11話 戻らない日常
放課後・・・
「えぇええええええええええええ!」
唯の大声が教室内に響いた。
「唯、うるさいぞ!」
彼氏である大河がジト~っとした目で唯を見ていた。
「だって!だってよ!あの理沙ちゃん(いつの間にか仲良くなっている)のお隣がほむらちゃんと勇気君だってよ!しかもよ!勇気君のお父さんと理沙ちゃんのお父さんの仲が良くて、1人理沙ちゃんを残すと大変だからってよ!マンション1室を借りて理沙ちゃんを1人暮らしさせるのよ。その上、隣のほむらちゃんのお母さんにお世話を頼むからって、理沙ちゃんの生活費を渡すって!理沙ちゃんてどんなお金持ちのお嬢様だってのよ!まぁ、ここに来る前の高校ってあの有名なお嬢様学校にいたっていうし、何でここに来たの?って逆に思うわ。」
「まぁまぁ落ち着け。それと説明サンキューな。」
「どういたしまして。」
唯が大河にグッと親指を立てる。
「だけどなぁ、お前があんまり大声で叫ぶからさ、あの子、ビビってほむらちゃんの後ろに隠れてしまったぞ。」
2人がグルンと首を横に向けると・・・
机に突っ伏して気怠そうにしている勇気と、その横に立っているほむら、そしてほむらの後ろに隠れて少しだけ顔を出して唯を見ている理沙がいた。
「はははぁぁぁ・・・、ゴメンね。」
しかし、すぐに大河の耳元に移動しボソボソと囁く。
「理沙ちゃんってずっとほむらちゃんにくっ付いているじゃない?これからの1人暮らしで心細いのも分かるわ。でもね・・・、私、気付いたのよ。」
「何を?」
「理沙ちゃんもずっと勇気君を目で追っているのよ。ほむらちゃんは堂々と勇気君にベタベタにくっ付いているから、勇気君が好きなのは明らかだけど、もしかして、理沙ちゃんも勇気君の事が?」
「いやいや、それは無いんじゃないか?」
「え~~~~~、そうなの?」
唯が口を尖らせる。
「まぁ、俺から見た感じだけど、あの子は肉食獣の前に差し出された小動物って感じかな?上手く言えないけど、確実に勇気の事を怖がっているみたいだと思うよ。だから、ずっとほむらちゃんの傍にいるんじゃないかな。親同士が仲良くても子供同士が仲良しと限らないって事だよ。」
「そうなのかな?」
「多分な。」
「ちぇ!面白くないな。」
「お前、何を期待していたんだ?」
ジト目で大河が唯を見る。
「だってよ!面白いじゃないの!ほぼ同じ屋根の下で過ごす者同士、勇気君を取り合っての爛れた三角関係、いえ!ハーレムかもね?ぐふふふ・・・、異世界や恋愛小説の世界が目の前に起きるかと思って期待していたのにぃぃぃ!」
少し危ない目付きの唯だった。
「そんな訳ないだろう。お前な、現実を見ろ。この日本じゃそんな事は無理なんだからな。ラノベやアニメの世界と一緒にするな。」
そんな風に言っている大河だったが、その言葉が将来まさか自分に返ってくるとは、その時は想像もしていなかった。
「はぁ~~~~~」
「俺はいつまでアレを見せつけられなくてはならんのだ?」
大河と唯の熱々のやり取りを見てドッと疲れが出た勇気であった。
「勇気、ごめん!待った?」
「遅くなってごめんなさい・・・」
1人教室に残っていた勇気のところへほむらと理沙が戻って来る。
「先生と打ち合わせしていたら遅くなっちゃった。」
「大丈夫さ。さすがにまだ慣れていない道を2人だけで帰らせる訳にはいかないからな。」
ほむらが勇気の腕を取り立たせた。
「じゃあ一緒に帰ろうね。いくら記憶にあってもまだ実際に歩いた事がないから、少し不安だったんだ。」
ほむらが嬉しそうな表情で勇気と腕を組む。
「おいおい・・・、いくら何でも近すぎないか?」
ほむらのたわわな胸が勇気の腕に当たっているし、女性に免疫の無い勇気にとっては刺激が強過ぎた。
咄嗟に腕を放そうとしたが、ガチっと組みほむらが放そうとしない。
「何言っているの?私達は兄妹なんだからね。それとも私と腕を組む事が嫌なの?」
ほむらからの凄まじい圧力のある視線にただ頷くしか出来ない勇気であった。
そんな2人の後ろを理沙も一緒に歩いている。
学校の玄関を出て校門へと3人で並んで歩いていたが、勇気は周りからの大量の視線に気付いた。
しかし!その視線をあえて無視をする。
さすがに嫉妬だらけの視線だと分かったし、下手に刺激する訳にいかないとの事で無視を決め込む事にした。
「そういえば・・・」
ジッとほむらを見つめると、そのほむらは少し赤い顔になる。
「な、何?急に見つめて?。」
「俺達ってまともに歩いて一緒に登下校したのって初めてじゃない?」
「そういえばそうね。」
少し赤い顔のほむらが元の顔色に戻ったが、なぜか機嫌がちょっとだけ悪い。
勇気の行動に何か期待していたのかも?
確かに登校時は最初は一緒に走ったり少しの間だけ歩いたりしていたが、理沙をトラックの事故から救い出してからは転移で移動をすっ飛ばして校舎へ入った。
「だったら、今はゆっくりと帰らない?こうして3人が一緒にいるんだからね。」
「ま、まぁ・・・」
なぜか勇気の様子がおかしい。
それもそのはず!
ほむらが勇気の左腕に腕を回して組んでいる。傍から見れば恋人にしか見えない。
しかも!
反対側の右腕側には理沙がすぐ隣に一緒に歩いている。
ほむらにしても理沙にしてもアイドル顔負けの美少女だ。そんなハーレム状態の勇気が目立たな訳がない。
いくら視線を無視していようが、勇気にとってはこんな状況は初めてだったりする。
内心、冷や汗ダラダラの状態だった。
そんな緊張感の中にいたが、別の緊迫感が勇気を襲う。
バシッ!
勇気がいきなりサッカーボールを片手で掴んだ。
どうしてなのか勇気の顔面へ飛んで来たようだ。
「すまん、すまん、どうやら足が滑った!」
にこやかに白い歯を見せスマイル全開のサッカー部員が勇気へと近づいた。
しかし!そのサッカー部員の目だけが嫉妬にメラメラと燃えている。
バシッ!
今度は野球のボールがまたもや勇気の顔面へと飛んで来たが、そのボールを難なく掴む。
「すまん!手が滑った!」
今度は野球部員が走って近づいて来る。
勇気の手に握られていたボールを受け取った直後に!
ガシッ!
今度はバットが勇気の顔面へ・・・(以下同文)
「ちっ!殺し損ねたか・・・」
なぜか足下に大量にバットを置いている野球部員が勇気の目の前で素振りをしていた。
「あ!手が!」
今度は木刀が勇気を襲ったが、右手の人差し指の先で受け止めた。
何でか防具フル装備の剣道部員が勇気へ木刀を振り下ろしている。
「お前なぁ、室内にいるはずなのに何で外にいるんだよ!」
「ランニングだ!何が悪い!・・・(ちっ!殺し損ねた・・・)」
勇気の耳には去り際の呟きも聞こえていたのだが・・・
(何が何だか意味が分からん・・・)
校門に辿り着くまでには・・・
「あ!手が!」
そう言ってアーチェリーの矢や陸上の砲丸、やり投げの槍に鉢植えの鉢などいろんな物が勇気へと襲いかかった。
(どいつもこいつも俺を殺す気満々だぞ!)
そんな状態でも勇気は涼しい顔で全ての飛来物を片手で払いのけ正門の近くへと辿り着く。
あの世界で死との隣り合わせの状況に慣れてしまっていたから、たかだか生徒の殺気など涼風にしか感じていなかった。
ピタッと3人が足を止める。
「さすがにここまで分かりやすいなんてな。静かな学園生活を送りたかったんだけどな・・・」
ズラッと十数人の生徒達が各々の手にバットや木刀を持って立ち塞がっている。
さっきの様子からしても、勇気に何かをする気は満々だと分かる。
「どうするの?いくら正当防衛だとしても、これだけの人数に何かしたら最低でも停学は免れないわよ。」
勇気の腕を組んでいたほむらがスッと前に出て身構える。
「狙いは勇気だろうし、私が前にいれば手出しは出来ないはずよ。」
「心配するな。」
今度は勇気がほむらの前に出てきた。
ピン!
足元にあった小石をサッと拾い、親指で空中へと弾き飛ばした。
男達がその小石を見て上を向いた。
『ギャッ!』
何か人間とは違う悲鳴がどこからか小さく聞こえる。
「この声は?」
ほむらがジロッと男達の後ろへと視線を移し、理沙も少し震えながらだがほむらと同じ場所を見た。
「まさか?こんなところであの世界の・・・」
「そうだな。早速、俺に手を出してきたみたいだよ。」
男達の後ろにあった木の影から1匹の生物がヨロヨロ現れ倒れる。
見た目は子犬くらいの大きさで、小さなこうもりのような翼が生えている青白い肌の鬼のような姿だった。
木の幹に小さな穴が開き、その後ろから倒れ始める。
眉間には木の幹と同じくらいの大きさの小さな穴が開いて、そこから青い血が大量に流れていた。
勇気が目立つように小石を上に弾き、全員の意識が空中に向いた瞬間、もう1つのさらに小さな小石を生徒達の方へと弾く。
弾丸以上の速さの小石が誰にも気付かれずに木を貫通し、後ろに隠れていたものを撃ち抜いた。
倒れていた小鬼はすぐに体が崩れ砂となって消滅する。
「アレはインプだな。多分、さっきまで男子生徒達を操っていたんだろうな。インプだから生徒達の嫉妬心を煽ったと思うけど、俺とほむらが一緒に歩いているだけで、殺意を抱くまで嫉妬するものか?」
男達は我に返ったのか、少し呆然とした表情で立っていた。
勇気がグルっと周りを見渡し掌を空へと向けた。
空を見てニヤリと笑う。
「理事長さん、後は上手く頼むな。」
直後・・・
ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオッン!
雲一つない夕焼けの空に巨大な雷が校庭に落ちた。
幸い、誰もいない場所に落ちたのでグランドに少し穴が開いただけで誰もそれ以上は気にしなかった。
少し前・・・
「えぇええええええい!使えないわね!」
学園のはるか上空に1人の人影が見える。
極めて露出の高いボンテージ服にこうもりの翼を生やした女性だった。
とてもメリハリのある体つきで、一目で男の目をくぎ付けにするだろう。
ただ、背中の翼だけでなく、頭の左右にも捻じれた黒い角が生えていたので、この女性は間違い無く人間ではないと分かるだろう。
その女性がギリギリと爪を噛みながら眼下にある学園を睨んでいた。
「アンジェラ様の命令とはいえ、上位神族のサキュバスである私がたかが人間1人を拉致してこいって!ゴミのような存在に私の手間をかけさせるなんて生意気よ!でもどうして?使い魔がいきなり死んでしまったのかしらねぇ・・・」
不思議そうに視線を学園へとまだ向けていた。
「あの世界にいた魔王がもしかしているかもしれないって言われたけど、あの人間の隣にいる女が魔王かもね。確かに他の人間と違って魔力を感じるし、絶対にあれは人間じゃないわ。そいつが使い魔を殺した?でもね、たかが下界の魔王、私の前ではゴミに変わらないわ。ふふふ・・・、今は感知されないように離れて千里眼で見ているけど、私が直接出向いてさっさと終わらせて戻るとしますかね。そして・・・、うふふ・・・、私がアンジェラ様からご褒美をいただくのよ。極上の男をね・・・」
口角を上げてペロッと舌なめずりをする。
「だけど、あの標的の男も少しは私の好みかも?死なない程度に生気をいただこうかしら?生きてさえいれば問題ないでしょうね。でないと、こんな僻地の世界まで来たのだし、少しは役得がないとやる気が出ないわ。」
ゾクッ!
「な!何!急に寒気が・・・」
ブルっとサキュバスが震える。
「どういう事よ!」
ジッと地上を見ていると急にガクガクと震えだす。
「そ・・・、そんなの・・・、嘘よ・・・、私の存在に気付く?これだけ離れている上に隠ぺいの魔法もかけているのよ。例えアンジェラ様でも今の私に気付く訳がないのに・・・」
サキュバスの目には勇気がジッと自分を見つめている姿が映った。
「何で人間が!下等生物である人間が!それにこれだけ離れているのにあいつの殺気が私へ届くの?あんな化け物だって聞いていないわよ!に、逃げなきゃ・・・」
その瞬間、サキュバスの全身が巨大な稲妻に呑み込まれた。
「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああ!」
一瞬で燃え尽き、塵一つ残さずに消滅してしまう。
「蠅が何をするか黙って見ていたけど、僕が気付かないって思っていたのかな?たかがザコ神族が生意気だよね。」
イザナギが不機嫌そうに窓から外を眺めた。
「結界のおかげでグランドの被害は最小限に抑えたけど、もう少し手加減をして欲しいね。勇気君、君も食えないよ、僕を試すなんてね。ふふふ・・・、益々君が欲しくなったよ。君はもう・・・」
ニヤリと笑って校門の方へ視線を移した。
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やる気倍増になります。




