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残骸。Les Épaves.  作者: シャルル・ボードレール/萩原 學(訳)
慇懃調。GALANTERIES.

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13/21

12. 怪物、または死のニンフの付添人 LE MONSTRE ou LE PARANYMPHE D’UNE NYMPHE MACABRE

挿絵(By みてみん)

脚韻ABABA 各節終行で初行を模倣

    I

挿絵(By みてみん)

貴女はどう見ても、愛しい人よ、

程遠い、ヴィヨの語るお嬢様から。

遊戯やら恋愛やら美食やらを、

ブクブク煮立たす、古びた大釜!

貴女はもう若くはない、愛しい人よ、

Tu n’es certes pas, ma très-chère,

Ce que Veuillot nomme un tendron.

Le jeu, l’amour, la bonne chère,

Bouillonnent en toi, vieux chaudron!

Tu n’es plus fraîche, ma très-chère,


わが歳経た王女様! それでもなお

貴女の非常識な隊商は

貴女に齎した、この豊かな光沢を

かなり古びてはいるが

人を魅了して止まぬ、それでもなお。

Ma vieille infante! Et cependant

Tes caravanes insensées

T’ont donné ce lustre abondant

Des choses qui sont très-usées,

Mais qui séduisent cependant.


私は、単調だとは思わぬ

貴女の四十年に及ぶ緑を。

秋よ、貴女の果実を私は好む、

春のありふれた花々よりも!

いや、貴女は単調に非ず!

Je ne trouve pas monotone

La verdeur de tes quarante ans;

Je préfère tes fruits, Automne,

Aux fleurs banales du Printemps!

Non! tu n’es jamais monotone!


貴女の肉体は魅力に溢れている

そして特別な優雅さも

貴女の二つの塩入れのくぼみに

みとめるは奇妙な唐辛子を

貴女の肉体は魅力に溢れている!

Ta carcasse a des agréments

Et des grâces particulières;

Je trouve d’étranges piments

Dans le creux de tes deux salières;

Ta carcasse a des agréments!

挿絵(By みてみん)

私は嘲笑う、愚かな恋人たちを

メロン頭かカボチャ頭の!

私は好む、あなたの鎖骨(クラビキュール)

ソロモン王のそれよりも

そして哀れむ、この愚かな人々を!

Nargue des amants ridicules

Du melon et du giraumont!

Je préfère tes clavicules

À celles du roi Salomon[1],

Et je plains ces gens ridicules!

挿絵(By みてみん)

貴女の髪は、青い兜のように、

女性兵士の額を覆う、

何も考えず、赤面もしない、

そして後ろへと逃げていく、

青い兜の羽根飾りのように。

Tes cheveux, comme un casque bleu,

Ombragent ton front de guerrière,

Qui ne pense et rougit que peu,

Et puis se sauvent par derrière

Comme les crins d’un casque bleu.

挿絵(By みてみん)

貴女の瞳は泥とも見えて、

灯火ゆらめく処を、

蘇ること頬赤らめて、

放つは地獄の(いなづま)を!

貴女の瞳は黒、泥めいて!

Tes yeux qui semblent de la boue,

Où scintille quelque fanal,

Ravivés au fard de ta joue,

Lancent un éclair infernal!

Tes yeux sont noirs comme la boue!


為にするはその欲望と軽蔑

貴女の苦い唇、我等を挑発

その唇、一種のエデンのよう

我等を惹きつけ、衝撃喰らわす

なんたる欲望!なんたる軽蔑!

Par sa luxure et son dédain

Ta lèvre amère nous provoque;

Cette lèvre, c’est un Éden

Qui nous attire et qui nous choque.

Quelle luxure! et quel dédain!


筋肉質で引き締まった脚

火山の頂上まで登り、

雪にも貧困にもめげず

最高元気なカンカン踊り

脚は引き締まって筋肉質。

Ta jambe musculeuse et sèche

Sait gravir au haut des volcans,

Et malgré la neige et la dèche

Danser les plus fougueux cancans[2].

Ta jambe est musculeuse et sèche;


貴女の肌は熱く柔らかさを欠いて、

年老いた憲兵のように、

汗をかくことを知らずして、

貴女の目が涙を知らないように。

(それでもなお、その肌は柔らかさを秘めて!)

Ta peau brûlante et sans douceur,

Comme celle des vieux gendarmes,

Ne connaît pas plus la sueur

Que ton œil ne connaît les larmes.

(Et pourtant elle a sa douceur!)


    II

挿絵(By みてみん)

悪魔の方へまっしぐらとは、馬鹿め!

喜んで御一緒しようとも、

掻き乱すことがなかったなら

この恐るべき速度が、わが心を。

一人きり行ってしまえ、悪魔の許へ!

Sotte, tu t’en vas droit au Diable!

Volontiers j’irais avec toi,

Si cette vitesse effroyable

Ne me causait pas quelque émoi.

Va-t’en donc, toute seule, au Diable!


わが腰も、肺も、それに(ひかがみ)

在るべき形では、もはや私に許さないのだ、

この主へ、敬意を表すことを。

「何とも、まことに残念だ!」

と、わが腰と膕の(こぼ)すこと。

Mon rein, mon poumon, mon jarret

Ne me laissent plus rendre hommage

À ce Seigneur, comme il faudrait.

«Hélas! c’est vraiment bien dommage!»

Disent mon rein et mon jarret.


ああ!(まこと)に悔やまれる、心から

サバトに行けないことを、

硫黄の屁をこく奴を貴女が

どうやっつけるか見れないことを!

ああ!真に悔やまれる、心から!

Oh! très-sincèrement je souffre

De ne pas aller aux sabbats,

Pour voir, quand il pète du soufre,

Comment tu lui baises son cas[3]!

Oh! très-sincèrement je souffre!


酷く悲しんでいる私は

貴女のともし火にはなれないことを、

もう暇乞(いとまご)いしなければならないから、

地獄の松明(たいまつ)よ! 判事殿、愛しき人よ、

私がどれほど悲しんでいることか。

Je suis diablement affligé

De ne pas être ta torchère,

Et de te demander congé,

Flambeau d’enfer! Juge, ma chère,

Combien je dois être affligé,


何となれば、もう長らく貴女が好きだよ、

しごく当然としか! 実際、

「悪」を望み真髄を求め

完璧な怪物しか好まない、

本当だ! 年老いた怪物、貴女が好きだよ!

Puisque depuis longtemps je t’aime,

Étant très-logique! En effet,

Voulant du Mal chercher la crème

Et n’aimer qu’un monstre parfait,

Vraiment oui! vieux monstre, je t’aime!

原註


[1] これは辛辣な駄洒落だ!陰謀を企てたりするものではない。

Voilà un calembour salé! Nous ne cabalerons pas contre.

(Note de l’éditeur.)

[2] おそらく、この女性が属するキャラバンの特徴を仄めかすものであろう。プレヴォー=パラドル氏なら、彼女に「火山の上でカンカンを踊っているようなものだ」と警告するところだ。

Sans doute une allusion à quelque particularité des caravanes de cette dame.

M. Prévost-Paradol l’eût avertie qu’elle dansait le cancan sur un volcan.

(Note de l’éditeur.)

[3] 黒ミサに於ける。詩人たちのなんと迷信深いことか!

À la Messe noire. Comme ces poëtes sont superstitieux!

(Note de l’éditeur.)


訳注

Veuillot: フランスのジャーナリスト、ルイ・ヴイヨ(Louis Veuillot)


vieux chaudron: この名を冠した食堂が今では有名だが、読み返しているうちに『悪の華』理想でも取り上げたシェイクスピア『マクベス』を意識しているように思えてならない


tendron: バラ肉(テンダーロイン)を指すようになったほど「柔らかい」「傷つきやすい」ことを言う。


carcasse: どちらかというと「骨格」「死骸」をいうようだ


piments: だいたい発音は「ピーマン」だが、ほぼチリペッパー


giraumont: セイヨウカボチャ。わが国の栗南瓜とは種類が異なる。『彦市ばなし』でも「春日ぼうぶら」と腐す台詞があるし、人を「カボチャ頭」と罵る感覚は、東西変わらずといった所であろうか


clavicules: 鎖骨は、肩を外転させたときに骨が鍵のように軸に沿って回転することから、ラテン語 clavicula (小さな鍵)に因んで、この名で呼ばれるに至った。魔術書 Les Clavicules de Salomon(ソロモンの鍵、羅: Clavicula Salomonis、英: The Clavicle or Key of Solomon)の名は、この元の意味を担うので、正確には『ソロモンの小鍵』と呼ぶべきであろう。この引用で魔術的雰囲気を表しつつ、編注で破壊活動に及ばない(魔女ではない)旨を示している


guerrière: 男性形の guerrier (戦士、軍人)に対し、女性形は「女性の戦士」や「(女性の)兵士」を指す。この名詞は「勇敢な女性」、比喩的に「筋金入りのフェミニスト」にもなる。


casque bleu: 何か慣用的な意味が有りそう。だが、国連平和維持軍の兜に採用(1948)されて以来、他の用例が見当たらない


les crins: シャコー帽など、帽子や兜を羽根で飾るのは、嘗ては一般的だったようだ


Diable: フランス語の Demon は専ら「悪霊」をいうのに対し、この語は「悪魔」のイメージに近い


rein: 単数形で「腎臓」、複数形で「腰」をいう。普通は。


jarret: (ひかがみ)は膝の裏。膝カックンを仕掛ける部位。それが「耐えられない」とは、腰を抜かして立てない旨


sabbats: 第一義的には「安息日」なのだが、ここではゲーテ『ファウスト』から「ワルプルギスの夜」一部引用(原典は伏字)と見られる。「硫黄」は『ハムレット』の亡霊が語る煉獄の匂い


魔女の合唱:

  木の根、岩角、なんのその、

  魔女は ()をこく、雄山羊は ()さい。

(高橋義孝訳)


crème: 「クリーム」「皮脂」比喩的に「最高のもの」

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