109.ツアー広報と余計なお世話の母
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ついに『東京湾スカイツアーの正式な企画書』が完成した。
それはまずクラスを代表して竜介と英介から入院中の空飛ぶカァちゃんへ。
もちろんいつも力になってくれた担任の先生と校長先生にも。
そして、約束通りに佐倉に託した企画書は麹町に手渡された。
企画書は夏休み明けには完成していたが、空飛ぶカァちゃんの事故と怪我、そして麹町の就任直後は避けるべきだということでクラス担任と話し合い、時期を待っていたのだ。
麹町が入院していた時、『早く元気になってください』という寄せ書きとともにその企画書は届けられた。
麹町はまるで佐倉のように涙をためて、約束通りに赤ペンで花丸を付けてやった。
佐倉は英介に麹町には二通の企画書を提出するように伝えていたので、大きく花丸を付けた方の企画書は佐倉が預かり、後日発案者の竜介のクラス宛てに送付した。
送付した封筒の中には、麹町が感想やアドバイスを書き入れた別紙も入っており、最後の一行に『自分もこのスカイツアーで空を飛んでみたい』と一文が入っていた。
先生がこの感想を読み上げた時、竜介のクラスでは運動会の応援のような大声が上がり「すげえ!」「総理大臣からだ!」などと言ってしばらくは興奮がおさまらなかった。
翌日、麹町から小学校のクラス宛てに『熱き友情・優しさ』と丁寧な墨文字で書かれた厚みのある立派なハガキが送られてきた。
これには先生も興奮し、嬉しそうに早口でこう言った。
「本当にすごいよみんな!これは一生の記念になるから!全員分を先生がカラーコピーするからね。それから、お母さんにメールで写真も流すからね」
生徒達は大喜びで「先生早く送って!」と言って、また授業どころではなくなった。
そしてまた後日のこと。
長い間、理不尽に貶められ、傷つけられていた空飛ぶカァちゃんとその子供たちを元気づけたい、励ましたいというクラスメイトの優しい思いから始まったこのスカイツアー企画と、それを見た麹町の赤ペン花丸と墨文字のハガキは、写真付きでSNSを駆け巡った。
麹町の地元ということもあり、一部の麹町アンチからはヤラセだとか、ハガキを送る行為そのものがまずいのではないかとか、それに対して別に全く問題ない、しかも自筆なんだからとか、ちょっとした荒れは見られたが、過労で入院した麹町が、病室で企画書と寄せ書きを眺めながら嬉しそうに笑っている写真や、ベッドの上で真剣な表情でハガキに文字を入れている写真が飯田の手配でSNSにあがってくると、麹町への好意的な見方が高まっていった。
更に、空飛ぶカァちゃんの状況について、真実が明るみに出る前であったにもかかわらず、苦しみ追い詰められていた空飛ぶカァちゃんの息子の話を真剣に聞き、励ましたい、力になりたい、明るい気持ちを取り戻してほしい、といった優しい気持ちから始まり、皆で協力して見事に企画書を作り上げたこの小学校と、理不尽に空飛ぶカァちゃんとその子供たちを傷つけた元・小学校が比較され、再度また英介や静が通っていた元小学校への批判も再燃し、こちらのほうはかなり荒れた。
さて、この騒ぎを広報に利用しようと、飯田は退院が近い転落事故の被害者・空飛ぶカァちゃんら三人のコメントを取るために病室を訪れた。
この件は、空飛ぶカァちゃんのこととなると口うるさい佐倉には知らせず、飯田が自らインタビューを行った。
まさに佐倉の不在時を狙った突撃インタビューだった。
しかしコメントと言っても、空飛ぶカァちゃんのコメント分については、元から決まっていたかのように、飯田に上手い具合に言わされた形となってしまった。
大変な事故から、まさに生還した空飛ぶカァちゃんと、権藤、市谷へのインタビュー。
背後に前代未聞の卑劣な企みがあっただけに、いまだに国民の関心を集めている三人へのインタビューであるから、軽々しいふざけた質問は当然控えていたが、飯田は最後の最後のところで、こんな質問を出してきた。
「先日お会いした外国人の方が大変勇気のある方で、ぜひ空を飛んでみたいと仰ったのですが、もしもその方のように勇敢にも背中に乗って飛びたいという方がいらっしゃれば、どんなところをご案内したいと思いますか?」
飯田は、佐倉が怒り狂いそうな質問を投げかけた。
しかし、空飛ぶカァちゃんは慎重だった。
「万が一のことがあってはならないと思いますので、本当に背中に乗る方の安全を確保できればの話になりますが、やはりその方の一番好きな場所を、違う角度から見ていただけるようご案内したいですね」
「そうですよね。思い出の場所ですとか、海外の方でしたら自国の誇りのような場所とか――そうですね、世界遺産とかを見ることが出来たら素晴らしいですよね」
もしかしたら、の話であるわけだから、飯田の質問は別に非常識にではなかったし、横で聞いていた権藤も市谷も、何ら違和感を感じてはいなかった。
佐倉がここにいればもちろん口を出しただろうが、飯田にはなぜか佐倉が怒りそうなことが何なのかがわかっていた。
佐倉が、広報記事を見て怒り狂ったのは数日後のことだった。
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こちらは佐倉家。
退院間近になっても、空飛ぶカァちゃんと佐倉の関わり方は、佐倉の母が喜ぶ方向には転がって行かなかった。
佐倉の母の期待をなんとなく感じ取った静や英介は、後でがっかりすることがないように『あの二人は馬鹿らしい話しかしてないから多分無理』と伝えていたのだが、佐倉の母は絶対に諦めなかった。
「私のカンは当たる。絶対に思い合ってるはず」と言って、栄太郎をそそのかしては、佐倉から気持ちを聞き出そうとしたり、自ら病院に見舞いに行き空飛ぶカァちゃんに探りを入れたりしていた。
この母はたとえ空飛ぶカァちゃんに突っ込んだ質問をしたいと思って病院に行ったとしても、もしそこに息子が顔を出した時には、当たり障りのない話にとどめ、絶対に余計な質問をしたりしなかった。
佐倉の母はなぜかわからないが、どうしてもこの二人を何とかしてやりたいと思っていた。
そして、多分この二人では埒が明かない。全く進んでいかない、ということがわかっているようだった。
お互いに大変な好意を持っているのに、友愛、親愛の想いだと信じていて、ヘラヘラと趣味の話で盛り上がり、笑っている姿を見ているとイライラと焦ってしまうのだった。
佐倉の父のほうは「絶対に好き同士だから大丈夫だよ、そのうちきっと」などと言って、待ちの姿勢でいるのだが、この部分ではこの父と母はやり方が全く違った。
空飛ぶカァちゃんと佐倉が知らないところで、マザコン息子のためにと余計なことをしようとする母や、勝手に空飛ぶカァちゃんの業務を増やして逃げられないように画策する飯田にイライラさせられる新たな日々が佐倉の目の前に迫ってきていた。
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