第9・9節 毛利輝元の弟子入り話
その夜、毛利輝元が利休屋敷に来た。
私:「ちょうど出かけていた所で、本当に申し訳ありませんでした。」
毛利:「いやいや、利休殿。気にしないでくだされ。」
私:「ささ、どうぞお入りください。」
毛利:「では、失礼いたしますぞ。」
懐石料理を食べている毛利輝元に、私は酒を注ぎながら話しかけた。
私:「関白様の調子はどうですか?」
毛利:「頭痛がすると言って、寝ておられる。あれは酒の飲み過ぎですな。」
私:「やはりそうでしたか。お大事にと伝えていただけますか?」
毛利:「いや、それでは、私がここに来たことが分かってしまうので困る。今の話は聞かなかった事にしてもらおう。」
私:「はい。聞いていませんでした。」
毛利:「素直ですな。それより利休殿、お体は大丈夫かな。薬師の竹田殿が心配しておったぞ。体のあちこちに、何か無理をしている跡があると。茶の湯のし過ぎではござらぬか?」
私:「お心遣いありがとうございます。ですが、茶の湯は、私の運命そのものです。今、やめるわけにはいきません。何卒、ご理解頂きたく存じます。」
毛利:「さようか。まあ、天下の三宗匠とまで言われた利休殿。止めても無駄なのだろうがな。」
中立が終わり、銅鑼ではなく喚鐘を鳴らした。
その後、炭手前が終わり、濃茶点前に入った。
毛利:「おお、今日も薬師堂天目茶碗を使われているのですな。」
私:「はい。」
毛利:「利休殿、もしよろしければ、私に茶の湯を教えてはもらえぬか?」
私:「津田宗及殿や今井宗久殿ではなく、私にですか。」
毛利:「今井宗久殿は堺の人。聚楽第まで来るのは難しかろう。津田宗及殿は、正直、話が合わない。利休殿、どうであろう。」
私:「9月25日から、関白様と一緒に有馬温泉に行くのはご存知ですか?」
毛利:「知っている。つまり、帰京してから回答するという事で良いのかな。」
私:「お待ちいただけるのであれば。」
毛利:「もちろん構わぬ。良い返事を期待しておるぞ。」
良かったのだろうか、こんな約束をして。
後で、古田や細川に怒られそうだ。
茶会が終わり、玄関先で話がはずんだ。
私:「小田原征伐の折、宗恩が薬包みにでも使っていただけますか、と言って帛紗を大きく縫い合わせたものが今の帛紗です。」
毛利:「なるほど、それが縦・畳十七目、横・十九目の帛紗ですな。」
私:「私は、この大きさが一番手ごろですね。これからのち、帛紗はこの大きさにしましょう、と言い、関白様の前で使って見せました。」
毛利:「かなり挑戦的ですな。」
私:「関白様もそうおっしゃいました。挑戦的じゃなと。」
毛利:「関白様が言いそうですな。はっはっはっ。おっと、だいぶ長居してしまったな。そろそろ帰るとしよう。」
私:「長く引きとどめてしまったみたいで、申し訳ありません。」
毛利:「いや、なに、かまわぬ。では失礼するかな。利休殿。弟子入りの件、良い返事を期待しておりますぞ。」
私:「はい。では、お気をつけて。」
その夜、寝床についた私は、毛利が弟子入りした場合の事を、いろいろ考えていた。
私:「毛利殿が私より下手な点前にはならないと思うけど、大丈夫かな?ダメだろうな、きっと。でも、自分より下手な人がいるのは嬉しいよな。」
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