洗礼
「おきろぉ!」
バァン!
怒鳴り声と大きな音。
飛び起きたと同時に、ボキッという音がして、身体が沈んだ。
衝撃が身体を襲う。
「いてぇ・・。」
受け身を取ったが充分ではない。
打った所を庇いながら周りを伺う。
まだ、薄暗い。
視界の端に、足の折れた寝台が横倒しになっているのを認めた。
もわんと舞い上がるホコリに咳き込んだ。
「まだまだ寝てんのか?新人が!」
「ホコリで死んでんじゃねぇ?」
ドカドカと無遠慮な足音。
床が揺れ、複数人の下品な笑い声が近づいてくる。
・・・あぁ、俺は・・・辺境に来たんだった。
魔獣討伐の最前線に。
これは、新人いじりの洗礼だ。
バタンバタンと乱暴に窓が開け放たれ、冷たい朝の風が吹き込む。
「眠気覚ましに新鮮な空気をどうぞ。」
「お目覚めは如何?子爵様?」
「朝食をご一緒にいかがですか?」
言葉は丁寧。
態度は最低。
首根っこを掴まれて、引きずられ外に放り出された。
地面に叩きつけられ、冷たい土の感触が背中に伝わる。
蹴られるかもしれないと丸まって身を守る。
が、何も来ない。
恐る恐る顔を上げると、三人の男達が固まっていた。
視線の先には、俺の部下四人。
何故か全員揃っている。
早朝なのに、隙の無い・・・整った服装。
場違いな程の上位貴族様感が醸されている。
元、王子様のエリアスが口を開いた。
「どうしたのだ?」
その、口調。
完全に上の人間からの下問だよ。
三人は我に返ったように動き出した。
その内の一人が前に出て、
「これはこれはようこそいらっしゃいました。王子様?」
慇懃無礼な言葉と態度で頭を下げた。。
ニヤニヤついた笑みがイヤらしい。
だけども、一瞬、目が泳いだように見える。
バルドが、エリアスを庇うように前に出た。
「挨拶の仕方が違う。朝は・・・。」
なんと指導が始まった。
ルカも出る。
「まず、名を名告るべきです。」
相手も俺もドン引きする。
何で指導返し?
シオンは後ろで何かを呟き始めた。
指先が光っている。
「待て!」
俺は慌てて立ちあがり、間に割って入った。
「お、俺たちは新人なんだ。話をまず聞こう。」
部下を宥め、相手に向き直った。
「なにぶん、まだ慣れていないので、ご容赦下さい。」
揉み手しながら、へこへこ。
身についた小物ムーブがイヤになるが、どうしようもない。
部下に軽蔑されるんだろうなと思ったら案外、エリアスが、
「それもそうだな。」
と、納得した。
すると、他三人も引き下がった。
相手も、それ以上は深追いしてこない。
けれど、へたれなんてバカに出来ない。
高位貴族の本気指導、マジでビビった。
「こ!今回だけだぞ!ついてこい!」
と、言って歩き出した。
今日も早朝から活動する羽目に・・・。
俺は、全然眠れていないのだ。
寝不足で倒れそう。
けど、この後、本当に何度も倒れ込むとは思いもしなかったのだ。




