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22.山本先生をお助け出来ます

 佐倉一人を病院に残し、麹町のみが月曜に姿を現した。


 早朝、本村を呼び出した麹町が言う。

―――「やれることを用意してやった。それを何があろうとも必ずやり遂げろ、必ずだ」


 部屋に入るなり縮こまって下を向いていた本村はこれを聞いて震えあがり一言も返せなかった。

 麹町が続ける。

 「これが最後だ。権藤の奴に、今日ならあの“空飛ぶ女“を貸し出してやると言った」


 本村はがばっと顔を上げた。

 「え、権藤に?土砂崩れの、崩落の兆候があるとか大げさに騒ぎ立ててあの女に写真を撮らせたいと言っていた件ですよね?まさかあいつに、」

 「お前、誰のせいであいつに、あの女を使わせる羽目になった?あの地域の対応はお前が責任を持ってやるんじゃなかったのか?いまだそのままにしおってこの馬鹿が!」


 麹町が怒鳴るとまた本村は顎を引いて下を向いた。

 「権藤には今日なら空飛ぶ女を貸してやるから、行きたきゃ現場に行けと言ってある。あの男なら行くだろうよ、お前と違ってすぐにでも。だから今日やれ」麹町はギロリと睨みつけながら言った。

 「今日?な、何をすればよろしいのでしょうか?」本村は震えた。

 「会見以外ないだろうが!この愚か者が!」麹町の声が響き渡る。

 本村は答えない。今、それだけはするわけにはいかない。


―――しかし、麹町は「お前の返事は不要」と言う。


 「あいつが、権藤が不在の時にやるしかなかろうが!あいつが記者にアレを渡す前にやれ!」

 本村は頷くしかなかった。


 最後に麹町は言った。

―――「あの時と同じ会議室でオープンでやれ。絶対に記者を黙らせろ。どんな手を使ってでも恥知らずなこの失態をなかったものにして見せろ。できなければお前は終わりだ。会見が終わってから言い訳を聞いてやる。必ずやり遂げろ」


     ◇◇◇◇◇


 なぜか、会見で使用する会議室は既に抑えられていた。 

 本村の秘書は、空飛ぶカァちゃんが本当に“現場に飛びに行った”ことを確認した。

 事務所に確認したところ、たしかに()()()不在だった。


 そして今回のターゲット、一番の被害者の佐倉はいまだ病院に入院中であることが確認できた。


 会場の控室の裏には、万が一のために例の“現行犯“の二人を待機させた。

 (彼らには、空飛ぶカァちゃんの貸し出しと引き換えに画像の握り潰しが成功したと言って)


 秘書が考えた筋書きはこうだ。

 状況を見定めながらではあるが、権藤が『偽の録音・録画』を作り出し、それとなく脅してきたという嘘話を彼ら(現行犯の二人)に会見で話させ、本村には何が何だかわからない風を装ってもらう。

 いざとなったら本村を思うあまりに彼らが自発的にやったと言わせる――

 こうしてしばらくの間、本村は息をひそめる。

 気の毒な生贄も二人一緒なら心強いだろう。そのうち少しばかりの金をつかませてやればいい。ちょっとした仕事くらいならあてがってやれる。

 

 何もかも彼らの独断だと、先生を思うあまりやってしまったと言わせればいい。

 権藤から万が一録音の音声が流れたとしても、“嘘つき“の彼らを生贄にして逃げおおせるために。


 それに、どこかにこそこそ隠れている派遣の女が何を言おうと、金と脅しで何とかなると思っていた。

 権藤が後から何を言おうと、何を出してこようが、先にやった者の勝ちだ。

 運よく()()()()()()にできる可能性もある。

 佐倉は山本に黙らせればいい。


 本村の事務所は焦っていた。

 まさかオープンで、それもフリーも入るとは思っていなかった。


―――『最悪にも権藤がらみの救急車騒ぎ。ここまで大事になった以上、一度で奴らを黙らせるしか道はない』

 こう麹町の秘書が念押しのように伝えてきた。

 確かにうまくいけば、後から何を言おうとしつこい記者には『もうお話しいたしました』で済む。

 これをチャンスに変えなければ。

 

 午後1時20分。会議室の席はほぼ埋まっていた。


 なぜこんな急拵えの開催で、尾崎記者がわりと前列に陣取ることができたのか?

 見渡すと、しつこい今井田も、うるさい松嶋記者までもが席を確保していた。

 入口の外には、場違いな体つきの、横も縦も驚くほど大きい黒づくめの男が立っている。

 麹町の会見の時には必ず見かける麹町の私設秘書。

 まるで門番のように、そこを守るかのように立っていた。


     ◇◇◇◇◇


 午後1時30分。久しぶりに山本ミキの執務室に明るい声が響いた。


 「先生!佐倉、退院しました。ご心配をおかけしてしまい申し訳ございませんでした」

 山本ミキの忠実なる佐倉が復帰した。


 喜ぶはずの山本はなぜかびくっと飛び上がり、おたおたと慌てた様子だった。

 「佐倉君どうして……退院できたのね?かなり悪かったって聞いていましたが」

 「いえ、一応退院許可も出ましたし、きっと念のためってやつだったんです。先生お忙しいのにすみませんでした、何でもおっしゃってくださいね」


 佐倉は相変わらず感じが良く、その話し方にはホッとさせられる優しさがあった。

 山本は言いにくそうに切り出した。

 「あなたには、その、本当に言いづらいのだけど、今回のことはもしかしたら、権藤さんの出してきた音声を確かめる必要があるみたいなんです。ですから、あまり今は外に向けて、」

 「ええ?あんなにはっきり白状してるのに?山本先生、あの録音は本物ですよ、恐ろしいことですよ。

 まさか人の食べものに体に障る毒を入れるなんてひどすぎます。確かめる必要なんてないです」

 佐倉はすかさず抗議を入れた。しかし妙に明るい抗議の仕方だった。

 

 佐倉の言葉が正しいと分かっていても、山本は言うしかなかった。

 それでも佐倉をなだめにかからねばならなかった。


 「佐倉君、実は今ちょうど本村先生の会見が始まったところです。この件いったんは本村先生にお任せして佐倉君はここで私と一緒に待機して会場には近づかないようにし、」

 「は?何を言っているんですか先生!これ以上はないっていう証拠が揃ってるのに、あの人は会見で何を言うつもりなんです?墓穴を掘るだけじゃないですか、そんなことしたら大変なことになりますよ。権藤さんが黙っているはずがないです」


 「いえ、権藤さんはこちらにはおりません。遠山さんを連れて土砂崩れの危険個所に地層解析の写真を撮るために飛びました。だから、録音したという音声は出せないということです。

 佐倉君、不愉快なのは本当にわかりますが、今回はちょっと頭を冷やして、いったん待ってもら、」


 「山本先生!」

 佐倉はいつものように途中までしか言わせなかった。

 佐倉は続けた。

 「私が頭を冷やすですって?一体、何を仰るんです?先生はあんな人と一緒に自滅したいんですか?麹町先生まであんな酷い目に合ったっていうのに。あの人がこのまま無事でいられるわけがないじゃないですか!何を話すんだか知りませんが、会見をやらせたりしたらとんでもないことになりますよ」

 「佐倉君、そういうこともあるかもしれませんが、ここはいったん、」


 佐倉はまた素早く声を出す。

 「先生、もしかして、わざと本村先生をつぶすために?」

 「佐倉君?それはどういう?」

 「なるほど……誰の悪知恵なんです?麹町先生ですか?先生は本村先生を切ったんですね?それなら、」

 焦る山本ミキには佐倉が何を言っているのかわからなかった。

 佐倉はニヤリと笑った。

 「それなら、今から私も会場に行きます。いいですね、先生」

 「佐倉君!あなたが行くのだけはやめて。本村先生がそれはダメだと、」山本は口ごもった。


 さて、佐倉は首を振る。そして嬉しそうにこう言う。

 「山本先生、やっと先生をお助け出来ます。私に任せてください」


 山本ミキはそれはなぜかと聞きたかったが、なぜか言葉が詰まった。

 佐倉がしゃべりだそうとすると、どうしても言葉が出ない時がある。今がそうだった。


 そして佐倉が微笑む。

 「本村先生の、この卑劣なスキャンダルが大きくなればなるほど何が起こると思いますか? 

 先生の破壊遺産は、もう完全に()()されますよ!」


 

  

 



 

 

 

 


 

 

 

 

 

 


次回は空飛ぶカァちゃん登場です。

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