9. ベルテの眼 LES YEUX DE BERTHE
どんなに名高い眼であれ見くだせそうな、
わが子の美しい眼よ、そこから滲み出て逃げていくが
私にも解らない何か良い、「夜」のように甘やかなものが!
美しい眼よ、注いでくれその闇を、魅惑的な!
Vous pouvez mépriser les yeux les plus célèbres,
Beaux yeux de mon enfant, par où filtre et s’enfuit
Je ne sais quoi de bon, de doux comme la Nuit!
Beaux yeux, versez sur moi vos charmantes ténèbres!
わが子の大きな両眼よ、わが愛しき神秘よ、
並ぶところはそっくりだ、あの魔法の洞窟に
そこでは、うっとりと眠る影の塊の向こうに、
知られざる宝物、ひっそり煌めいているよ!
Grands yeux de mon enfant, arcanes adorés,
Vous ressemblez beaucoup à ces grottes magiques
Où, derrière l’amas des ombres léthargiques,
Scintillent vaguement des trésors ignorés!
わが子と来たら、暗く、深く、広い眼をして、
貴女のように、広大な「夜」よ、貴女のように輝いている!
して、その瞳の焰は、愛と信仰が交じり合った想いである、
官能的、または清らかに、心の奥で煌めいて。
Mon enfant a des yeux obscurs, profonds et vastes,
Comme toi, Nuit immense, éclairés comme toi!
Leurs feux sont ces pensers d’Amour, mêlés de Foi,
Qui pétillent au fond, voluptueux ou chastes.
訳注
BERTHE: 女性の名。現地では「ベルト」に近い読み方で、邦題もたいてい『ベルトの目』になっている。しかし我々からすると腰帯 belt と見分けがつかず、「目のついた腰帯」などと猟奇的な発想に至りかねないから、題名は弄る。
ボードレールが mon enfant(わが子)と呼びかける例は『悪の華』に見当たらず、詩人にとっては特別な存在だったであろうこの女性について、詳しいことは判らない。ただ、本気で彼女を「わが子」と感じていたようで、Rémi Brague 氏が Bnf に寄せた評論では次のとおり。
ボードレールが描いたベルトの別のデッサンには、次のような銘が刻まれている。「恐ろしい小さな狂女へ。ベルトの性格も養子縁組に関する法律も研究していなかった、ある大狂人からの記念品。ブリュッセル、1864年。」
訳者の見た限りでは、散文詩『スープと雲 LA SOUPE ET LES NUAGES』に歌われた「可愛い気狂い女」だと思われる。専門家が雁首揃えて「ジャンヌ・デュヴァルのことか」「ジャンヌへ書いた詩を使い回したか」などと呆けているのが不思議でならない。ここに出てくる男は父親風を吹かせるおっさんであって、恋人と睦み合う青年ではないということが、どうして解らないのだろう?




