表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/37

02.佐倉烈という人

 空飛ぶカァちゃんが政府の仕事を始めたばかりの頃の直接担当は、山本ミキ(例のおべっか使い議員である)の秘書の黒田という男だった。

 彼はそれなりに思いやりもあり、空飛ぶカァちゃんの体調や筋力に合わせて無理のない業務を任せようとしてくれていたが、山本ミキが『アレを甘やかすな』と強く口を出すようになってからは、業務前後の筋力トレーニングが課された。

 どんなに過酷な業務の後でも、厳しいトレーナーの指示・監視のもとで一時間のトレーニングが義務付けられた。


 ある時、登山届も出さずに山に登った遭難者を救助隊と一緒に何時間もかけて探し、運び、ヘリコプターに乗せ終わっても『あなたは飛べるんでしょ』と言われ乗せてもらえず、フラフラになって戻ってきてもである。


 遭難した大学生の一人が「ええっ?俺たちのせいでこうなったのに。一緒に乗せていただけませんか?」と抗議しても、ヘリの操縦者が申し訳なさそうに「山本さんの指示だから。甘やかすなってね」と言って、決して休ませてはもらえなかった。


 三人の大学生はこの発言に驚いて「本当にすみません俺たちのせいで。腕の傷は大丈夫ですか?」と心配そうにたずねたが、空飛ぶカァちゃんはにっこり笑って飛んで行ってしまった。


 このことは後になって山本ミキの起こした非人道的な事件の一つとして大問題になるが、この時はせいぜいSNSで、大学生たちが自らの行動を反省しつつ、自分たちを助けるために空飛ぶカァちゃんがどれだけ無理をして探してくれたかということや、見つけた時も文句ひとつ言わず、むしろ自分たちを気遣ってくれたことに恐縮して、心からの感謝を表明した小さな記事が、ほんの数日人々の話題に上がっただけだった。


 空飛ぶカァちゃんが文字通り飛び回っている間、他の能力者3人が何をしていたかというと、怪しい動きを見せた官僚を呼びつけた大臣たちの横に立たされ、哀れな官僚の心を読むように言われたり、相性の悪い相手が答弁に立つ場合などに、事前に関係者に近づき情報収集をさせられたりした。

 現政権に批判的な政治家であったり、最近になって“いうことをきかなくなってきた”官僚共への脅しであり、たとえ決定的な証拠とはならなくても、あることないこと揺さぶりをかけて、余計なことを言わせない環境づくりに彼らの能力は一役買っていた。


 その対極で空飛ぶカァちゃんはただ便利に使われ続け、なぜか笑われ、どうしてかわからないが、その3人の能力者に見下された。


 さて、佐倉烈(さくられつ)という新しい私設秘書が山本ミキの部屋に入ったのは、例の大学生の遭難事故の後のことだった。

 この男がやってきてからは、空飛ぶカァちゃんは佐倉の管理下に置かれることになった。


 ある日、佐倉は山本ミキに対してズケズケと、そして爽やかにこう言った。

 「山本先生、先生があの方をぞんざいに扱っているという噂がSNSレベルで広がっていますよ。救助の後にヘリコプターに乗せなかったことがまずかったですね。私は、そのことがまさか山本先生の指示だったとは思えないので事実無根だと言っておきました。例のフリー記者にはっきりとね」


 「そ、そう?それは助かるわ。あの記者はしつこくて、何度も何度も詰め寄ってくるから迷惑しているの」

 「ええ。まさか先生がそんな指示を出すわけがないでしょう?何時間も山を探したあと、救助隊と連携してヘリまでおぶったあとにですよ?一人でホテルまで飛んで帰れだなんて!そんな指示をする残酷な人間がいるはずないでしょう?私は先生がまさかそんな方ではないと思っておりますから」

 「もちろん私は国家のために働く人間をぞんざいに扱ったりしません。ですから、」

 「ええそうでしょうとも!私は全面的に山本先生をお助けしなければいけない立場ですから、今後はお任せください。先生の評判に関わる問題ですからね、あの空飛ぶお方を大切にして、十分に気遣っている山本先生を前面に押し出して、小さき問題記事を握りつぶしましょう」

 「そ、そうよね?あの記事ってまだそんなに見られているのかしら?」

 「先生、小さな記事を甘く見てはいけません。ここだけの話ですが総理の、先週の週刊誌の内容についての検証記事が大変なことになっているじゃないですか。あんな風になる前にもっと好感度を上げていきましょう。私は留学先ではその方面も学んでいたんですよ」


 佐倉の爽やかな説得は、山本ミキを勇気づけた。

 卑劣と嘘と残酷で固められた政治家は、馬鹿らしい嘘の励ましにまんまと乗せられた。


 「佐倉君、あの無能な能力者のことはあなたに任せるわ」

 「私にお任せください」

 山本ミキの終わりの始まりである。

 

 二話目もお読みくださりありがとうございます!

 次回はからは空飛ぶカァちゃんの子供たちが登場します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ