表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/18

第11章 集結両陣営

「まったく、情けないニャ」


「だから男って好きじゃないんですよ」


「!」


 香織に向かっていた武装風紀がフェンスに叩きつけられる。司と祥子はその声を聞いて、顔を見合わせた。


「センパイ!」


「虎美!」


 屋上出入り口から二人の小柄な女生徒が姿を見せる。一人は剣道部の小林虎美。もう一人は猫野センパイである。


「上でガチャガチャしてるからきて見れば……」


「ほんと、シオンは根性が悪いニャ」


 虎美は木刀を構えると武装風紀に突っ込んでいく。猫野センパイは香織を助け起こすと、そのヒザについたホコリを優しく払ってやる。


「せ、センパイ」

「騎兵隊の到着ニャ」


 香織が礼の言葉を言おうとした時、無骨な大声が屋上に響く。


「おう、オレの獲物は残してくれよ。センパイ、小林」


「オレ、女子は殴れないんだよ。法律で決まってるんだ」


「……言ってろよ」


 女の胴ほどもありそうな腕を豪快に振り回しながら兄江が登場する。そして、後ろから赤と金のスーツをまとった松田が頭をかいて現れ、最後に荒木が姿を見せた。


「き、貴様ら……」


 風間の顔がひきつる。シオンも不快げに眉を吊り上げた。


「失格者どもがどういうつもりだ」

「うるせえよ遠山」


 松田が口の端を吊り上げる。その左右で兄江と荒木が拳を鳴らした。


「決着を見ようとあがってみれば、三流時代劇の真っ最中だ。生徒会がそういうやり方でやるなら、オレが受けて立つってことだよ」

「オレじゃなく、オレたちな」

「お、オレもオレも!」


 松田の言葉に荒木と兄江が抗議する。すると、シオンは笑みを浮かべ、懐から一枚の紙を取り出す。


「忘れたのかい? これは校内戦争だよ? センサーを破壊された人間はすべての戦闘行為を禁止されるんだ。つまり、負け犬のキミたちに出番はない」


 勝ち誇った笑みを浮かべるシオンに対して、兄江たちは不思議そうに顔を見合わせる。しばしの沈黙の後、荒木たちは何か納得したような表情を浮かべる。


「鈍い連中だね。ほら、戦争の真っ最中だからキミらはそこで観戦していたまえ。ああ、歯ぎしりはいくらやってくれてもかまわないよ」


 シオンがかすかにイラだった声をあげる。すると兄江たちがわざとらしく頷いた。


「そうだよな」

「戦争の真っ最中だもんな」

「ウス」


 兄江と荒木がニヤニヤと笑う。ヘルメットを被っている松田の表情は見えないが、おそらく彼らと同じような顔になっているに違いない。


「気づかないか?」

「……。!」


 荒木に聞かれて、シオンは表情をこわばらせる。虎美も自分の額にかかった前髪をあげて、ニヤリと笑った。猫野センパイだけはやや不満そうな顔で腕組みをしたまま、立っているだけだった。


「確かに、オレたちは校舎内で戦って、負けたんだわ。それは認める」


 荒木が汗でへばりついた前髪を両手でかきあげる。そして、彼は道着のふところから取り出したハチマキをしめなおした。


「校内戦争のルールではセンサーチップを破壊された場合、失格となるんだよな?」

「くっ」


 風間が唇をかむ。視線がビーム光線ならば全員焼き殺してしまいそうな鋭さである。

 荒木と同じように兄江と松田もハチマキをしめる。松田の場合、ヘルメットではすべるため、専用のフックにかけて固定する。


 3人の男子生徒と虎美が一列に並ぶ。その後ろでは壊れたセンターをプラプラと揺らしながら、猫野センパイが退屈そうにあくびをもらしていた。


「壊されてないだよ。オレたちのは」

「ま、気絶してたけどな。そんなの回復しちまえばチャラだしよ」

「ど、どういうことだ……」


 自慢げに言う彼らにシオンはイラだった声をあげる。


 校内戦争での失格条件は、センサーの破壊と戦闘不能である。センサーが破壊された生徒はすみやかに校舎を出ることになっているし、戦闘不能になった生徒は運営側が失格者として運び出すことになっている。

 だが、戦争中の校舎内は危険なので戦闘不能の生徒を運び出すのは、戦争終結後になることが多い。もっとも、動けない敵陣営の生徒など絶好のカモであるから、普通ならほかの参加者がセンサーを破壊してしまうのが普通なのだ。

 しかし、今回に限って虎美も兄江も松田も荒木も無傷のままであった。そのことの異常さにシオンは混乱していた。


「種明かしの時間かな?」


 静かな声とともに山倉が姿を見せる。新聞部の登場にシオンの顔はこれ以上ないくらいにひきつる。


「キ、キミがなにをしたというんだ……」

「簡単ですよ。コレです」


 山倉は従軍記者という腕章とカメラを見せる。だが、シオンにはそれが何を意味するか理解できない。


「倒れている兄江くんや松田先輩にとどめを刺そうって生徒は確かにいたんですよ。でも、そこにボクが行って、カメラを構えるとね……不思議と攻撃をやめちゃうんですよね。不思議だなぁ」


 白々しいという言葉を体現するような態度である。風間の視線は山倉へ注がれ、引き裂かんばかりに眦を吊り上げている。

 倒れている者を、ましてや気絶している者を攻撃するのは決してカッコのいい行為ではない。ただでさえためらう行為の上に、そこに新聞部のカメラがあるとなれば誰だって二の足を踏んでしまう。


「で、気がついた皆さんへこう申し出たわけです。そろそろ決着がついている頃ですから、ケンカはやめて一緒に見に行きませんかって」


「で、来てみたら、こういう状況じゃねえか」


 兄江が一歩前へ踏み出す。武装風紀たちはそれに押されるように一歩後退した。


「さあて……反撃開始だぜ!」


 兄江の言葉を聞き、司も倒れかけていた自分の体を起こす。彼らががんばってくれているのに、自分が倒れてなどいられない。もう一度竹刀を握りなおし、司は武装風紀へと相対する。


「ひ、ひるむな! 我々は武装風紀だ! 手負いが何人増えたところで……」

「誰が手負いだ?」


 必死に統制を取り戻そうとする武装風紀に荒木が問いかける。慌てて繰り出された武装風紀の拳を軽くいなし、荒木は一瞬で五発の正拳をボディに叩き込む。


「うおおおおお!」


 二人の武装風紀の首をつかみ、兄江が豪快に床へ叩きつける。もはや空手の技ではないが、野獣のようなこの男には何より似合う攻撃であった。


「筋肉ゴリラ、気を抜かない!」

「ぬ?」


 背後から木刀で襲い掛かってきた武装風紀の胴を虎美が華麗な太刀筋で払う。わき腹を痛打された武装風紀は、体をくの字にしてその場に倒れ伏した。


「おう、すまんな小林」

「単細胞は周囲が見えないんですから、気をつけてください」


 冷たく虎美が言い放す。兄江はそれがいやみと気づかずに大口で笑っていた。


「センパイはセンサーを壊されているから参戦できないニャ。つまらんニャ」

「まあ、そう言いなさんな。高みの見物ってのも悪くない、ぞっと!」


 給水塔の上に飛び乗った猫野センパイが大きく伸びをする。それを見上げながら、松田は裏拳で迫りくる武装風紀を殴り倒した。


「なかなかやるニャ。これが終わったら、パフェでもおごられてやるニャ」


 回し蹴りで別の武装風紀を倒しす松田へ猫野センパイがニヤリと笑う。するとヘルメットの奥から松田のおどけた声が返ってくる。


「お前ってパフェ食うのか? ツナ缶のほうがいいじゃないか?」

「ムー!」


 松田の言葉に頬を膨らませた猫野センパイは、腹いせのようにそこにあった小石を松田のヘルメットに投げつけた。



「くそ!」

「どうした風間。猟犬にしては威勢が悪いじゃないか」


 呼吸を整えた祥子が風間と対峙する。木刀をだらりと下げ、無防備に見える祥子は少しずつ距離を詰めていった。


「猟犬は自分よりも大きなクマにも立ち向かうぞ。数を頼まないと何もできないのであれば、お前は猟犬以下だな」


 祥子はわざと挑発するような言葉を使う。風間は剣を構えたまま、祥子へ攻撃すべきかどうか迷っていた。

 実のところ、祥子の体力はほぼ尽きている。まともに動けるのはあと数回ほどだろう。

 だからこそ、祥子は風間の挑発を行っている。風間が怒りに判断を誤らせた時が祥子の最大最後のチャンスなのだ。


「ほら、どうした? まさか、ヘロヘロの私が怖いのか?」


 祥子の挑発を聞きながら、風間はチラリと彼女の後ろを見る。風間直属の武装風紀二十名が乱入者たちによって次々と倒されている。


 乱入者たち全員が校内で名の知れた猛者である。それが協力しているのだから、武装風紀一個小隊程度では歯が立つはずがない。減らされていく部下たちを見ながら、風間は歯噛みをする。


「おのれ……」


 風間の視線はシオンへ移る。喧騒の中でシオンは司と対峙していた。彼を助けに行くべきか、それとも祥子を倒すべきか風間は逡巡してしまう。


「……こうなれば」


 とるべき手段を決めて、風間の目がすわる。まず祥子を倒し、シオンを救出した後で強行突破して屋上を脱出する。不名誉な撤退だが、完全敗北よりはマシである。

 判断が決まれば風間の行動は早い。剣に鋭さが戻ってきたことを感じ、祥子は頬を引き締めた。


「シェェェェェ!」


 風間の狙いは喉である。怪我をしないように剣先にキャップがかぶせてあるが、急所にくらえば気絶は間違いない。祥子は迫りくる切っ先を前に神経を集中する。


「はぁぁぁ!」

「ぬぁ?」


 祥子の木刀が宙を舞う。くるくると旋回した木刀は軽い音を立てて床に転がる。その音を聞いて、虎美が驚いたように振り向いた。


「お姉さま!」


 そこで虎美が見たのは祥子が風間の剣を受け止めているところだった。なんと、祥子は両手の平で風間の剣を挟み、その一撃を停止させていた。


「梓川流奥義、無刀取り」

「な、にぃ……」


 いわゆる真剣白刃取りである。もちろん、梓川流などという流派は存在しない。祥子がちょっとだけ調子に乗って言ったセリフだ。


「修行しなおして来い、風間」


 祥子はそう静かに言うと、両手をひねって風間の剣を一瞬で跳ね飛ばす。空中に待つ愛刀を呆然と見上げる彼のみぞおちめがけ、祥子の当身が突き刺さった。



「まったく……すべて台無しか……」


 周囲で倒されている武装風紀を見ながら、消沈したようにシオンがつぶやく。司は肩で息をしながら、そんな彼の前に立っていた。


「まあいい……今回はボクの負けだ」

「ええ、そうみたいですね」


 シオンの敗北宣言にも司は油断しない。さっき、香織を狙った棒術は並みの技量ではなかった。棒を手放していない以上、司はシオンを警戒し続ける。


「勘違いするなよ。今回は……だからな」

「わかってますよ」


 念を押すように言うシオンに、司はつい苦笑してしまう。超然とした雰囲気だった生徒会長の子供っぽい面が見られて、司はこの男に親しみを感じていた。


「というわけで、八つ当たりにキミをやっつける」


 そう言うとシオンの棒がまた旋回する。司は竹刀を構えると横へ動きつつ、シオンの出方をうかがった。


「ハァ!」


 突き出された棒を竹刀で払う。かわしたと思った瞬間、反対側の棒が頭部を掠める。棒術ならではの旋回攻撃である。間合いの外からの攻撃に、司は反撃もできない。


「やるなぁ。ただのボンクラ生徒だと思っていたんだけどなぁ」

「ボンクラですよ。今でも」


 棒がまた飛来する。さっきよりも速さが増している。かろうじて受け止めた司は手の痺れに顔をしかめつつ、シオンの追撃に備えた。


「ますますやるなぁ。もっと楽しみたいんだけど、時間がない。一気に決めるよ!」

「!」


 司の顔面めがけて棒が伸びる。あわてて払いのけ、次の攻撃に備えようとするが棒は司の竹刀にあたると予想外の変化を見せた。


「何?」


 一本の棒だと思っていたものは、まるで蛇のように竹刀に絡みつく。それは鉄製の鎖で連結された七節棍であった。シオンの手元の操作で変形した七節棍は、司の竹刀を基点にして彼の頭部を狙う。


「マジかよ!」


 必死の動きで司は七節棍をかわす。だが、それをかわしたのも束の間、司の目の前にシオンが迫っていた。七節棍の残った一方で止めを刺すつもりなのである。

 竹刀を戻していたのでは間に合わない。司は背後にいるはずの香織を思い出し、大声で叫んだ。


「香織! お前の竹刀を貸せ! こっちに投げろ!」


 手元の竹刀を離しつつ、司は香織の竹刀を受け取る体勢を取る。落ちていた竹刀を拾った香織は、彼の言葉に従って竹刀を思い切り投げた。

 わずかな時間であった。迫り来るシオンが司に一撃を入れるのが早いか、司が香織の竹刀で防ぐのが早いか。それは半秒にも満たない瞬間である。


 間に合え。そう念じつつ、司は香織の竹刀を見守る。だが、香織が慌てて投げた竹刀は司の予想を裏切り、伸ばした手を素通りしていく。


「ガッ!」

「え?」


 間の抜けた声とともに司の上にシオンがおおいかぶさってくる。見れば額に思い切り竹刀が激突している。先ほど三階廊下で自分が猫野センパイにやったことが重なる。


「マジかよ……」

「ウソ……」


 この思いがけない状況にもっとも驚いたのは香織であった。立ち尽くした彼女を見上げつつ、司はシオンを抱きとめて呆然としていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ