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第12章 戦争終結

 ムスッとしたシオンが椅子に座っている。机の上にあるのは無記名の申請書。この校内戦争の勝者が使うことができる戦利品だ。


「さて……誰が書くんだね。さっさと決着をつけたまえ」

「あ」


 司が思い出したように祥子と香織を見る。まだ彼女たちのセンサーは破壊されてない。つまり、校内戦争は継続中なのだ。


「えっと……その」

「ふっ」


 戸惑う司を見て、祥子がやわらかく笑う。すると彼女は自分の頭に巻いていたセンサーを外す。


「何するつもりだ?」

「こうする」


 司の問いに祥子は行動で答える。祥子はセンサーを左手に乗せると右手に持った木刀の柄で真っ二つに破壊した。


「おい!」

「香織、私が割ってやろうか?」


 気心のしれた友人へ向けた口調で祥子が聞く。すると香織もまた親愛の情をたたえた笑みで答える


「ありがとう。でも大丈夫」

「へ?」


 香織が机にカツカレー派大将のセンサーを叩きつける。そして、二人は割れたセンサーを司の前に出し出した。


「ほら、両軍の大将が敗れたぞ」


「あなたの勝ちですわ、司」


「お前ら……」


 二人の笑顔がまぶしい。司は後ろにいるほかのメンバーを見回す。虎美はそっぽを向いているが、ほかの面々は笑って司へうなずいた。


「どちらを残すか、どちらも廃止するのかはお前が決めろ」

「それで恨むことなんてありませんわ」

「わかった……」


 戦争の勝者となった司は、ペンをとって申請書に自分の名前を書き込む。そして、申請内容を白紙の文章欄へと書いていった。


「!」

「あ!」

「な!」


 祥子、香織、そしてシオンが驚きの声をあげた。司の書いた文章は彼らの意表をつくものであった。


「カツ丼、カツカレー、新ショウガ焼き定食を学食日替わり定食として存続する」



 男は事の顛末を物陰から見届けるとそっと屋上を後にした。

 完璧な隠形の術を心得ている彼の存在に気づく者はいない。あの猫野センパイでさえ、彼の存在を感知することができずに見逃してしまっていた。


(さすがだな天道司)


 男はそう思いながらほくそ笑む。シオンの仕掛けた罠を潜り抜けたのは、運の要素が大きかったとはいえ、事態の解決方法としてはあれ以上ないだろう。


 それも、シオンの希望さえも叶えた内容になっている。両派とも毎日好物が食べられないのは残念だが、なくなるよりははるかにいい。実際のところ、片方が好きで片方が嫌いな人間などまずいない。そして、毎日同じメニューを食い続ける人間など約二名しかいないのだ。


「面白くない結末ではあるけどね」

「何が面白くないんだい?」


 ぶら下げていた鈴がリンとなった。隠形の術は完璧であったはずだ。気配を消しきった彼は、廊下の中央を歩いても誰にも見咎められない。


 だが、その彼を見つけるイレギュラーが存在した。


「鮎川……」


 部室棟へと続く渡り廊下に鮎川浪漫が立っている。男はその姿を見て、両目を細め全身を戦闘モードへ切り替える。


「今年は忙しいよ。次から次と裏武装に出会えるとはね」

「そうか……お前の監視に向かった裏武装はやられたのか」


 男が冷たく笑う。いつもは温顔と形容される男の笑みだが、裏の顔で見せる笑みは恐ろしく冷たく残忍である。

「二人組のなかなか手ごわい相手だったよ。あれは梓川くんや猫野くんでも苦戦する」

「当たり前だ。裏武装だぞ」


 その裏武装が二人がかりで倒せなかった。さすがに別格の名は伊達ではないというわけである。男は袖口から愛用の武器を取り出して、気づかれないように戦闘準備をする。


「ほう……斬鋼線かい?」

「!」


 男の顔が驚愕にこわばる。男が得意とする斬鋼線とは直径数ミクロンという超極細の強化繊維の糸であった。それを指先の微細な動きだけで自由に操り、男は鋼さえ切り裂くことができる。

 目に見えるような太さではないはずだ。だが、鮎川はその不可視の糸をいともたやすく見破った。あまりのことに表情だけでなく全身が恐怖にこわばる。


「裏武装の役目はわかる。だが、かわいい後輩をだますことに良心の呵責はないのかい?」


 鮎川の問いを聞きながら、男は斬鋼線を操ってみる。だが、鮎川の目は正確にその糸先を追っている。間違いない、この男には見えている。


「親愛の情よりも役目が優先する。あのかわいい香織ちゃんや優しい司くんを騙すのはさすがに気が引けたが、ボクだって裏武装なんだよ」


「そうか……それを聞いて安心したよ。玲川くん」


 鮎川の姿が玲川の視界から消える。次の瞬間、玲川の意識は暗転した。

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