色々なことが顔に出やすい英介のせいで、万が一にも静の能力のことが周囲に漏れてしまったら静の生活が脅かされてしまう。
佐倉は運転しながら信号で止まるたびに、静に『羽』を飛ばし、家に到着して落ち着いたら英介のことで話したいことがあるということと、その時は話をしながら自分の羽と『君のテグス』を使いながら会話を進めるからそれに合わせてほしいと伝えた。
佐倉が『英介には自分たちのテレパシーについてはほんの少し伝えるだけにしておきたい』と思っていることがわかると、静かもまた『私もそう思う』と佐倉に伝え返した。
彼らの羽とテグスは非常に便利だった。
これがあるからこそ彼らの秘密は守られ、自由でいられる。
今のところ、身近に関わり合う連中の中に佐倉と静を脅かすほどのサイキックはいないはずだ。
もちろんいつか、それなりの能力を持つ者たちが出てくるだろうが、佐倉は少なくとも自分が暮らすこの国に、自分ほどこの力を自在に操れる者はいないと考えていた。
佐倉は小学校から高校くらいまで、長期休みのたびに父母と一緒に日本中あちこちを旅行して、自分と同様の能力を持つ者を密かに探してまわった。
時折、他者の思念を鋭く捉えられる感覚の冴えた人間を見かけはしたが、結局佐倉の羽を飛ばされても違和感を感じるだけで、佐倉の存在に気付く者は一人もいなかった。
佐倉の両親は息子が旅行に行きたいと言えば、なんとか仕事を調整してどんな場所にでも連れて行ってくれた。
自分たちがしたくても出来なかったことを、息子には全て経験させてあげたかった。
何年かに一度は海外にも旅行させ、それこそ山本ミキが間違えた世界遺産や、その近くの美しい街並みを歩いたり、物語の舞台になった有名なお城や遺跡を訪ね、子供にわかりやすいように説明する父親に寄りかかり、母と手を繋いで寛ぎながら、そこら中に自分の頭から『羽』を飛ばした。
大学に入った後も、一人で、時には友人たちと旅をしながらあちこちを訪ね歩いた。
佐倉の羽は無数無限であり、広範囲に飛ばすことができる。
似たようなお仲間をあぶりだそうと色々な土地で頑張ってみたが、結局佐倉はその行為に飽きてしまった。
――(もしかしたら似たような仲間がどこかにいるかもしれないが、もう別にいい。この世界に自分と同じくらいの能力者がいたとしても、賢いやつならどうせ存在を消して隠れてしまうだろうから、こんな風に探し回るのは無駄なことだ)
佐倉が透明ではない本棚のほうで見たサイキックが普通に生きる世界になるには、まだだいぶ時間がかかるのだと佐倉は気づいたのだった。
佐倉と静が時々羽とテグスを飛ばしている間、英介は初めてみる街並みを目で追っていた。
車に乗って窓の外を眺めるのが大好きだったはずなのに、英介はまた余計な映像が浮かんでこないようにと、それだけを願いながら、ただ機械的に景色を追っていた。
そうすれば余計なことを考えなくて済むし、他のことに頭を使っていれば、怖い雑念が入ってこないだろうと思っていた。
坂を上り静かな住宅街に入ると、大きな家の前で背の高い白髪混じりの男性が佐倉に向かって手を振るのが見えた。
ガレージに車を入れる前に佐倉は静と英介を車から降ろし「とうちゃん、二人を家に入れちゃって」と言った。
その男性はうんうんと頷いて「やあいらっしゃい」とにこにこしながら二人に話しかけてきた。
英介は思わず「えっ?とうちゃんって……」と言ってしまった。
佐倉の父は恥ずかしそうに大きな掌で目を覆った。
「そうだよ、私が烈の父だよ。いらっしゃいよく来たね、楽しみで外に出て待ってたんだ」
こんな時の静は行儀が良かった。
「こんにちは。今日はありがとうございます、遠山静です。こちらは弟です」
「やあ!君がしずちゃんか!いつも烈がありがとう。英介君もありがとう」
佐倉の父は肩幅が広く長身で脚がすらっと長かった。
彫りの深い日本人離れをした顔立ちをしており、優しそうな笑顔が柔らかい印象の素敵な紳士だった。
静は佐倉に苛められているらしい可哀そうな“とうちゃん”を楽しみにしていたのだが、この人をとうちゃんと呼ぶ佐倉に呆れてしまった。
――(この人に“とうちゃん“はないんじゃないの?この姿でとうちゃんとうちゃんよばれたら、逆に目立って恥ずかしいじゃん!酷いよ佐倉さん)
佐倉の父に促され、レンガ敷きのアプローチから中に入ると玄関扉から一人の女性がひょっこりと顔を出した。
マザコン佐倉の母親の登場である。
静はどんな感じの人だろうとつい張り切った笑顔を作ったが、彼女を一目見て固まってしまった。
――(何この人!ものすごい美人!)
静は、これならマザコンになってもしょうがないと思った。
「こんにちは、どうぞどうぞ、中に入ってね。それともお庭を見る?烈が育てたハーブと野菜が沢山ありますよ」
佐倉の母は優し気に声をかけてくる。
アプローチと同じ質感のレンガを仕切りに使った花壇と畑を指さしながら、佐倉の母は英介と静を交互に見て微笑む。
今度は英介が礼儀正しくこれに応えた。
「こんにちは遠山英介です。佐倉さんにはいつも親切にしてもらっています。今日はありがとうございます」
「まあ!こちらこそありがとう。せっかくだからお庭を見ますか?最近畑も作ったのよ」
「はい見ます!野菜もハーブも多分大好きです。食べたりできるし健康にもいいし」
英介はわけのわからない返事をして、佐倉の母を笑わせた。
急に元気になった英介を見て呆れた静が口をぽかんと開けると、佐倉のとうちゃんが話しかけてきた。
「私も妻も楽しみにしていたんだよ。しずちゃんはとっても勉強を頑張っているそうだね?よく烈から聞いていたんだ」
静は「ありがとうございます」と言ってから、この素敵な紳士をわざと大声でとうちゃんと呼んでずっと苛めていた佐倉を睨みつけた。
車を車庫に入れ終わった佐倉はそんな静の視線は気にもせず「とうちゃん、野菜はいいけどハーブには水を遣りすぎてないだろうね?可愛がりすぎて水を与えすぎるとダメなんだから」と小言を言った。
「わかってるよ、言われた通りに一日おきにしてるから」
佐倉のとうちゃんがこう答えると、佐倉は仏頂面で言う。
「全部一日おきにしたらダメなんだからね?ゼラニウムは2~3日おきだってわかってるよね?」
「はあ?別に平気だってそんな。見ればわかるけど、ものすごく元気で伸びだっていいんだから。このローズマリーなんかすごい元気で生き生きと、」
佐倉がすぐにさえぎって口を挟む。
「はああ?やっぱり水をやりすぎてんだね。母さんに言っておかないとすぐこれなんだから」
佐倉は嘘みたいに口うるさかった。
いちいち文句をつけて指図をしている姿に静は呆れてしまった。
「ちょっと佐倉さん!そんな神経質にならなくてもあんなによく育ってるじゃん。うちのおじいちゃんなんか、しょっ中観葉植物を枯らしておばあちゃんに怒られてるんだから。だいたいそんな偉そうに言ってさ」
静がこう言うと、佐倉のとうちゃんが身を乗り出してきた。
「そうだよね!本当に神経質で口うるさいったらないよ!しずちゃんもそう思うだろう?」
「思います。そんないちいち二日おきとか三日だとか、そこまでしなくても大丈夫だよ佐倉さん」
「静ちゃんそれはダメだって。ちゃんと性質を考えて水遣りしないと元気な株が育たないんだよ。とうちゃんはすぐに暑そうだとか乾燥してるとか言って水をやりすぎなんだよ」
佐倉はため息をついてこう言い返す。
「そんな平気だって。運動後にちょっとくらいがぶ飲みしたって元気なのと同じだよ」
佐倉のとうちゃんも負けじと言う。
そして静はすかさず佐倉のとうちゃんの加勢に入る。
「そうだよ佐倉さん!こんなに育ってるなんてほんとすごいよ。イギリスのなんとかガーデンってやつみたい」
「だろ?私が毎朝ちゃんと確認して水を、」
「ほらやっぱり!毎日水遣りしているんじゃないか!だからあれほど言ったのにとうちゃんはもう」
しばらく父と息子のこんなやり取りが繰り返された。
奥の庭では大きな植木鉢を眺めながら、佐倉の母と一緒に嬉しそうに笑っている英介がいた。
頬を赤くして頷きながら佐倉の母に笑いかける英介を見て、静は今日ここへ来て本当に良かったと思った。
話し方や笑い方、目と眉の感じがそっくりな父と子、そして、にっこり笑った時の目尻の皺の出方と口元が良く似ている母とマザコン息子。
いつもとは違う、気の抜けたわがままな佐倉を見ていたら、静は佐倉がまるで自分の身内のような……もっと言えば家族のように思えてきた。
きっと、そうだったらいいのになと感じたからだった。
少し前に家族を手放すことになった静には、ちょっとした親子の言い合いすらも眩しくてたまらなかった。
お読みくださりありがとうございます!
次回は佐倉宅での楽しい時間と佐倉の羽と静のテグスのお話です。




