初対面
「昇進オメデトウ~。」
パチパチと軽い拍手音が馬車内に響く。
お祝いの言葉も聞こえている・・ような気がする。
でも、すべてが幕越しみたいでボヤけている。
なにより、頭の中がグチャグチャ過ぎて何も考えられない。
「ロウ君!聞こえてないかなぁ?」
肩をポンと叩かれ、我に返った。
「今から飛ばすから、今日中には王都に着くよ。」
言われた瞬間、ふわりと身体が浮いた。
窓から見える景色が残像となっていく。
とんでもない加速だ。
そう言えば、隣にいたはずの”平民君”が、いない。
出て行った気配も無かった。
乗り込んできた時の無音で無駄のない動きが、頭に蘇る。
やっぱり、ただ者じゃない。
「ホラ、またぁボーッとして、今回の任務の確認するよ~。」
本部長の軽い声で説明が始まった。
・本日中に王都に到着。
・到着後、すぐ護送対象を乗せ、辺境に出発。
・この高性能馬車で二日程で到着予定。
・・・・二日?
通常の倍の早さだ。
「ねぇねぇ聞いてる?こっからが良い所なんだよ!」
任務確認のはずが、気づけば、本部長の武勇伝語りに脱線していた。
何、この地獄。
早く着いて欲しい。
でも、着いたら・・・地獄本番だ。
逃げたい。
でも、逃げられない。
俺に出来ることは、昔、姪っ子に買ってあげた頷き人形のようにカタカタ上下に揺れる事だけだった。
+++++
巨大な城門が見えてきた。
馬車は速度を落とすが、止まらない。
検閲待ちの列をスルーして突っ込む。
どうするかと思って見ていれば、本部長が窓から顔見せただけで通された。
完全なる割り込みだ。
いつの間にか後ろに整列していた護衛騎士4名も顔パス。
こんなの初めてだ。
カッポカッポと蹄音が、トンネル状の城門通路に響く。
そこを抜ければ門前広場へ。
明るい。
調度、時を知らせる鐘が鳴り響いていた。
陽光が石畳を照らし、小鳥が飛び交う。
「三時のタイムサービス始めるよ!」
「今から特売ですよ!」
研修以来の王都。
相変わらず、熱気が凄い。
本当なら、姪っ子の土産買ってやれるはずだったのにな。
胸が少し締め付けられた。
馬車は王宮内の騎士団駐屯所内に入り、”案内”と言う名の連行を受けた。
そこで、部下達と初対面。
エリアス・・・元ヴァルクレイン王家嫡男。
バルド・・・・元ロックフォード伯家、騎士団長子息。
シオン・・・元アルケミア侯家、魔術師長子息。
ルカ・・・元セレストリア公家、神官長子息。
まさしく殿上人。
超高位貴族様だ。
全員、超美形。
全員、オーラ半端ない。
そして、全員、目が死んでる。
なまじオーラが強いから、部屋全体を鬱空間にしている。
俺はタジタジなのに、本部長は変わらない。
「新しい上司だよぉ。彼の指揮下で魔獣討伐してね~。」
鋼メンタルにも程がある。
初めて尊敬した。
「はい!自己紹介しよっか!」
よし、これに乗っかる。
大丈夫。自分に言い聞かせて口を開く。
「ロウ・バ・・ばニス・・です。」
でも、噛んだ。
「上司!上司の威厳。」
速攻、本部長に小突かれた。
「ロウ・バニスだ!宜しく!」
やけっぱちで叫ぶ。
帰ってきたのは沈黙と塩対応。
チラ見。
無視。
無表情。
ポッキリ心が折れる。
「無理だって~。」
本部長の肩に縋り付いた。
「大丈夫。思春期男子なんてあんなもんだよ。」
本部長が俺を引き剥がしてにっこり笑顔で言う。
「嘘つけ!」
「まぁまぁ、一応、君の命令に従うように契約しとこっか。」
このテンションを続けられる強さが羨ましい。
魔術契約書を渡し、それぞれに同意のサインをさせる。
視線は合わないが、拒否はされない。
基本的に俺の命令に従うが、命の危機がある場合には従わないとの契約を。
これ、強制力どこまで聞くの?
不安しかない。
それでも、無いよりはマシだ。
「じゃ、出発しよっか。」
軽い口調で言われて、また馬車へ。
当然のように4人は馬車内へ。
俺はと言えば・・・。
「なんで、俺は御者台?」
「逃げないように見張らないといけないでしょ?頑張って!」
両手で握りこぶし作られた。
「それ、かわいい子にしか許されない仕草!」
「偏見ダメ!かわいい系オジサンめざしてるのに。」
「キモいこと言うな!狸め。」
もう口が止まらない。
「休憩あげようと思ってたのにぃ、無し!」
本人はキャラ変する事無く、怖いこと言ってくる。
俺は、変わり身早く、速攻頭を下げる。
「せめて一時間、いえ、買い物だけでも・・」
その姿勢のまま、土下座に移行しようと地面に両膝をつく。
「君の土下座に価値は無いの。時間は有限!行ってらっしゃい。」
取り付く島もないとは、こういうことだろう。
最後の足掻きで、「トイレだけ!」と言ってみた。
さすがに許可されたと、いうかもう興味ないみたい。
王宮の上役達と、新店の話で盛り上がっている。
飲みに行くんだね。
キーってハンカチでもかみたい気持ちになる。
ハンカチが傷むから絶対そんな事しないけど。
しょんぼり用を足してると、背後から声。
「・・辺境まで同行します。現地では彼らに雑務を。立場を理解させること。
頃合いを見て討伐。・・・全員、いなくなれば任務終了。」
振り返らずともわかる。
平民君だ。
と、いうか、振りかえられない。
ぴったり背中とられて、動けない。
いや、前も用足し中だから無理だけど。
「生き延びれたらいいですね。」
耳に吹き込むようにして、そこまで言うと気配は消えた。
用を終えて振り替えるも当然、誰もいない。
胸の奥が重たい。
トボトボと馬車に戻り、出発した。
本部長達は既にいなかった。
もう、飲みに行ったんだね。
俺も買い物したかったなぁ。
賑やかな王都の町並みが滲んで見えた。
悲しい。




