127.魔法のサイン
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「なんとまあ!つまり、娘さんと会社の同僚の皆さんのおかげで、お二人は結ばれたという訳ですね」
空飛ぶカァちゃんの父親は浅く座り直して少し身を乗り出した。
佐倉の父はこくこくと頷きながら満足そうに微笑んだ。
「そうなんですよ、だから我々は娘と彼らには頭が上がらないんです。だからこそ必死で頑張ってこれたんですがね。ご安心いただきたいので申し上げますが、先ほどお話しした元々の本業のほうは私の友人がかなり早いうちからAI活用を始めたんです。優秀な人間ですので彼のおかげで本業のほうは生き残れました。特定の――わりと固い業界が多いのですが、特定の業界に特化したサービス展開がうちにとっては安定の鍵になりましたので、こっちの方の安定した財務基盤のもと、別の分野にも挑戦しつつ、堅実にやってきたんです。ですから、決して娘さんや子供たちを不安にさせるようなことはありませんので。私ももちろん息子を支えますし」
一階リビングはもはや親同士のお見合い会場と化していた。
余計なお世話の母が「どうやら息子は、自分では気づいていないが櫻子さんが好きで好きでたまらないらしい」と言い出すまでに、それほど時間はかからなかった。
彼らが二階へ上がると同時に、佐倉の両親はすぐに『結婚話』を持ち出した。
遠まわしに言っても意味がないからと、とにかく率直に伝えようと決めていたらしかった。
そして、佐倉の父が「もし櫻子さんが、息子に少しでも好意を持ってくれているなら、ぜひこの話を真剣に考えてほしい」と言い出した時、空飛ぶカァちゃんの両親は「まさか!」と言って驚いた。
そして当然のように、二人の子持ちのバツイチの娘を、まさか初婚で、しかもあれほどまでに優秀で若い息子さんと結婚させるなどとんでもないとすぐに断ったのだが、佐倉の父も母も諦めなかった。
自分達は何度も入院中の病院での二人の姿を見たが、とても相性が良さそうに見えたのだという。
趣味も合うようで、子供たちも息子になついてくれているようだし、自分達もこの家で子供たちと過ごすうちに子供たちが大好きになってしまった。そして、なぜか前から知っているかのような不思議な気持ちになることがあり、縁のようなものを感じていると熱く語ったのだ。
それでも空飛ぶカァちゃんの両親は、いくらなんでもそんなことは出来ないと伝えたのだが、佐倉の親は諦めず、しまいには自分達が結婚したいきさつを話し出したという訳である。
二十数年ぶりに再会した二人が結婚し、高齢で佐倉を生み育ててきたこと。
息子の将来のために、出来る限りのことをしてきたが、何よりも会社の経営を確実なものにしようと夫婦で必死に過ごしてきたことを二人でかわるがわるに話して聞かせた。
これから先に息子が継ぐ会社については堅実経営を自負しており、顧客は地味だが手堅い特定の業界が多いということ。
そして、佐倉の父がコツコツと積み上げ、今や創業当時のメイン業務と並ぶまでになったジュエリー・アート関連の部門がここ十年程で急成長していること。
佐倉の父と母は、敢えて息子可愛さから親ばかをやっているような必死さを見せて、空飛ぶカァちゃんの親に訴えた。
経済的に苦労をかけるようなことにならないよう精一杯努力していきますからと、丁寧に説明され、時々、横から入ってくる佐倉の母の『哀れな息子の片思い話』――この母は、今まで誰とも付き合ったことのない哀れな息子の初恋だからとまで言い出して、空飛ぶカァちゃんの母親をターゲットにベラベラとよくしゃべった。
佐倉の母は、子連れの再婚を経験した自分は、空飛ぶカァちゃんの気持ちがなんとなくわかるのだと夫に伝え、協力を迫った。
「きっと櫻子さんは断ってくるはずだから、強引に行かないとダメなのよ。早い方がいいわ、一気に行かないとダメよ」
佐倉の父は、最初は「放っておいてもそのうち上手くいくよ」などと言って悠長に構えていたのだが、妻が栄太郎から聞いた二人の情けない状況や、実際に目撃した病院での二人の様子から「確かにこのままではどうにもならないだろう」という妻の考えが正しいかもしれないと思い直した。
それからは、協力し合ってまずはまわりから固めていこう、という話になったのだ。
「櫻子さんは息子のことを信頼してくださっているようですが、その一方で、弟みたいで頼りないと思っているかもしれません。実は息子にはちょっと変な趣味もあったりしますし。本当にしょうもないことだと思うのですが、息子は古本屋めぐりに櫻子さんを付き合わせようとしているみたいで、」
佐倉の母がわざとこう言うと、空飛ぶカァちゃんの母が実を乗り出した。
「ええっ?古本屋集めですか?櫻子もそうなんです!あの子は――名前がわからないのですが、なんとかっていう翻訳家の初版本を集めるとかなんだかんだで、それはもう学生の時からすごかったですよ。佐倉さんも同じ趣味があったなんて!」
「櫻子さんもですか?それもすごい偶然というか、不思議ですよね。実は、櫻子さんが夫の伯母の本を貸してくださったことがあったんです。もしかしたらその伯母の本を集めてくださったのかしら?数多くの訳本を残した伯母なのですが」
すると空飛ぶカァちゃんの母親が興奮し「えっ、翻訳の?そうなんですよ、私のバイブルだと言って沢山集めていましたよ。まさか、お父様の伯母様だったとは」と目を見張った。
そして、佐倉の父がしみじみとこう言った。
「そう考えると――本当になにか、ご縁を感じます。それに、私の義理の娘になった烈の姉の名は『さくら』というんです。これにもびっくりしませんか?なんと『櫻子さん』と『さくら』ですよ?」
「なんと!確かにすごい!」
空飛ぶカァちゃんの両親は、すっかり佐倉の親の罠にはまった。
「人と人の縁には何かしらサインのようなものがあると思いませんか?私が妻と再会するまでには二十年以上かかったのですが、きっかけとか、隠れた縁とかが、誰も知らないうちに自分のまわりに作られていたんですよ。本当にこっそりと、魔法のようにね。櫻子さんの飛行の力も素晴らしい魔法のような力だと私は思います。それに、息子の烈もね、子供のころからものすごくカンが働く子だったんですよ。あの子のカンに何度も助けられてきたのですが、その度に我々は息子に言ったものですよ。烈はまるで魔法使いだってね。それで『烈のお嫁さんも魔法使いかもしれないよ』ってね。その時、息子がなんて言ったと思いますか?」
佐倉の父のこの問いかけに、空飛ぶカァちゃんの父親がまた身を乗りだした。
「佐倉さんはなんと?」
「息子は空を見上げて言いましたよ――『お嫁さんにするなら、ぴんとくるサインがないとダメだよ。僕は魔法を持ってるだけじゃ好きにならない。でももしその人がいい人で、サインを見せてくれて、素敵な人だったら、とうちゃんみたいに首飾りをあげるんだ』ってね。これは烈が小学校低学年頃の話なんですがね」
「首飾りをね、なんとまあ。可愛らしい息子さんだ!」
「あの子は自分がそんなことを言ったって覚えているのかわかりませんがね。実は、何年か前に私と一緒に海外に買い付けに行ったことがあったんです。その時に、あの子が素敵な首飾りを見つけましてね、じーっと見てるから買ってやろうと思ったんですが『株で儲けたばかりだからいい』って言って、あの子は自分でそれを買ったんです。それであの子は『これが似合う人は、きっとすごい魔法を持ってるだろうな』って言って笑ってました」
佐倉の父はこう言うと、妻と顔を見合わせてニヤリと笑った。
照れたように、そして嬉しそうに。
「それで、烈は先日、その首飾りを櫻子さんにプレゼントしたんです」
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