102.ネックレス奪還作戦
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アキラの処遇・預け先については、能力者問題が係る特殊ケースとして多職種の専門家がチームを組んだ検討委員会に飯田と佐倉を加えたメンバーで話し合った結果、小学校を卒業するまでの短期間ではあるが、ひとまず市部の小学校に一時保護所から通うことが決まった。
空飛ぶカァちゃんにまつわるこの事件は、社会に大きな衝撃を与えた国民的関心事であったから、当然小学生の間で今も話題になっているためアキラの氏名はいったん通称名で通すことになった。
中学進学についてはこれから半年の間に、教育はもとより法律・人権問題の専門家も含めた委員会で充分に検討し、アキラにとって一番いい形となるよう整えるということになり、その中には佐倉の恩師や旧知の弁護士も入っているためある程度、佐倉の希望が通りやすい環境となった。
これは一番の被害者である空飛ぶカァちゃんの希望、というより恩情でもあった。
たった一人でとり残されたような状況のアキラを不憫に思った空飛ぶカァちゃんが自ら願い出たことであり、同様に、被害者である彼女の子供達からも同じ要望が出されたため、わりと佐倉が発言しやすい環境が出来上がった。
アキラの性質にも合っていて彼の水泳の才能を伸ばせる環境があり、また、以前の小学校からは距離のある場所が選ばれたのだった。
アキラが与えられたこの環境から、新しく、力強く前に進んで行けるかどうかは本人次第であるが、これは加害者に近い立場に違いないアキラにとっては破格の待遇と言えた。
今までアキラが過ごしていた小学校では、アキラは地方に転校したことになっていたが、つい先日まで、アキラとその親に逆らえなかったという理由を言い訳に、ここぞとばかりにやりたい放題に弱い立場の者を叩き続けていた生徒とその保護者は、例のライブ配信のせいで厳しい立場に立たされた。
その不満をネットで吐き出す者もいたためほんの一瞬SNSが騒がしくなったが、ライブ配信のことで突っつかれて更に追い込まれた者が、これは声を立てずに静かに過ぎ去るのを待つ方が得策だと思い始め、それぞれが批判うまくかわしながらやり過ごしているうちに、騒ぎはひと頃ほどではなくなっていった。
そして破壊遺産・山本ミキ。
性懲りもなく精神・体調不良を理由に立てこもるかのように入院し現実から目を背けたままでいる。政党から除名処分が下されてから、かなり立つというのにいまだに入院中で顔を見せず会見もない。
空飛ぶカァちゃんの代理人弁護士は山本ミキによる名誉棄損および侮辱行為に対し損害賠償請求と刑事告訴をセットで行う方針で進めており、あれだけ確実性の高い証拠が揃っている状態であるから、この件で山本ミキは絶望的な状況なのだが、病院のベッドでいつ来るかわからない応援を夢見ている状態らしい。
山本の地元の身内の秘書は抗議の声に必死に対応し続けたが結局支持基盤も崩壊し、孤立無援となり完全に見限られた。議員報酬と期末手当目当ての部分もあっただろうが冬までこのままの状態で逃げ続けるつもりなら、どこかのサイキッカーに徹底的に頭の中を破壊されてしまうだろう。
既に黒田は山本の事務所を辞職し麹町のところに移籍していたし、私設秘書の佐倉もまた病院立てこもり常習犯の山本の事務所を自ら辞職し去っていた。
黒田と違うのは今もまだ佐倉は無職であるということだ。
さて、その自由かつ無職の佐倉。
その佐倉の友人、八木雄士という男と慶次の父親。この二人は弁護士で、今日は遠山公男の家を訪れていた。
実はよく佐倉家を訪れる慶次も父親と同じく弁護士であるが、慶次は最近の活動状況からして面が割れるとまずいので、まだ空飛ぶカァちゃん含め遠山家に直接は関わったことのない友人の一人である雄士がこの案件を任されたのだった。
間接的には空飛ぶカァちゃんを守るための佐倉の過去の活動において、佐倉の友人は全員が巻き込まれていたのだが、今の段階で、雄士と佐倉の関係が疑われる心配はなかった。
今回の目的は真珠のネックレスとイヤリング、そしてエルメスの大判ショール。
遠山公男の母親に取り上げられたこれらの物を取り返すこと。
先日、佐倉が空飛ぶカァちゃんから聞いていたこの件である。
――(あんな義母!私、あいつに何をされても抗議できなかった。
――(母から譲り受けた大切な真珠のネックレスも取られたんです。
――(恐ろしいことですよね?泣く泣く諦めましたけど、
――(弁護士さんに言おうかな、警察に言ってやりたい気分ですよ!
空飛ぶカァちゃんの母親が自分の母から譲り受けた、留め金の部分に大きなアメジストがはめ込まれた真珠のネックレス。これはイヤリングと揃いになっており、空飛ぶカァちゃんからしてみると祖母の形見でもあった。
誰もが知る海外のトップブランドによる稀少価値の高いビンテージ品のため、売りに出したらかなりの価格がつく品であった。
これを身内の結婚式に使うから貸してくれと言われた空飛ぶカァちゃんは仕方なく貸したところ、なんだかんだ理由を付けて義母は返してくれなかった。
更に、大学の時に翻訳コンクールで受賞した際に父と母が贈ってくれたエルメスの大判ショールも、なぜか箪笥のどこに入っているのかを知っていた義母が勝手に取り出してきて、ろくに使わないのはもったいないからと、こちらも貸してくれと言って持って帰り、何度言っても返してくれなかった。
しまいには「人を疑うのか?」と言ったり「還暦の祝いにくれると言ったじゃないか」などと言い出して、夫になんとか返してもらうようにお願いしてくれと頼んだところ「家族なのに疑ったり、一度あげたものを返せというのはおかしい」などと言われたのだった。
それでも母から譲り受けた祖母の形見のネックレスも、思い出のショールも、どちらも返して欲しかった空飛ぶカァちゃんは、何度も義母や夫に懇願したが、聞き入れてはもらえず無視をされ、しまいに義母は義父と一緒になって激しく空飛ぶカァちゃんを叱責し、物に執着して卑しいだとか、言ってもいないのに『還暦祝いでくれると言ったはずだ』と繰り返し、空飛ぶカァちゃんを絶望させたのだ。
そしてあの夏、政府に管理されるようになった空飛ぶカァちゃんにはもうそれを取り返すことが出来なくなってしまった。
このことを知った佐倉は友人に依頼し、これらの品を絶対に取り返すよう頼んだというわけである。
今回、彼らは手っ取り早く、現れてもいない『推し活中のサイコパスサイキッカー』を登場させ、一日でこの件を解決するつもりだった。
実は佐倉も同行していたが、自分こそ面が割れてはいけないからといい、大きなドラッグストアの駐車場に停めた車で待ってると言って、車の中から彼らの交渉を見守った。
咲太郎のメイクで美女に返信した佐倉はサングラスをかけ、景気づけにエルメスのスカーフを被っており、状況によってはサイキッカーに変身するつもりで待機していた。
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「遠山さん、ご連絡した件ですが電話ではお伝えいたしませんでしたが、今回のお話の内容は全て麹町総理からの依頼になりますのでその旨ご承知おきください」
「は?どうして総理がこんなことに口出しするんです?おかしな話じゃありませんか!そんな嘘を言うんなら今すぐ電話したっていいんですよ?」
公男の母は相変わらず強気だった。
弁護士から連絡を受けた直後に、公男には会社を休んで同席するように頼み、まだ籍を入れたわけではないが妊娠した新しい嫁には絶対に来ないようにと言い付けていた。
「噓ではありません。さすがに総理大臣の言葉を騙るような真似などいたしません。彼女、櫻子さんは麹町総理の信任も厚く、彼女の能力を非常に高く評価していらっしゃいますので大変良好な関係が構築されております。総理は今後、彼女がこれ以上苦しむことがないように細心の注意を払って対応するようにと周囲に言いつけておりますので」
八木雄士が冷静に返すと、公男の母は更に怒り狂った。
「はあ?ではあの人があることないこと麹町総理に言いつけたんですね?みっともない!だから恐ろしいんですよあの人は!私はあの人からもらったんです。真珠のセットもスカーフも、還暦の祝いでくれたんですよ。それを今更私がとったみたいにいうのはあまりにも礼儀知らずじゃありませんか?」
八木が続けた。
「おかしいですね。あのパールのネックレスは簡単に他人に上げられるような品物ではありませんよ?当時も大変高価なもので、限定品の稀少な品になりますから。総理の側近の方がその話を聞いた時驚いていましたよ。しかも特注の部分もあって、金具の一部に名前を入れてあるんです。お祖母様から受け継いだ形見の品とのことですから。イヤリングにも名前が入っているはずで、親から子へ、そのまた子へと引き継がれる大切なジュエリーなんですよ。それを還暦の祝いで渡すなどあり得ません。今すぐお返しください」
そこまでの品だとは思いもしなかった公男の母の目の色が変わった。
また、公男の方もそれは同じだった。
空飛ぶカァちゃんへの慰謝料をもぎ取られ、子供たちの養育費も送り続けなければならない現状、もしそれを売ることが出来たら大変な金額になるのではないかと思ったようだった。
ーー(そうだ!面倒だが……あいつを使って売っぱらうか。
ーー(あのクズ、いくらクズでも半分寄越せとは言わないだろ、
ーー(手数料くれとかって言ってきても……渡すにしてもせめて3割だろ。
ーー(どうせ櫻子はあと何か月も病院から出られない。
ーー(もう諦めてる感じだったしな。今更しょうがないと思ってるさ。
ーー(だいたい櫻子だってアレを着けて出かける用事だってなかったじゃないか。
ーー(しかし、今更しつこいよな櫻子も、ちょっと驚いたよ。
ーー(お金に綺麗な感じでのほほんと振る舞ってたけど実は結構がめついのか?
ーー(って、そりゃこっちのことか!しかし、すごいことがわかったな。
羽がキリキリと軋んだが、それが牙をむくのをいったん佐倉は堪えた。
---まだ出て行くような時間じゃない、もう少し本性を見せろ。
---だって、みやげが足りないじゃないか。
---雄士のことだ。録音も完璧だろうけど。
---公男さん、あんたほんとに愛人と子供作ってくれてよかったよ。
---あの人の目の前から消えてくれて、失せてくれて!
---もっともっと軽蔑されりゃいい!
---後悔の欠片も残させるなよ公男さん。
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