第21話 「ギルドの門、記憶域への第一歩」
塔の姿が砂岩の裂け目から現れたとき、4人は思わず足を止めた。だが、塔の周囲には予想外の光景が広がっていた。粗末ながらも整った建物が並び、屋台が軒を連ねる――まるで小さな村のようだった。
「…人が住んでるのか?」ユウが眉をひそめる。
「見張りもいるね。あれ、兵隊かな」リナが指差す先には、鎧をまとった男たちが巡回していた。
屋台のひとつでは、香ばしい匂いが漂っていた。串に刺されたボア肉がじゅうじゅうと焼かれている。
「うまそう…でも、金がないな」レイナが残念そうに呟く。
ライが屋台の店主に声をかける。「素材を換金できる場所、知らないか?」
店主は串を返しながら答えた。「この先にギルドがあるよ。そこで換金してくれるはずだ。…君たち、見たことない顔だね。初めてかい?」
「そうなんだ。塔に入りたくて来たんだけど…」ユウが素直に答える。
店主は少し驚いたように目を見開いた。「塔に入るには、まず“記憶域”って敷地に入らなきゃならない。その正門を通るには、守衛に身分証明を見せる必要があるんだ。持ってないなら、ギルドに入会すれば発行してもらえるよ。ただし、入団テストがあるけどね」
「塔の管理者って、教団の関係者なのか?」ライが尋ねる。
「さあね。数年前に管理体制が変わって、今は“記憶管理局”って組織が仕切ってるらしいよ」
「とにかく、ギルドに行ってみよう」ユウが言うと、店主は道を教えてくれた。
「この先を右に曲がって突き当たりにある建物だよ。この辺りじゃ一番大きいからすぐ分かるさ」
「ありがとう!換金できたら、真っ先に串買いに来るよ!」レイナが笑顔で言い、4人はその場を後にした。
ギルドの建物は確かに大きく、石造りの重厚な扉が印象的だった。中に入ると、広々としたホールには複数のパーティーが集まり、談笑や情報交換をしていた。
彼らが入ってくると、視線が一斉に向けられる。「…どこから来たんだ?」という空気が漂う。
正面には3つの受付があり、それぞれに女性スタッフが立っていた。4人が近づくと、ひとりが声をかけてきた。
「新規登録ですか?」
リナが頷く。「はい、4人とも登録したいです」
受付は手際よく用紙を渡し、名前・職業・主なスキルを記入するよう促した。
「レベルは、あちらの測定器でスキャンできます。書き終わった方からどうぞ」
4人はギルドの受付で用紙を記入し、順に測定器の前に立った。青白い光が身体を包み、数値が浮かび上がる。
まずはユウ。
ユウ:レベル 4 筋力:18 体力:20 俊敏:20 魔力:14 知力:15 運:12 スキル:水流跳躍(Aqua Leap)
続いてリナ。
リナ:レベル 4 筋力:16 体力:19 俊敏:23 魔力:22 知力:18 運:11 スキル:魔力矢(Mana Arrow)
受付の女性が端末を確認しながら言った。「お二人とも、初めての測定ですね。レベル4なら、初心者枠でのテストになります」
ライとレイナも測定を終える。
ライ:レベル 6 筋力:24(+5) 体力:22(+4) 俊敏:28(+5) 魔力:16(+3) 知力:17 運:14 スキル:影走り(Shadow Dash)、双刃連撃(Twin Fang Rush)
レイナ:レベル 5 筋力:15(+3) 体力:18(+3) 俊敏:21(+4) 魔力:26(+5) 知力:20 運:13 スキル:雷詠唱(Thunder Chant)、魔力障壁(Mana Barrier)
「ライさんとレイナさんも、まだ初心者の域ですね。では、4人とも初心者テストを受けていただきます」
テスト内容は、個別に行われる模擬戦。訓練用ゴーレムを相手に、それぞれの戦闘能力と判断力を確認する形式だった。
ユウは俊敏な跳躍でゴーレムの背後を取り、水流跳躍で一撃を加える。リナは魔力矢で正確に弱点を狙い、ゴーレムの動きを封じた。ライは冷静に急所を突き、レイナは雷詠唱で一瞬の隙を突いて撃破。
全員が無事にテストをクリアし、受付に戻ると、女性スタッフが笑顔で言った。
「合格です。おめでとうございます!」
4人にそれぞれ銅で出来たギルドカードが手渡される。名前と所属番号が刻まれ、カードの端には“Fランク”の文字が浮かんでいた。
「ギルドカードは、素材の換金、任務の受注、そして一部の通行証として使えます。ただし、“記憶域”に入るには、Dランク以上でなければなりません」
ユウが驚いたように尋ねる。「じゃあ、今のFランクじゃ入れないのか?」
「はい。記憶域は特別管理区域です。ギルドカードを持っていても、入場には明確な目的と、一定以上の信頼が必要です。Dランク以上で、かつ目的が認められた者だけが通されます」
レイナが呟く。「つまり…実力と理由、両方が必要ってことか」
ギルドカードを受け取ったあと、ユウは受付に声をかけた。
「素材の換金はどこでできる?」
受付の女性が指をさす。「奥の窓口でできますよ。査定員が常駐しています」
ユウは黙って頷き、4人で窓口へ向かう。袋に詰めた素材を差し出すと、査定員が手際よく確認を始めた。「ボアの牙、魔力結晶、影草の根…全部で銀貨20枚になります」
ここでは一般的な通貨として流通していた。ざっくり言えば、銀貨1枚は1万円ほどの価値。それより下には、鉄貨(10円相当)、小銅貨(100円)、大銅貨(1000円)があり、上には大銀貨(10万円)、金貨(100万円)が存在する。
ユウが受付に尋ねる。「泊まれる場所、ある?」
「ギルドの斜め向かいに“旅人の灯”という宿があります。初心者向けで、銀貨1枚で一泊できますよ。食事付きで、清潔な部屋です」
リナが銀貨を見つめてつぶやいた。「これだけだと、4人で5日分だね」
ユウは仲間に銀貨を分けながら言った。「今夜はそこで休もう。明日から任務を探す」
その夜、旅人の灯”の部屋で、4人はそれぞれのベッドに腰を下ろした。窓の外には、塔の影が月光に照らされていた。
ユウは静かに窓辺に立ち、塔を見上げる。
(あそこに入るには、Dランク以上…)
彼の胸の奥には、誰にも言っていない思いがあった。目的はまだ語られない。だが、塔の奥にある“記憶域”に、何かを見つける予感がしていた。
その夜、誰もが静かに眠りについた。だが、ユウの瞳だけは、月の光を映していた。
第22話 「はじまりの依頼、四人の誓い」




