第9章 ぶつかる想い
「司……」
「……司」
驚く2人のほうへ司は歩いていく。
満身創痍である。マウンテンバイクは2階でチェーンが外れてしまい放棄した。新聞部特製の防具も破壊され、今は下に着込んだ学生服だけになっている。
持っている竹刀も破損がひどい。割れにくいカーボン製のものだが、カツカレー派とカツ丼派の妨害を潜り抜ける間にボロボロになっていた。
「よう……」
猫野センパイのそばに転がっている竹刀を拾った司が二人へ声をかける。かける言葉が見つからず、祥子と香織はお互いを頼りにするように目を合わせてしまう。
「きつかったぜ。一人でここまで来るのは」
わざとらしく首を動かしながら司が苦笑する。その笑顔を見て祥子も緊張が緩み、笑みを浮かべて礼を述べる。
「助かった司」
「ああ、これか? 猫野センパイには悪いことしちまったな。お前がやられそうだったんで、つい竹刀投げちまった」
先ほど司がいた位置から猫野センパイまで二十メートルはある。それを祥子に当たらないギリギリを見切って竹刀を投げたのだ。この時、祥子と香織は改めて司の実力の高さを痛感する。
「バ、バカな……。あれだけの数の生徒を突破してきたんですか?」
虎美が時代劇の悪役みたいなセリフを口にする。彼女の疑問は当然のことだ。まともな部活にも入ってない帰宅部の生徒が、桜稜オールスターとも言うべき連中を突破してここまでやってくるなど、ありえないのだ。
「いや、司ならできる。こいつはそういうヤツだ」
「ええ、司は怠け者ですけど、やる時はやる子ですもの」
当然のように祥子と香織が言う。
「壁でも上ってきたんですか? 正面から突破できるような数じゃ……」
「虎美。私が司のお爺様の道場で修業していたことは知っているな?」
祥子の言葉に虎美はコクンと頷いた。祥子は幼稚園から司の祖父に師事して剣道に励んでいた。そして、その才能を発揮して、高校剣道日本一まで上り詰めたことは虎美たちにとって周知の事実である。
「その道場で私が一度も勝てなかった相手がいてな」
そう言って祥子がチラリと司を見る。すると司はブスッとした顔になった。
「一回だけ負けてやったろうが」
「だから、あれは無効だ! 勝ちを譲られて私が喜ぶか!」
「え?」
司と祥子のやり取りに虎美は目を白黒させる。つまり、あの祥子が一度も勝てなかったというのだろうか? 祥子を熱烈に信奉する虎美には信じられない言葉だった。
「まあ、剣道やっていたのは中学二年生の話だからさ。昔のことよ」
「私は当時も全国中学剣道大会二連覇だったがな」
今度は祥子がブスッとした顔をする。いつもの凛々しい顔よりも幼い表情に、司と香織は少しだけ懐かしげな顔になる。
「つまり、こいつは私よりも強いのだ。もちろん、私もあれ以来かなり腕をあげているとは思うが、まだ勝てるかどうかはわからん」
「そんな……」
祥子の言葉を聞きつつ、虎美は司を見つめる。見てくれは悪くないもののどこか間の抜けた容貌の男が、高校剣道界最強の祥子よりも強いなど信じられない。
「で、お前はここで何をするつもりなんだ」
「第三勢力としてやってきたからには、私も祥子さんも敵ですわね」
護衛二人を従えた香織がまた竹刀を構える。また護衛の尻にぶつかってしまうが、本人は気づいていない。
「もちろんだ。オレはお前らの戦争をやめさせるために来たんだからな」
「お前には関係あるまい」
祥子が静かに拒絶の意思を示す。それを聞いた司は彼女へ向き直り、じっとその目を見つめる。
「さて……」
「はじめるか……」
静かに祥子が木刀を上段に構える。天井の高さがあるのでやや剣を水平にし、窮屈な姿勢であった。それに呼応して、司は正眼の構えを取る。
「相変わらずの構えだな」
「やっぱり得意の上段か」
祥子と司が微笑む。そのやり取りに虎美はかすかに違和感を覚えた。
「得意の上段? お姉さまはいつも正眼で……」
そうつぶやくと司が軽く笑う。
「こいつ、道場では上段ばっかり使っていたぞ。私の剣は攻めの剣だから、この構えが一番性に合っているんだってな」
「古いことをよく覚えてるな」
司の話に祥子も笑う。表情は和やかに見えるが、両者の間に漂う空気は徐々に緊張感を増していった。
「じゃあ……なんで……」
「祥子さんが本気で剣を振るうのは司だけだからですわ」
虎美の疑問を香織が解決してくれた。香織は喜びと嫉妬が交じり合った複雑な顔で司と祥子の対峙を見つめている。
「祥子さんが本気で戦うときは上段。特に司が相手の時はそうなのですよ」
「……」
虎美は言葉を失う。祥子の上段など、稽古はおろか公式戦でも見たことがない。先ほどの猫野センパイとの戦いでさえ上段には構えなかった。
その上段が今から見られる。剣道家として虎美は興奮に顔を紅潮させる。
「!」
静かな廊下に木刀と竹刀の激突音が響く。振り下ろされた祥子の剣を司が下段からの一撃ではじき返したのだ。
だが、至近で見ていた誰の目にも二人の剣の動きは見えなかった。音と状況だけがそれを類推させたに過ぎない。二人の立ち位置や姿勢に変化はなく、音がなければ動いたことさえ気づかなかっただろう。
猫野センパイとの戦いでも虎美は祥子に対し、圧倒的な実力差を感じていた。しかし、今目の前で起きている戦いはそのさらに上の次元である。これからの学校生活で彼女の高みに近づけるか、虎美には自信がなかった。
「いくぞ……」
「お手柔らかにな……」
司の言葉と同時に祥子が動く。音もなく踏み込み、音もなく木刀が振り下ろされる。司の目にはその木刀の数は三つに見える。
「いきなり百式かよ!」
叫びつつも司に慌てた様子はない。竹刀を左右に払いながら、祥子の射程から体を逃がしていく。
だが、祥子の剣はさらに変化する。振り下ろされた剣先が複雑な軌道を描き、速射砲のような突きへと変化する。猫野センパイを防戦一方に追い込んだ百式の動きである。
「めんどくせえな!」
フェイントを織り交ぜて繰り出される百式に舌打ちしつつ、司は正眼からの突きを放つ。防戦に回るよりも攻勢に転じたほうが勝機があると判断したのだ。
「くっ!」
弾幕のような突きをかいくぐって司が攻撃を仕掛ける。普段ならばさらに加速をかけて、迎撃するところだが、猫野センパイとの戦いで体力を消耗した祥子にはそれを繰り出す余裕はなかった。
「ええい!」
百式の連続攻撃を防壁として、祥子が後退する。司の攻撃を防いだ彼女は、肩で息を整え、再び上段の構えを取る。
「ベストコンディションならやばかったぜ」
頬に浮かび上がるあざを軽くぬぐって司がつぶやく。祥子は無言で微笑み、再び距離を詰め始める。
祥子が前進を始めた瞬間、司の顔から一切の余裕が消える。疲労困憊に見えた祥子の体から恐ろしいほどの気の充実を感じるのだ。司は背筋を伸ばし、ゆっくりと剣先を床へ向ける。下段の構えである。
「お姉さま……」
背中の傷の痛みを忘れ、虎美が祥子を呼ぶ。だが、祥子はまるで周囲の状況など意に介さずに、全神経を司へと差し向ける。離れているはずの香織たちもその威圧感に、半歩退いてしまう。
「サッチン……」
香織が不安げにつぶやく。子供のころに司たちと知り合った彼女は、いつも道場で司と祥子の試合を見ていた。二人の世界に没頭する彼らにかすかな嫉妬を覚えながら。
だが、今日の対決は今までとは大きく違っている。これまでにない鋭さを発揮する祥子の姿に、香織は悲壮感のようなものさえ感じていた。
祥子が構えてから、司は何度も攻撃の機会をうかがっていた。しかし、打ち込む隙がなかなか見つからない。何度想像してみても、祥子の剣が先に司を昏倒されるのだ。
「腕をあげたなぁ……」
顔をこわばらせながら司が感心したように言う。祥子はかすかに頬を緩ませるが、その剣気には微塵の乱れも見せない。
「最後にやったのが中学二年だもんな。三年も経ったかぁ」
感慨深げに独り言を言いつつ、司は剣を下段からゆるゆると上げていく。
「いつまでも昔の私だと思わないことだ」
「わかってるよ。でもな。オレはお前に竹刀の持ち方を教えた男だぜ」
ニヤリと司が笑う。剣先は中段になり、そして正眼でピタリと止まる。
「では、修行の成果を見てもらおうか。師匠」
祥子が笑う。余裕や侮りの笑みではない。心から満足しきった会心の笑みだった。
「参る!」
「おお!」
動いたのは攻撃を宣言した祥子ではなく司だった。並みの剣士なら虚を突かれるタイミングだが、祥子は並みではない。構えを崩さずに攻めかかる司を迎撃する。
すべるように接近してきた司が正確に祥子の頭部を狙う。気を抜けばたじろいでしまうほどのすさまじい殺気の中でも、祥子は冷静さを保って自身の攻撃のときを待つ。
「もらった!」
渾身の上段斬りが司の頭部を正確に捉える。鹿児島県に伝わる古流剣術・示現流は一撃必殺を標榜しているが、祥子の剣はその南国の剛剣を思わせる速さで振り下ろされた。
落雷にも似た速さで振り下ろされる木刀は、まさに神速である。かわすことなどできようはずもなく、受け止めれば竹刀ごと断ち切るほどの威力がある。防御を捨て去った一撃は、まさに必殺剣であった。
祥子は勝利を確信する。この一撃は彼女の人生すべてを込めたものだ。剣士としてだけ
でなく、司への想いさえも込めている。
この戦いが終われば、祥子は司のことを諦めようと思っていた。自分が何よりも大事だと思っていた記憶は、司にとって何でもないものだった。ならば、自分の司へ向けてきた気持ちはすべて司に迷惑をかけてきたのではないか? 思い込みの激しい彼女は、さらに思い悩み、自分から司を諦めようと心に決めていた。
今の戦いは言わば司への離別状である。最後に一度だけ自分を見てほしい。その悲しいまでの決意が、彼女の剣に恐るべき執念を宿らせた。
黒檀の木刀が一直線に司を両断する。頭頂部から股間まで真っ直ぐに切り裂かれた司の姿は、祥子の目の前で霧のように消えた。
「な!」
視界が司を見つける。なんと、司はまだ動いていない。一瞬、何が起こったかわからずに祥子は剣を振り下ろしたまま硬直する。
「天道流奥義、霞撃ち」
司の言葉と同時に、彼の竹刀が祥子の喉一寸に突きつけられる。まだ状況が飲み込めず、祥子は司の顔を凝視する。
「ど、どういうことですの?」
わけが分からないのは観戦していた香織たちも同様だった。あまりにも呆気ない幕切れに、彼女は司と祥子を交互に見比べる。
「な、何が起きた? た、確かに私はお前を……」
「お姉さま、どうしたんですの?」
呆然とした祥子に虎美が惚けたような顔で声をかける。その声に祥子は彼女のほうを振り向く。
「と、虎美。私は何をしたのだ……」
「お姉さまはいきなり何もないところを空振りしたのです。でも、なぜ……」
虎美もまったく理解できていないようだった。だが、その言葉を聞いた祥子は、おぼろげに状況を理解し始める。
「百式……」
「お、さすがに理解が早いな」
祥子のつぶやきに司は楽しげに笑った。そこで祥子はすべての事態を理解する。
「私の百式を応用したわけだな」
「いや、そうじゃねえ。元々、おじいの技に似たようなのがあるんだわ。いい機会だから使ってやろうと思ってよ」
ケロリとした顔で言う司を見て、祥子の全身から力が抜ける。
司のやったことは祥子の得意技である百式に近い。百式はフェイントを多用して連続攻撃を仕掛けるものだが、司のやったのはそのフェイントに殺気を使ったものだ。
つまり、本物の一撃だと錯覚するほどの殺気をぶつけて、それに敵を反応させる。技量の高い人間ほど相手の気配に敏感になるため、強烈な殺気を前にすれは体が先に動いてしまうのだ。そして、体勢が崩れたところを本当に攻撃するというわけである。
「百式みたいに手数増やすのもいいんだが、オレはこっちのほうが好きでさ」
「怠け者め……」
苦笑しつつも祥子は敗北を認める。屈辱感はなく、晴れやかな気持ちだった。確かに負けたが、最高の一撃を放ったのだ。あれで負けれは悔いはない。
「なあ、祥子……」
「?」
気づくと喉もとの竹刀は納められ、司の顔が近くにあった。いきなり眼前に司の顔があっことに驚き、祥子は一瞬で顔を赤らめる。
「な、なんだ! 司! やめろ! 下がれ! 心の……準備が……」
「お姉さま!」
「司! 祥子さん!」
数十センチまで迫る司に祥子がしどろもどろになる。あまりにも二人の距離が近いことに焦った香織と虎美が制止の言葉をかけるが、司はそれを無視する。
お互いの顔が接近し、祥子の心臓がドキドキと高鳴る。もはや木刀を操るどころではない。そんな時に司が口を開いた。
「ごめん、祥子。カツ丼のこと覚えてなくてさ」
「そ、そんなこと……」
素直な謝罪の言葉に祥子は何も言えなくなる。真っ直ぐに謝られては、どんな反論もできない。ここで拗ねて見せても大人げないだけだ。
「お前にとってカツ丼は何よりも大切なものなんだよな。それを……悪かった」
司が頭を下げる。その言葉と行動を見て、祥子はかすかに苦いものを感じる。
「司……お前は……」
わかってないのだ。いくら謝ろうとも自分の思い出が司にとっては何でもないものであった事実は変わらない。それに気づき、祥子の心は冷静さを取り戻す。
だが、司がそれを謝罪してくれたことはうれしい。それだけで祥子は満足だった。
「分かった司。ありがとう」
「祥子……」
司から静かに離れ、祥子は香織の前に立つ。もうカツ丼にこだわることはない。自分が我慢すればいい。司のことから身を引こうと決意し、祥子は長年の親友でライバルの前に立った。
「香織……私のチップを壊してくれ」
「は?」
突然の申し出に祥子以外の全員が呆気に取られる。言われた香織は意味がわからずに周囲の護衛を見るが、彼らが分かるはずもなく首を横に振るだけだった。
「ど、どういう意味ですの?」
「もういいのだ。私の負けでこの戦争を決着させよう」
「お姉さま!」
祥子の言葉に虎美が叫ぶ。しかし、晴れやかな顔で祥子は頭を振る。
「すまない。だが、仕方ないのだ。ここで私は香織に討たれるべきなのだ」
「お姉さま……」
祥子の迷いのない顔に虎美はそれ以上言えなくなる。その表情を見て、彼女は祥子の気持ちを理解した。香織に勝ちを譲り、それで司との三角関係も終わりにする気だ。
「さあ……ひと思いにやってくれ。そして、司と仲良くな」
「……」
「祥子。何言ってるんだよ!」
慈母のような笑みを浮かべた祥子に対し、香織は下を向いたまま何も言わない。祥子の考えに気づき、司はあわてて祥子へ声をかける。
「いいのだ。この十数年のことはすべて私の勘違いだったのだろう? これで終わりにするよ。ありがとうな司、香織……」
『ふっざけるんじゃねぇぇぇぇぇ!』
いきなり怒号が廊下に響き渡る。それは司と香織が同時に発した言葉だった。
「か、香織?」
自分はともかく香織まで叫んだことに司は驚く。香織は小柄な体を震わせ、その大きな瞳を怒りに吊り上げ、祥子を見上げる。
「勝手に納得して、勝手にあきらめるなんて許しませんわよ! あなたは梓川祥子なんでしょう? 私のお友達で私の宿敵なんでしょう?」
「香織」
香織の手が祥子の道着をつかむ。両手で祥子を引き寄せ、香織は真剣なまなざしで祥子へ言葉をぶつける。
「私が司と出会った時、アナタはすでに司と一緒に道場にいましたわ。体の弱かった私は稽古に参加できずにずっと見学していたんです。アナタと! 司が! 仲良く稽古をしているのを!」
祥子の目の前の香織の目にキラリと光るものが見えた。それに気づいた司は、止めることもできずにその場から身動きできない。
「私は必死にがんばったんです。運動ではダメでも、勉強やほかのことで追いつこうと! そして、この桜稜でやっと……やっとアナタと肩を並べられたと思ったのに……」
香織のヒザがガクリと落ちる。祥子はあわてて彼女を支えるが、次の瞬間香織は涙に濡れた顔を上げて、叫ぶように祥子へ告げた。
「やっと三人対等になったのに、なんでアナタは勝手に抜けようとしてるんですか! 自分だけ大人のふりをして満足ですか? 卑怯者! 恥を知りなさい!」
「……香織」
思いのたけを爆発させる香織の肩を祥子が優しく抱きしめる。そして、歩み寄ってきた司もまた静かに彼女たちの肩に触れる。
「だよな香織。オレたちは昔からずっと一緒だもんな。ケンカしても最後は三人一緒。祥子だけいなくなるなんておかしいもんな」
「エッグ……ウェ……」
もはや声にならない香織を司が優しく慰める。そして、司は香織へ微笑みかけた。
「ま、そういうことだからよ。親友のためにも変なこと考えるなよ。それによ……」「?」
戸惑う祥子の肩を軽く叩き、司は無邪気に言葉を続けた。
「カツ丼のことだけがお前との思い出じゃないだろ? オレはいっぱいあるんだよ。お前との思い出が。そして、もっともっと増やしていこうぜ」
(ああ……)
優しいまなざしで笑う司を目の前にして、祥子は何も言い返せなくなる。子供のころ、最初に会ったときそのままのまなざしである。そうだ。自分はその顔の司が大好きだったと祥子は改めて思い出す。
「そ、それは私への……プ、プロボーズなのか……」
「へ?」
いきなり発想が飛躍した祥子に司はまたも呆然とする。思い込みが激しく、とんでもないところまで突っ走るのは、昔から祥子の短所であった。
「何ィィィィ!」
プロボーズを聞いて、さっきまで泣いていた香織がバネ仕掛けのように立ち上がる。涙の跡などまったくない顔に怒りと嫉妬をにじませ、香織は司と祥子の顔を交互にみやる。
「そうはいきませんわ! 友情は友情ですが、それは別腹! この泥棒メスゴリラ!」
「な!」
「香織ィ……」
さきほどまで照れて赤くなっていた祥子の顔が一瞬で怒りに赤く染まる。すぐさま香織の肩から手を離した彼女は、音もないバックステップで距離をとると木刀を正眼に構えた。
「言うにことかいて泥棒メスゴリラだと? 親友でも許さんぞ香織!」
「親友とかそういうのは関係ありません! 昨日の友は今日の敵!」
「おめえら……」
呆れた司は助けを求めるように虎美や護衛たちを見る。だが、急展開の連続を目の当たりにして、対応できている人間は司以外にいなかった。
一瞬、猫野センパイが復活してないかと視線を落とすが、猫野センパイは絶賛気絶中である。思い切り投げすぎたと司は一抹の後悔を抱いてしまう。
「友情はともかく恋の決着はここでつけようではないか! この乳デカロリータ!」
「ムッキー! よろしいですわ。ここで勝ったほうが司を好きにしましょう」
「おい……」
いつもの展開が戻ってきたことを嬉しく感じつつ、司はお決まりの突っ込みを入れる。すると、香織と祥子もチラリと彼を見てかすかに口元を緩めた。
「じゃあ、決着の場所は屋上でどうだ?」
司が提案する。どうせ決着させるなら最終目的地で戦うのが手っ取り早い。二人もそのことに異存はなく、コクリと同時に頷く。
「いいか、俺が勝ったらお前ら言うこと聞けよ」
「こっちのセリフだ。以前の私と思うな司」
「……参加することに意義があるんです」
猫野センパイの一撃で負傷した虎美と猫野センパイの手当てを香織の護衛二人に任せ、三人は屋上へ続く階段を仲良く登っていった。




