バレてた
受け取りかけて、なんとか踏み止まった。
落ち着け俺。
甘い話には裏がある。
「いくら?」
「え?」
ニコニコ笑顔がうさんくさい。
「昇給!幾らですか?」
「う~ん、隊長手当は、"お気持ち”・・・だけど、後は頑張り次第かな?成果給だから。」
「成果あげられなかったら、無給で死んじゃう?」
「あ~~~、その可能性もゼロじゃないかなぁ。でも、殉職手当は出るよ!それなりに!」
「それなりって何だよ!!」
思わず突っ込む。
あっぶね!やっぱり、裏があった!!やべぇ。
うっかり受け取るとこだった。
昇給に釣られる所だった。
心の中で呟き切って落ち着いてから、
「お断りします!死んだら金稼げない!」
改めて断った。
「チッ。」
「今、舌打ちした???!!」
「いいや、幻聴じゃないかな?」
しれっと言う上司。本当に食えない。
沈黙が落ちる。
本部長が合図を送り馬車が止まった。
窓の外を指さす。
「良い景色だと思わないか?」
「・・・・はい。」
だが、何もない。
本当に何もない荒野だ。
「ロウ・バニス君。ここからは私の独り言なんだけどね。」
口調が変わった。
一気に雰囲気も変わる。
「・・・・はい。」
「最近、農村を荒らす低位魔獣を討伐して謝礼をせしめる輩がいるらしくてね。・・・軍の副業禁止規定、知っているよねっ?!」
振り返りざまの笑顔。
目だけが全然笑ってない。目力すごい。怖い。
そういえば、この人、昔は前線で名を馳せたとか、そんな噂があった。
噂だと思っていたけど。
本当なのかもしれない。
「その人、君に激似って噂も知ってる?」
口調は戻ったけど、圧が半端ない。
「・・・・それは、知らないです・・。」
「君、大家族なんでしょ?ご兄弟かなぁ?」
「いやぁ、どうっすかねぇ・・。」
やべぇ。汗が噴き出てきた。
「上で問題になりかけているんだよね。・・・私が止めているけどね。・・・今は!!」
言い切られて沈黙。
間が怖い。
「・・・・で、新天地で頑張ってみないか?」
「拒否権・・無い感じですね。」
「ないよ。ヒラは貴族でも拒否権ないの。嫌なら昇進しちゃおっか?」
「命無くしそうですけど。」
「残念だけど。それはそうなったら仕方ないよね。何事もやり過ぎる人は切り捨てられちゃうよね。」
本部長は首を痛ましげに振る。
「でも、でも・・・・。」
往生際悪く何とか撤回しようとする俺に、
「バニス君!私が笑っている間に、受け取って欲しいな。ねっ?」
軽い感じで書類を振られる。
ただし声は凄いドスが効いている。
「いや、でも。」
ぐずぐず言っていると、本部長の顔から表情が抜け落ちた。
あ、ヤバい。
思ったのと同時に、本部長が合図を送る。
突然、扉が開いた。
「おまえ・・・。」
逆行を背負って現れた男は滑り込むように馬車内に入り隣に座る。
すべての行動が無駄なく無音。
ただ者じゃない。
なのに何度見返しても、
・・・あのチョロい平民君だ。
雰囲気が全然違う。
凍るような目で俺の全身を舐めるように見て、
「まだ、受け取ってないんですか?」
と、極寒の声で言った。
「中々、強情でさぁ。」
本部長がヤレヤレと首を振る。
「困りましたね。早くして下さい。扶養家族が沢山いるんでしょ?永遠の赤んぼうの姪っ子とか。」
厭味まで付け足される。
昨日までのチョロい・・いや、優しい平民君はどこにもいない。
絶句する俺に
「早く受け取らないと、調査書を提出します。内容はおわかりでしょう?」
畳みかけてくる。
「それとも一緒にお散歩に行きますか?・・・・・永遠のお散歩に。」
声が一段低くなる。
今までかいた汗が一気に冷える。
手が伸びてきそうな気配を感じて、辞令をひっ掴む。
「謹んでお受けします!」
深く頭を下げて辞令を胸に抱いた。
「最初から、そうしてよ~ねっ?」
俺の頭を上司の声が撫でていった。




