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01.空飛ぶカァちゃんの始まり

 はじめまして近藤絹と申します。

 こちらのページ、『空飛ぶカァちゃん』の物語を開いていただきありがとうございます!どうぞよろしくお願いいたします。

 

 その年の夏までの1年間で、全国で確認された異能者あるいは超能力者と称される、そういった人知の及ばない特殊な能力を発現させた者たちが政府の管理下に置かれた。

 その数11人。

 最初の3名が確認されてから、何かしらの異能が発現した場合は、まずは近隣の役所等の公的機関へ申告するようにといった努力義務が求められた。

 彼らの能力は多種多様であったが、大抵は手を使わずに軽量な物を30cmほど動かしたり、風のようなものを起こしてコピー用紙数枚程度を軽く吹き飛ばしたり、それほど重量のないもの1~2cm浮かせるというような、念動力とか観念動力などと呼ばれる能力だった。

 この能力を用いたところで、何か国の役に立つような働きができるわけではない。

 ただ、その11人のうち10人にはある共通した能力が発現した。

ーーー精神感応、テレパシーなどと呼ばれるものだ。


 そして、たった一人だけ、精神感応の能力を全く持たない者がいた。

 空を飛ぶことができる能力者。

 『空飛ぶカァちゃん』と呼ばれる女性である。


 実際のところ、空飛ぶカァちゃんの固有能力は突出していた。

 政府の行った飛行テストでは連続で2時間30分ほど飛び続けた。

 休む場所のない海上で飛行テストを行うという非人道的な飛行距離計測であったが、空飛ぶカァちゃんは文句ひとつ言わず、疲れ果てて海に落ちるまで飛び続けた。

 その姿を街の巨大スクリーンでたまたま見てしまった彼女の息子と娘が人目もはばからず絶叫するほどの、それはそれは残酷なテストだった。


 精神感応の能力を持たない空飛ぶカァちゃんは、現政権にとって(時の権力者のためには)何の役にも立たない無価値な異能者にすぎなかった。


 空飛ぶカァちゃん以外の10人のうちの3人ーーー(彼らの精神感応の能力はそれなりに使えるものだった)彼らの能力は、例えば罪を犯した者への自白であったり、なにかしら政権に都合の悪い言動を繰り返す者たちへの牽制や、無理くりに仕立て上げる証拠づくりにいいように使われ、時の政権を維持するために大いに役立てられた。

 他の7人については多少の精神感応の能力はあれど、数十回のテストを繰り返す中で安定した結果が得られなかったため、いったんは政府の管理下からは外された。

 しかし、定期的な身体テストや知能及び精神感応、それぞれの異能に係る確認が行われ、どんな時でもその所在を把握された。

 住居から一定の範囲外へ出る時、例えばちょっとした家族旅行などについてもいちいち面倒な申告が義務とされた。

 これについては野党から『人権侵害では?』という話がたびたびあがったが、安全のためやむなしとされ現在も厳しい管理が続いている状態である。


 さて、政府の役に立つ優れた精神感応の能力を持つ3人はというと、彼らはかなりの厚遇を受けた。

 彼らの持つ異能自体が一般人が恐れるような特別なものではなかったため(……例えば、風で1~2枚のコピー用紙をふわりと浮かせたところで何の危険があるだろうか)住まいは一般人がちょっとばかり羨ましく感じるような都心の高層マンションが与えられ、その暮らしぶりは政府に管理される前よりも自由で豊かなものとなった。


 そして、精神感応の能力を全く持たない空飛ぶカァちゃんはなぜか遠まわしな低評価を受けた。

 彼女が他の3人と比較して露骨に雑な扱いを受けていることがわかってからは、世間でも『ただ飛ぶだけの女』『空に浮かんだ間抜け』などと呼ばれ始め、しまいに付けられたあだ名が空飛ぶカァちゃんである。


ーーー『授かった能力を国のために使うのは当たり前、飛ぶことしかできないなら国家のために飛べ』と言った首相の若手の側近が空飛ぶカァちゃんを嘲った映像がテレビに流れた時に、多くの国民が同情と怒りを覚えたが、それでも政府に強く抗議する声は上がらなかった。

 いつも首相を持ち上げて、それとわからない上手いおべっか使いのその側近はいまだ与党の勢力図の中心にいるし、それなりに空気を読める女性首相はその側近をやんわりと諫めたが、その口元には笑いが滲んでいた。


 『空に浮かんだ間抜け』である空飛ぶカァちゃんには自由と権利はなく、常に管理され、多くの危険を伴う業務に駆り出された。


ーーー彼女が飛ぶことで誰かのプライバシーを侵害するようなことがあってはならないーーー

 空飛ぶカァちゃんが高層ビルの上階まで飛んで覗きをするとでも?


 彼女に与えられた仕事は、例えば雪山で遭難したスキー客の救出、海難事故の救助補助、築年数の古い高層ビルの点検補助等々。

 これら空飛ぶカァちゃんの働きは人命救助を中心に国民のためになるものばかりであったのに、それを評価する声はほとんどあがらなかった。

 そして彼女には贅沢な高層マンションではなく、古い官舎が与えられた。


 ただ、報酬の部分だけは他の能力者と平等であった。

 国の要請で集められ、国の命令に従って業務を遂行するという部分で、実際に体を使い、それを酷使し、誰かを助け、何かを守り、そうやって目に見える働きを見せる空飛ぶカァちゃんに、扱いだけでなく報酬にまで差をつけては、野党から何を言われるかわからない。


 いつもいつも空気を読む首相が『確かにその能力は様々ですが、それでも頑張ってくれている能力者には当然の報酬を』などとニコニコしながらのたまった時、空飛ぶカァちゃんの夫は子供たちに『総理もお母さんを評価しているんだよ。俺この総理に票入れたんだよな、うちが引っ越す前は総理の選挙区だったからさ』などと言ってご機嫌だった。


 しかしその横で、空飛ぶカァちゃんの息子と娘はやはり絶叫した。

 「ママ、運動神経全くないのにこんなことばかりさせられて。今に死んじゃうよ」

 「姉ちゃん。母ちゃんは絶対に俺が取り返す。あんな野郎どもにいいように使われてたまるか!」


 空飛ぶカァちゃんの息子、英介の雄叫びは勇ましい。

 国家の為に国家の為にと威勢のいいスピーチだけでなぜか選挙区で人気を取った、あんな首相のご機嫌取り議員なんかよりずっと。


 まるで鳥が空を飛ぶようになめらかにゆったりと、滑るように空を飛ぶ。

 映像に映った空飛ぶカァちゃんは、すらりとした長身、色白で柔らかそうな肌に整った目鼻立ち。サラサラとした茶色の髪。

 彼女が空に浮かび上がり、スーッと空を飛ぶ姿は美しかった。













 『空飛ぶカァちゃん』をお読みくださりありがとうございます!

 飛ぶだけの女として馬鹿にされ、見下され、辛く苦しい日々を送っていた空飛ぶカァちゃんの日々は、第二話登場の私設秘書・佐倉の入職によって少しずつ改善されていきます。

 また、空飛ぶカァちゃんの子供たちもメインキャラクターとして早々に登場します。

 展開は早めでサクサク進みますので、お楽しみいただけたら嬉しいです。

 (※基本毎日更新。現在8割完成済)


 

 

 


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