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第7章 激突


 ウーーーーー!


 開戦を告げるサイレンが校庭に鳴り響く。その音を聞き、見物人の生徒たちは一斉に各陣営が集結している北と南の校門を見た。


「うおおおおお!」


 カツ丼派とカツカレー派が同時に駆け出す。土ぼこりをあげて走る人の群れは、校舎の中央昇降口を目指している。


 校内戦争時の桜稜校舎はルートを1つに限定している。本来は解放されている昇降口や階段は厳重に閉鎖され、1つの昇降口と1つの階段だけが移動ルートとなるようになっている。

 目指すは屋上に置いてある終戦調印書。合計201人の生徒のバトルロイヤルが始まったのである。



「トップはいただきだぜ!」


 黒いジャージ姿の少年が圧倒的加速力で昇降口へたどり着く。カツ丼のマークを額につけた少年は、腰に差していたプラスチック製のリレーバトンを持って身構える。


 名前は折口亮。学年は一年生。陸上部に所属しており、五百メートルハードルの正選手として期待されているホープである。今回の戦争ではクラスメイトの虎美に勧誘されて参戦した。


 折口の役目は昇降口のいち早い確保であった。陸上部の俊足を生かして先にたどり着いた彼は、リレーバトンを武器にしてカツカレー派を食い止めようと考えていた。


「ブンッ!」

「!」


 折口の視界が真っ白になり、次に衝撃が脳を揺らす。予想外の速さで一撃を受けた折口は校舎に激突し、そのまま気を失った。


「邪魔っすよ」


 折口を一撃で倒したのは全長2メートルほどの巨大なハリセンであった。それを片手で軽々と扱い、攻撃の主は倒れた折口に冷たい言葉をかけた。


「こらー! 槍沢ー!」


 ガッシャンガッシャンと音を立てて、屋形たち歴史研究会の面々がたどり着く。だが、その頃には槍沢と呼ばれた生徒は殺到するカツ丼派と死闘を演じている。


 槍沢雑太。お笑い研究会に所属する二年生である。極度のあがり性のためにステージではあまり笑いを取れないが、異常な怪力の持ち主というお笑いとは全然関係ない特技のために、松田からスカウトを受けて参戦した。


 全長2メートル重さ10キロのハリセンが白い暴風のように昇降口を荒れ狂う。折口の惨状を目撃したカツ丼派は下手に近づくことができない。


 十分すぎるほどの働きを見せている槍沢に対し、一番槍を奪われた屋形は抗議の声をあげる。


「貴様! 一番槍は我が歴史研究会と決まっておったのだぞ! それを横取りするなど、恥を知れ!」

「いや、アンタらが走るの遅いのが悪いんでしょうよ」

「う……」


 事実を指摘されて屋形が黙る。張り切って戦国甲冑などを着たため、歴史研究会の行軍スピードは遅くなってしまったのだ。それでも先陣をきった槍沢から数秒遅れだったのは大したものであるが。


「ほら! 来ましたよ! 手伝ってください!」

「お、おう! かかれぇぇぇ!」


 プラスチック製のおもちゃの刀を持った歴史研究会がカツ丼派に襲い掛かる。陸上部やサッカー部の混成軍だったカツ丼派先鋒部隊はあっという間に数を減らされていった。


「整いました! カツカレーとかけまして、オレたちとときます」

「その心は」

「勝ち(価値)上がります!」


 サッカー部の頭部に見事なハリセンアタックをかましながら、槍沢が叫ぶ。彼らの作り上げた防壁の後ろでカツカレー派の本隊が校舎へ入っていく。

 ちなみに謎かけはイマイチだと屋形は思っていた。


「御館さま! ご武運を!」

「皆さまも!」


 香織の声を背中に受けて、屋形たちのテンションもあがる。ここで一秒でも時間稼ぎをする。その覚悟を決めて、彼らは迫りくるカツ丼派本隊へ対峙する。


 先頭を走る浅黒い顔を見て、屋形と槍沢の顔が緊張に引き締まる。煉武会総帥の荒木がやってきたのだ。


「空手部有志連合! 行くぞ!」

「おおおおおおお!」


 荒木率いる三十人の空手部員が同時に構えを取る。正直言って勝ち目がない。覚悟の表情で、屋形は槍沢ら昇降口に残ったカツカレー派へ号令を発する。


「死ねや者ども! 功名の立て場所はここぞ!」

「おおおおおお!」


 昇降口に残る二十名ほどのカツカレー派が大声をあげて、空手部へ突撃する。それに混ざりながら、屋形の脳裏にわずかな後悔が去来する。


(やってみたかったな鶴翼の陣)


 もはやグッチャグチャになった戦列を率いて、屋形光一は荒木へと切りかかった。



「始まったか……」


 新聞部棟から校舎を遠望した司がつぶやく。昇降口では空手部と変な甲冑のコスプレ集団が戦っている。数の少ないコスプレ集団は空手部の攻撃で確実に数を減らされている。


「そろそろ行くか」

「おう、達者でな」


 山倉に司が笑いかける。フル装備の司は調達してきたマウンテンバイクにまたがり、ハンドルを握った。

 ペダルに足をかけ、準備を整えた司はふと思い出したように山倉のほうを向く。


「そういや鮎川先輩ってさ……」

「ああ、先輩からは今日戻るって聞いていたんだがな」


 司と山倉が頼りにする鮎川浪漫からの連絡はない。そのことだけがかすかに気にかかったが、司はそれを振り払うように何度かヘルメット越しに顔を叩いて気合を入れる。


「付属病院のベッドは予約しておいた。逝って来い」

「縁起でもねえな」


 山倉の意地の悪い言葉に笑みを返し、司はペダルを踏み出す。万全の整備をしたマウンテンバイクは軽快に滑り出し、まっすぐに激戦が繰り広げられている校舎へと走っていった。



「うおおおおお!」

「ぐあぁ!」


 巨大なハリセンをかわしそこない、空手部員が地面に倒れた。両肩で息をしながら槍沢は次の獲物を探して、血走った視線を左右に動かす。


 歴史研究会の会員も立っているのは屋形を含めて2人しかおらず、槍沢と同じく疲労の極みにあった。だが、こちらは奮戦の結果というよりもやたらと重い甲冑によるところが大きい。


「ちっ、ここまでか……」


 昇降口はすでに突破されている。祥子をはじめとして、多くのカツ丼派が校舎へ突入していったのを槍沢は横目で見ていた。阻止に行きたかったが、空手部の猛攻を防ぐので手一杯だったのだ。


「さて、ここらで終わりにしようか槍沢くん。センサーを外して、戦闘放棄するんだ」


 荒木が浅黒い顔に不釣合いなほど白い歯をのぞかせて降伏を迫る。しかし、その言葉を聞いた槍沢はニヤリと笑って、同じく肩で息をしている屋形へ声をかけた。


「……と言っていますが、どうしますか屋形先輩」

「生きて虜囚の辱めを受けろとは情けない申し出だな」


 重い甲冑を脱ぎ捨て、穂先を外した擬似槍を構えた屋形が笑う。その笑みを見て、槍沢も腹をくくる。


「荒木! お前も煉武会を率いる武道家ならば、武人の心を知れ!」


「……。これは失礼した」


 屋形の言葉を聞いて、荒木は生真面目に一礼をする。実のところ、屋形は完全にハイになっており、ノリでしかしゃべっていないのだが、それを真面目に受け取るのが荒木の長所であり短所であった。


「では、煉武会代表・荒木熊助。渾身の力でお相手する。二人まとめてかかってこい」

「ありがたい!」

「いくぜぇぇぇぇぇ!」


 最後の力を振り絞って槍沢のハリセンが荒木の側頭部を狙う。同時に槍を短く持った屋形がダッシュで荒木の腹部を目指した。打ち合わせをしたわけではない。その場で最前と思う行動をした即席コンビネーションである。


「はぁぁぁ!」

「なっ?」


 屈強な空手部員を一撃で昏倒させるハリセンを側頭部にくらい、穂先を外しているとはいえ槍の攻撃を腹部に受けても荒木は微動だにしない。両腕を胸の前で城門のように構え、全身に気をみなぎらせた荒木はこの二撃を耐え切った。


「コオオオオオ!」


 空手の構えの一つである三戦サンチンである。その独特の呼吸法によって、あらゆる打撃に耐えうるとされる最強の防御形態であった。


「シイィ!」


 渾身の一撃を防がれた2人があっけにとられる瞬間、荒木の両手が弾丸と化す。鉄拳と形容するにふさわしい攻撃をくらい、槍沢と屋形の頭部にあったセンサーが完全破壊される。


「お、お見事……」

「あんたとはやってられへんわぁ……」


 地面に2人が倒れかけるのを荒木の両手が支える。そして、気絶した彼らを静かに地面に寝かせると、荒木は周囲で見守っていた空手部部員たちへ振り返った。


「行くぞ! 動けるヤツはついてこい!」


 荒木の声に空手部の生き残りが動き出す。三十人いた空手部は半分にまで減っていた。その損害の大きさを知り、荒木は昏倒している2人へ尊敬に似た眼差しを向ける。


「すぐに本隊に追いつくぞ! この戦争は空手部が制する」

「おう!」


 荒木率いる空手部が校舎へ突入する。兄江や祥子たちは今頃カツカレー派の本隊と戦っているはずである。すぐに駆けつけなくてはいけない。


「にゃー」


 猫の泣き声? 一瞬、そう思った荒木だがすぐさまその考えを打ち消す。こんな修羅の巷に猫がいるはずがない。


「猫野だ」


 荒木の視線の向こうには両手をダラリとたらし、微笑んでいる女生徒の姿があった。


「さすが空手部だにゃ。見事な戦いぶりだニャ」

「ちっ!」


 荒木の横から部員が飛び出す。1年の有望株として目をかけている生徒だ。荒木が止める間もなく、1年生は拳を猫野センパイの頭につけてあるセンサーへ繰り出す。


「ニャウ!」


 1年生の体が空に舞う。1年生とはいえ、身長180センチの巨漢が150センチに満たない女生徒の一撃で吹き飛ばされたのだ。思わず、荒木は息を呑む。


「猫拳を使うのも久しぶりだニャ。なまってないといいニャ」

「……この化け物が」


 猫野センパイは猫拳の使い手である。蛇拳をベースにツメと手のひらを存分に使う拳法は、彼女がジャッキー映画を見て編み出したとされる恐怖の暗殺拳で、その破壊力は見ての通り、大の男を一撃で吹き飛ばすほどである。


「囲め!」

「おう!」


 目の前の圧倒的な光景に空手部は乱れない。荒木ほか七人の空手部が猫野センパイを囲む。包囲されても猫野センパイは腕をダラリとさげ、半目のまま笑みを浮かべていた。


「わくわくするニャ。手加減無用ニャ。かかってくるニャ」

 脱力した姿で猫野センパイが笑う。


「俵屋のヤツが妙におとなしくなったのはお前のせいだったよな。柔道部を1人で制圧した猫拳。俺たちが破ってやるぜ」

「御託はいいから、さっさとくるニャ」


 温厚だった荒木の顔に凶暴な影が宿る。黒豹にふさわしい獰猛な顔つきになった荒木は、伝説の化け物へその白い牙をむいた。



「祥子ぉぉぉぉ! 好きだぁぁぁぁ!」


 兄江はそう叫びながらとび蹴りでカツカレー派のセンサーを割る。さっきから彼の掛け声はこればかりである。


「祥子っぉぉぉ! 愛してるぅぅぅ!」

「おい、兄江!」


 木刀を振るっていた祥子は思わず立ち止まって振り向く。背後を見せたことを好機と見て、カツカレー派が襲い掛かるが、祥子はそれを見もせずに殴り倒す。


「その掛け声はどうにかならんのか!」

「ならん! これはオレの愛のパッション! 震えるぞビート! 燃え尽きるほどヒート!」


 回し蹴りでカツカレー派を倒しながら兄江が暑苦しい顔で笑う。すでに汗でヌラヌラの顔を見て、祥子はげんなりした顔になる。


「なあ、祥子。いい加減、オレの愛を受け止める時期ではなかろうか」

「どうしてそうなるんだ!」


 実際、祥子は兄江のことは好きではない。まあ、基本的にいいヤツなので嫌いではないのだが、男女の好意というレベルには達していないのだ。


 だが、相手の気持ちに斟酌するという発想の無い兄江はあらぬ方向に受け取り、顔を真っ赤にして焦りだす。


「まさか、貴様。オレのほかに浮気相手が!」

「なぜ浮気になるのだ! 浮気ではない!」


 兄江の言葉に突っ込みつつ、祥子の脳裏に司の顔が浮かぶ。その幻想をぶんぶんと振り払いながら、祥子は顔を引き締めた。


 祥子は今でも司のことが好きである。だが、司との大切な思い出だと思っていたカツ丼は、司の思い出ではなかった。自分の思いが独りよがりのものだと気づいた彼女は、司とのことに決着をつける決意をして、ここに立っているのだ。


 正直言って、祥子は香織が好きだった。かわいいし、親が金持ちだし、頭もいい。その上に胸が大きい。残念ながらCカップの祥子より3カップほど上だ。

 だから、司が香織と付き合うならそれでもいいと思っている。しかし、それをただ傍観するのは彼女の性分に合わない。


(だから……)


 この戦争は祥子のけじめの戦いだった。司のことをかけて祥子は香織に挑んでいる。負ければ司を諦めよう。そして、もし勝てば……。


「負けられん!」


 木刀を握りなおし、祥子は正面を向き直る。カツカレー派が進撃してくる廊下を見すえると、そこに奇怪なものが見えた。


「む……おい、兄江」

「お、ありゃあ、松田の兄やんだな」


 赤と金色でカラーリングされたやたらと派手なヤツがこちらへ歩いてくる。いや、足が床から浮いているのでホバー移動だ。


「よう、さっちゃん。兄江」


 科学部のちょい悪兄貴こと松田帝人の声がする。いたずらっぽい笑い声に2人の眉がしかめられる。


「あんた、カツカレー別に好きじゃねえだろ」

「いやあ、オレはどっちでもいいんだがよ。香織ちゃんの頼みだからな」


 その言葉に祥子の奥歯がギリッと音を立てる。香織のヤツはどこまでモテれば気が済むのだと理不尽が怒りがこみ上げる。

 実のところ祥子も相当モテている。本人に自覚がないだけで。


「お姉さま!」


 背後から接近していたカツカレー派を虎美が撃破する。ピタリと祥子の背中に自分の背中を合わせ、虎美は気持ちを絶頂近くまで高ぶらせながら木刀を振るっている。


「助かった虎美! 迷惑をかける」

「なんのなんの。私にとってはこれがご褒美!」


 虎美の言葉の意味が分からずに祥子が何か言おうとする。その時、祥子と虎美の前に影が差した。


「兄江?」

「筋肉ゴリラ先輩?」


 松田のパワーアシストスーツと祥子たちの間に兄江が割ってはいる。胴着を脱ぎ捨て、筋骨隆々の上半身をさらした兄江は臨戦態勢の顔になっていた。


「お嬢ちゃん、オレのラブハニーを頼むぜ。しっかり守ってくれ」

「あなたのラブハニーじゃありません」


 どさくさに紛れて祥子の体に抱きつきながら虎美が反論する。兄江は舌を出す虎美へ笑いかける。


「どっちでもいいや。祥子を守ってやれ」

「う……了解です!」


 一瞬、兄江がカッコいいとか思ってしまった自分を殴ってやりたい気分になった虎美は、しかめつらで了解する。今は一刻も早く屋上へ行かなければならないんは事実だ。


「お、おい! 虎! 兄江!」


 虎美に引きづられるように祥子は3階へと上っていく。残った兄江は正面に立つ松田へ向き直る。


「おう、先輩。そいつは損害保険がきくのかい?」

「きくわけないだろう。ハンドメイドのオーダーメイドだ」


 ガシャガシャと音を立てて、松田がパワーアシストスーツの動きを見せる。軽量チタニウム合金で構成された装甲と人工筋肉とモーターが生むパワーは、「筋肉ゴリラ」兄江の戦闘力に匹敵する。


「残念だなぁ。せっかく作ったのにスクラップだぜ」

「勝つ気なのかい? 冗談は顔と筋肉だけにしてくれよ」


 パワーアシストスーツが床を蹴る。あまりの加速に床板が吹き飛ぶが、そんなことにはかまわない。赤金の弾丸が兄江の筋肉鎧へと突き刺さった。


「ごっほぅ……」

「このスーツのパンチ力は約三トン。仮面ライダーでもなきゃ耐えられないぜ?」

「き、きくねぇ……」


 逆流する胃液を飲み下しながら兄江が松田の腰をつかむ。そして、大根を引っこ抜くように持ち上げた。


「な? スーツ込みで二百キロだぞ?」


 信じられないといった様子の松田に兄江がニヤリを微笑む。暴風雨の全身をかけめぐるダメージを精神力でおさえつけ、兄江は笑ったのだ。


「耐久テストといこうかぁ! センパイよぉぉぉ!」

「ちい!」


 センサーのついた頭部をガードするが反撃のタイミングはない。鋼鉄の棒と化した松田のパワーアシストスーツは校舎の壁にたたきつけられながら、派手な音を立てる。


「オラオラオラオラ!」

「ガガガガ」


 壁面にめり込んだ松田にむかって暴走した兄江が突っ込む。女の子の頭部くらいありそうな拳が速射砲のようにパワーアシストスーツの胸部をぶっ叩く。松田が防御しようとするが、兄江はガードした腕の上から、さらに拳を叩き込む。


 実はこの技は先日兄江が祥子にくらった百式を参考に編み出したものである。あちらは動きで幻惑しての華麗な連続攻撃だが、そんな細かい芸当ができない兄江は連続攻撃の部分だけを抜き出して、攻撃力をさらに上昇させる道を選んだ。

 兄江の拳がさらに加速を増す。必死にガードする松田だが、その圧力に耐えかねて両腕が弾き飛ばされる。むき出しになった胴体部へ兄江の連打が襲い掛かる。


「今日は特別ボーナス! さらに倍!」

「ちょ、おま……やめ……」


 無呼吸で拳を叩き込む兄江の顔がみるみる紫色に変わる。肺活量と筋力の限界まで搾り出す兄江版百式は、使用者に多大な負担をかける。はっきり言って普通の人間が使えば靭帯を切って腕が動かなくなる命がけの技だった。


 松田にしてみれば、単なるヒマつぶしのつもりで参加した校内戦争である。目的はズレているが本気で命を賭けている兄江は覚悟の量が違う。エマージェンシーサインで真っ赤になるディスプレイを見ながら、松田は意識を失った。


「か……たぁぁぁぁぁあ! 愛してるぞぉぉぉ! 祥子ぉぉぉぉぉ!」


 血まみれの両拳を振り上げて兄江が勝利の雄たけびをあげる。愛の勝利である。愛は強い。最愛に比べれば最強なんてカスである。月桂冠を持った祥子が微笑む幻想が兄江の脳内に乱舞する。


「ニャ」

「は?」


 奇妙な声に兄江は一瞬惚けた顔を見せる。次の瞬間キョトンとした兄江のアゴをすさまじい打撃が襲う。


「……ぐふぅ」


 地響きを立てて兄江が床へ倒れふす。彼をキック1発でほふった小柄な女生徒は階段を見上げて、にんまりと笑った。

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