10話 もう1人の転校生(その③)
腕を組み仁王立ち姿のほむらの前で勇気とイザナギが正座をしていた。
「で!申し開きはあるの?」
「ありません・・・」
「僕、悪い事したのかな?ちょっと嬉しくて抱き着いただけなのにねぇ・・・」
ピクピクとほむらのこめかみが動いた。
「これ以上は何を言っても無駄なんだろうね。疲れるわ・・・」
この日一番の大きなため息がほむらから発せられた。
「あんたが何を目的にして理沙を私達に託したのか気になるけど、あんな状態のあの子を放ってはおけないわ。」
「さすがほむら君だね。勇気君もそうだけど僕が見込んだだけあるよ。うん!これで一件落着だね。」
「「誤魔化すな!」」
またもや勇気とほむらが同時に突っ込む。
「ふぇぇぇ~~~ん、勇気君とほむら君が虐めるよぉぉぉ~~~」
「それじゃ、2度とこの五月蠅い口を開けられなくさせるか?俺は女だろうが容赦はせん!」
勇気が全身から青白いオーラを立ち上らせボキボキと拳を鳴らす。
「待った!待った!君だと本当にシャレにならないよ!」
さすがのイザナギも勇気の迫力に冷や汗をダラダラと流しながら慌てていた。
・・・
「本当にあのクソ女神の生まれ変わりだったとはなぁ・・・」
勇気がマジマジと鞍月理沙を見ている。
(今後は『理沙』と呼ぶ事にします。by作者)
当の理沙はまだ少し怯えた感じでほむらの腕に抱き着いていた。
「ほむらにはすぐに懐いて、俺はまだ警戒しているってか?」
ほむらがクスッと笑う。
「それは仕方ないよ。理沙、元クラリスが神の座から引きずり降ろされたのは勇気が原因だったからね。女神クラリスは上級神だけあって、普通じゃ倒せないのよ。私の魔王の力をもってしてもね。それを完勝同然で勝ってしまったからねぇ。勇気が苦手になる気持ちも分からなくはないわ。」
その言葉に理沙もうんうんと激しく頷いている。
「だけどなぁ・・・、正直言うとだな、俺の方が被害者だぞ。こいつの我儘で召喚されて、いらないからって殺されそうになるわ・・・」
「そ、それは・・・、本当にごめんなさい・・・」
理沙はほむらの腕にギュッとしがみ付き、少し震えながら上目遣いで勇気を見ている。
「何か調子が狂うな・・・」
そんな理沙の態度に勇気がガリガリと照れくさそうに頭を掻いた。
「あの時の女神の姿と態度だったらまた容赦しないで叩き潰していたかもしれないけど、今のお前は変わり過ぎ!ここまで正反対なのもビックリだよ。まさかほむらレベルの可愛い女の子になっているし、あのデカイ態度もないんだぞ。そんなの誰が想像出来る?」
「私が可愛い?」
ビクっと理沙の震えが止まり少しだけジッと勇気を見たが、すぐに目を逸らしてしまった。
理沙の顔が少し赤くなっていたのをむらは見逃さなかった。
ピクピクっと少しだけほむらの右眉が上がった。
そんな2人の行動に全く気が付いていない勇気だった。
「で!この子を俺達に預ける本当の目的は何なのだ?そろそろはぐらかされるのは無しにしてくれ。」
ジロッと勇気が向かい側のソファーに座っているイザナギを睨む。
「正直に話すとね、実はあの世界は僕の手に負えなくなってしまったんだよね。まぁ、僕の手から離れてしまったというのが正確かもね。そもそもの原因は勇気君、君なんだよ。」
「えっ!俺?」
「そう・・・、厳密には君のその神殺しすら可能な異常な力を与えた存在の事さ。」
「まさか?勇気が言っていた『竜王』の事?」
ほむらが神妙な表情でイザナギを見る。
「ご名答!当たりだよ!ご褒美に何が欲しい?僕の熱い口づけでもどうかな?女同士のキスってのも意外とエロいよ。」
ゴン!
「いい加減にしろ!」
一瞬で勇気がイザナギの前に立ち拳骨を頭に落とした。
「い!痛いよぉぉぉ~~~!」
痛そうに頭を押さえているイザナギだったが、すぐに真面目な顔で勇気を見つめた。
「そう、この力・・・、人間では決して手に入れられない力をね。ほむら君は竜王はどんな存在なのか知っているよね?」
「えぇ・・・」
ゆっくりとほむらが頷いた。
「竜王・・・、別の名を始まりの神・・・、唯一存在している始祖神の生き残りと聞いているわ。今では失われてしまった神々の力を伝える最後の存在だとね。」
「これも当たりだね。さすが『セツナ』さんの・・・」
ピリッ!
ほむらからの異常な殺気がイザナギへ向けて湧き上がる。
「これ以上は・・・」
あまりの殺気でほむらの髪が逆上がり上へとなびいている。
「ほむら!」
勇気がほむらの異変に気付き慌てて手を取った。
「勇気・・・」
スッとほむらからの殺気が消える。
「ごめんなさい・・・」
「失言だったね。これは明らかに僕のミスだよ。君の本当の逆鱗の事を失念していた。もう言わないからね。」
あのイザナギがほむらへ深々と頭を下げる。
そんな様子を勇気がジッと見つめていた。
そしてほむらと目が合う。
「ほむら・・・」
「勇気、ごめん・・・、これ以上は聞かないで・・・」
「分かったよ。」
勇気がゆっくりと頷いた。
「さて!場が少し白けちゃったからね、本題に戻ろうしようか?」
少し重くなってしまった雰囲気をイザナギが軽い口調で話し始めた。
「その竜王があの世界『エトランゼ』にいる事が分かってしまったんだよね。勇気君の桁外れの能力でクラリス君がボロ負けした事によってね。」
「それの何があんたに関係があった?」
「僕達の神域にいる神は、特にね僕達のような最高神は実は一枚岩じゃないんだよね。お互いに管理する世界を増やす事に腐心しているんだよ。僕はそんな気は無いんだけどな。そんな中で彼女、クラリス君の管理世界で竜王の痕跡が色んな神々に伝わってしまってね。そりゃもう、あの世界が凄まじい取り合いになったんだよ。クラリス君が負けたもんだから、管理する神がいなくなってしまってね。僕は君の上司だし、一度神の手から離れた世界の管理は同じ派閥の神々が連続では出来ない制約があるんだ。」
「す、すみません・・・、私のせいでイザナギ様に迷惑が・・・」
ペコペコと頭を下げる理沙にイザナギが手を前に出し制止させる。
「別に君の責任でもないからね。僕があの世界にいる竜王を見つけられなかっただけ、そして偶然とはいえ、その竜王から力をもらった勇気君に君が破れただけだよ。そして、管理者が他の神の派閥に移行してしまった・・・、竜王の力を求めてね。」
「師匠ってそんなすごい存在だったのか?」
「そうだよ、君が神域の均衡を破ってしまったんだ。そしてね、その竜王ってのは常に次元の隙間にいるものだから、今回みたいに世界が分かっていても見つけられないんだよ。僕でも見つけられない、そこまでの存在なんだよ。」
急にイザナギの表情が真剣になる。
さっきまでの常に薄ら笑いを浮かべていた表情ではなくなった。
「君は竜王と唯一の接点を持った男だ。今のあの世界の管理者に目を付けられているのには間違いないよ。しかも、あのブラックホールから君を手に入れようとしていた神は僕だけじゃなかったからね。まぁ、僕の方が力があってあの子よりも早く助けられたからホッとしているよ。」
「あの子?俺を狙っている奴か?」
勇気が怪訝な表情でイザナギに詰め寄った。
「あら!まさかの勇気君の方から僕に近寄ってくれるなんて、お姉さんとっても嬉しいよ。ご褒美にえい!」
ギュッと勇気の腕に抱き着く。
ほむらが慌てて立ち上がろうとしたが、理沙がほむらの腕にしがみついていたのですぐに立ち上がることが出来ない。
その隙にイザナキが嬉しそうに勇気の腕を豊満な胸の間に挟んだ。
「どう?僕の方が魅力的だと思うけどね。」
すぐにイザナギが勇気から離れる。
「冗談はそのくらいにして、話を元に戻そうか。」
メラメラと殺気を放っているほむらを無視し、イザナギがソファーへ座った。
勇気もソファーに座るが、ほむらが隣に座り勇気の腕にしがみついた。
残された理沙も慌ててほむらの横に移動し、ピッタリとほむらに寄り添っている。
「これも運命なのかね?」
イザナギが3人を見て小さく呟いた。
この言葉は誰にも聞かれていない感じだった。
「そう、あの子の事だけど、僕の後輩にあたる女神なんだよ。最年少で僕達と同じ最強神の仲間入りをした天才って言われているんだけどね。」
「アンジェラ?」
理沙が呟くと勇気が彼女へ視線を移す。
「知っているのか?」
「はい。」
理沙が小さく頷いた。
「私達上位女神の中では一番の実力者でした。そう・・・、彼女があの世界の管理者に・・・」
「今はまだ仮の管理者だけどね、管理者の仕事はそう上手くいかないんだよ。」
今度はイザナギがニヤリと笑った。
「確かに彼女は実力はあるだろうけど、神として世界を管理する経験が少な過ぎたみたいだね。勇気君のおかげであの世界に竜王がいると突き止めたまでは良かったけど、そこから先が全然ダメでねぇ~~~、最後は勇気君を拷問して竜王の居場所を吐かせるって言っていたよ。クラリス君でさえ子供扱いだったのに、彼女が勇気君相手にどうにも出来ないと思うけどね。そこを先回りして僕が君をこの世界に呼び戻したって訳だよ。神は自分の管理していない世界には手出し出来ないから、この世界いれば基本的には彼女も手を出せないと思うよ。まぁ、あの世界から君とほむら君を戻した事に関しては、元々が勇気君はこの世界の人間だったから連れ戻しただけだしね。うふふ・・・」
「それじゃ、俺はずっと狙われるって事か?」
「そうかもね。えへ!」
とても嬉しそうにイザナギが微笑んだ。
「何てこったぁぁぁ・・・、俺には神はいないのか?」
勇気が頭に手を当てながら天井を仰いだ。
「いるじゃない、ここにね。だから僕と結婚しようよ。そうすればずっと僕が君を守るからね。どうかな?」
イザナギが自分で自分を指差して勇気に微笑んでいる。
「お前が一番信用ならんわ!魂を賭けて悪魔と契約するようなものだぞ!」
「ひど~~~~~~~い!僕ってそんな風に思われているの?」
「そうだよ!」
「勇気に同意!」
「私もほむらさんに同意・・・」
「まさかのクラリス君まで裏切る?僕をそんな風に思っているなんて・・・」
割と真面目に落ち込むイザナギであった。
「話は分かった。」
勇気が立ち上がる。
「悪いけど俺は絶対にあんた達に協力はしない!師匠を売る真似はしないって宣言するからな!」
パチパチ・・・
イザナギが拍手する。
「ふふふ・・・、予想通りの答えでお姉ちゃん嬉しいな。でもね、僕がいるこの世界にいても安心出来ないよ。君も経験したけど、女神は『勇者召喚』という召喚術が使えるからね。まぁ、すぐには手を出してくるとは思わないけど、くれぐれも気を付けるようにね。僕も可能な限りサポートするよ。」
「忠告は有難く受け取っておくよ、女神様。」
勇気がパチンとイザナギへウインクをする。
「君、中々やるね。その態度、僕も本気になってしまいそうだよ。」
そう言ってほむらへ視線を移す。
そのほむらはジロッとイザナギを睨んだ。
「それじゃ、俺達の用はこれで終わりかな?それなら教室に戻らさせてもらうわ。」
勇気に続きほむらも理沙も立ち上がり部屋から退出する。
1人イザナギが部屋に残っていた。
「勇気君、クラリス君との戦いはまだ序章だったんだよ。これからの戦いが本番だからね。それと、ワザと話を逸らしたけど、クラリス君を君達に預けた意味もね。彼女を頼んだよ。」
そして天井を見上げた。
「セツナさん、あなたの娘さんはちゃんと成長していたわ。あなたに似てとても美人で聡明ね。まるであなたが生き返ったと思ったわ。だから・・・、勇気君は心配しなくても誰にも負けないと思うわね。ほむら君はあなたから受け継いだ力を完全に発揮するまでは、私が命を懸けて守るわ。あの世界の真の管理者を決めるクソゲームの勝者になる手助けも一緒にね・・・」
勇気とほむらが理沙と一緒に教室へと戻ったものだから、何も事情を知らない生徒達が理沙の姿を見た瞬間、男子生徒どもが歓喜の雄叫びを上げ、テンションがMAXになってしまっていた。
そんな様子をクラスの女性陣達が、ゴミを見るような冷ややかな視線を送っていた。
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やる気倍増になります。




