第20話「砂と崖の狭間で(後編)」
刃の風、砂嵐を裂いて
砂嵐が唸りを上げる峡谷。視界は悪く、岩肌に魔力が焼き付くたび、閃光が一瞬だけ戦場を照らす。
ユウは盾を構えて踏ん張るが、グラヴァルの腕が振るう魔力の衝撃波に、地面ごと押し返される。「ぐっ…!」足元が崩れ、膝をつく。リナの治癒魔法が光るが、回復が追いつかない。レイナの詠唱も、魔力の乱れで中断される。
「このままじゃ…持たない…!」レイナが叫ぶ。グラヴァルの体表には、魔力の脈動が走り、次の一撃が放たれようとしていた。
その瞬間、風が変わった。
砂を裂くように、ひとつの影が崖の上から滑り降りる。黒い外套が舞い、足音すら立てずに地面へ着地する。
「遅れて悪かったな。状況は…最悪ってとこか」
ライだった。彼は一言も発せず、双短剣を逆手に構え、疾風のように敵の背後へと走る。グラヴァルが振り返るより早く、ライの刃が脚部の関節を斬り裂いた。
「ッ…!」異形の巨体がよろめく。ライはその隙を逃さず、跳躍。空中で身体をひねり、背面の排熱口に刃を突き立てる。
「排熱の流れが偏ってる。ここが弱点だ」
刃が魔力の流れを断ち切り、グラヴァルの体内で魔力が暴走する。爆発的な逆流が起こり、敵の動きが一瞬止まった。
「今だ!」ユウが叫び、盾を捨てて突撃。リナが魔力を集中し、レイナが詠唱を再開する。
「雷よ、裂け!」
雷撃がグラヴァルの胸部を貫き、異形の巨体が崩れ落ちる。砂嵐の中、静寂が訪れる。
ライは短剣を拭いながら、冷静に言った。
「敵の補給路は封鎖されてた。だが、裏手に抜け道がある。次の目標はそこだ」
リナが微笑む。「やっぱり、ライが来ると空気が変わるね」
ユウは肩をすくめて笑う。「まったく、いいとこ持ってくなよ」
ライは無言で歩き出す。だがその背中には、仲間たちの信頼が確かに宿っていた。
彼らは崖の裏手にある細い道を進み、教団の監視網を避けながら、静かに移動を続けた。ライが先導し、足音すら立てずに進むその姿に、ユウは思わず「忍者かよ…」と呟いた。
やがて、砂岩の裂け目の向こうに、黒くそびえる塔が姿を現す。記憶の塔――教団が封印した過去の記録と、失われた魔術が眠る場所。
「ここが…記憶の塔か」レイナが息を呑む。
「中は罠だらけだろうな。俺が先に入る」ライが短剣を構え、扉の前に立つ。
その背に、仲間たちが続く。4人の影が、塔の闇へと吸い込まれていく。
そして、物語は次なる局面へ――過去と真実が交錯する、記憶の塔の深部へと進んでいく。
次回、21話
記憶の塔に突入した4人が、教団の仕掛けた罠や幻影に翻弄されながら、それぞれの「記憶」と向き合う




