意外な人となり
夜が深まるにつれ気温はグングン下がっていく。
吐く息は白く、闇に溶けていく。
空気は冴え冴えと澄み、星がやけに近く見えた。
かじかむ指先に息を吹きかけながら首を竦めた。
御者台の風よけは役立ったが、暖かい訳じゃない。
熟睡は無理。
むしろ寝たら死ぬ。
だから、御者台を降り、警備がてら馬車周りを見回った。
この街道は辺境ほどじゃないが、低位魔獣が普通に出るのだ。
特に夜は油断できない。
既に、スライム三体、ホーンラビット二体を倒した。
やり場のないイラつきをぶつけたお陰で、迷い無く仕留められた。
もったいないから素材回収する事にする。
毛皮は綺麗に剥いだら価値が跳ね上がる。
慎重に剥ぎたいのに、指先の感覚がないから手がすべる。
とうとうナイフを落としてしまった。
拾おうと、屈み込んだ瞬間、頬を鋭い爪が掠めた。
またホーンラビットの襲撃だ。
拾ったナイフを突きたてる。
半パニックでメッタ差しした結果、素材は当然ボロボロ。
「はぁ、もったいない。」
呟くのと同時に、ジャリと足音。
振り替えると、カイがいた。
背後に回した手には剣。
「・・・・思ったより、やりますね。」
「俺の事、調査してたんじゃないの?これくらいはやれるよ。」
「大変アピールして謝礼をつり上げているとか、そんな噂ばかりでしたので・・・。」
厭味な口調だが、剣を隠しながら鞘に収める様子から、恐らく本心は・・・・。
「心配、してくれたのか?」
「任務途中で怪我されては困りますから。油断しないように。」
冷たい声を残し、闇に消えてしまった。
「あ・・そ。」
塩っぱい。
ちょっとがっかりしてしまう。
けど、カイが立っていた場所を見ると、仕留められたホーンラビットが二体。
芸術レベルの切り口。
思わず、拝んで素材を回収した。
まとまった量の肉が手に入ったが、生肉は運べない。
熾火でも少しは火が入れられるかと、焚き火跡に戻る。
その横に枯枝と落ち葉が積んであった。
誰が用意したかなんて、・・・一人しかいない。
熾火を起こし肉を炙る。
油が落ちて匂いが立ち上る
塩があれば良いが、贅沢はいえない。
熱い肉を噛みしめ飲み込むと、腹の奥から温まる。
一瞬、幸せを感じるが、食べきられる量ではない。
思いついて、声をあげた。
「お~い!カイ!一緒に食わーーー」
パシンと後頭部を叩かれた。
「ってぇ!」
「大きな声を出さない!野営の基本でしょう!」
低い声でビシッと怒られる。
「火を絶やすから魔獣が寄ってくるんです!身体も、冷やさないように!」
オカンのようだ。
「そうだよな。任務に支障があったらいけないもんな。」
俺の言葉に、カイは一瞬目を見開いて、僅かに口端を上げた。
「その通りです。」
「じゃあ、一緒に火の番してくれ。」
カイは無言だ。
無理かな。
と、思ったら、隣に腰を下ろした。
改めて肉を勧めるも断られる。
「明日の分に・・・いえ、あなたお得意の商売をしたらどうですか?」
と。
皮肉交じりの言葉に笑って頷く。
それ以上は会話はなかった。
炎がチラチラと踊り、木が弾ける音を聞いて過ごした。
気づけば、東の空が微かに白み始めてきた。
朝が来る。
新しい一日の始まりだ。
「・・・行くか。」
例え行き先が地獄だとしても、行くしかないのだ。




