第9・5節 大徳寺の和尚達 ~古渓宗陳と大徳寺住持について~
翌9月14日、朝早くに宗恩に起こされた。
私:「おはようございます。まだ眠いのですが、どうしました。」
宗恩:「寝ぼけている場合ではありません。参禅の師・古渓宗陳和尚様が御供の方を伴い、わざわざ会いに来てくださいました。」
私:「古渓宗陳?」
宗恩:「忘れましたか?利休様の名づけの親ですよ。」
私:「なんと!それは大変。すぐに茶席の用意をしなくては。」
私は、和尚になんという敬称で呼ぶか考えながら、三人の待つ、書院へ急いだ。
私:「御師匠様、ご無沙汰いたしております。」
古渓:「何ですかそれは。普通に古渓で良いでしょうに。それはともかく、利休よ、今日来たのはほかでもない、小田原征伐中に倒れたと聞いたのでな。見舞いにきたのだ。」
私:「ありがとうございます。」
古渓:「それと玉甫紹琮和尚は知っているな。」
私は素直に分からないと答えた。
私:「すみません。覚えていません。」
古渓:「まったく、困った弟子だ。玉甫和尚は、細川幽斎殿の弟君だ。そなたの弟子、細川三斎殿の叔父にあたる。すると、春屋和尚も忘れているな。」
私:「はい。おっしゃる通りです。」
春屋:「古渓殿、そう利休殿を責められなくても良いではありませんか。私は春屋宗園と申すものです。」
古渓:「春屋和尚は大徳寺111世の住持だ。笑嶺宗訢師匠が御遷化され、春屋和尚と私、それに仙嶽宗洞和尚に大徳寺を託された。私は117世の住持。仙嶽和尚は122世の住持だ。
まったく、忘れっぽくなりおって。」
私:「すみません。」
古渓:「まあ、利休の事ばかり責めるわけにもいかないな。私ももうすぐ還暦。いつまでも生きているわけではないからな。私が死んだら玉甫和尚に嗣いでもらうとしよう。」
玉甫:「何をおっしゃっているのですか古渓和尚。」
古渓:「はっはっはっ。さて利休よ。茶をもらおうか。」
私:「はい、すぐご用意いたします。」
古渓:「利休よ、私に敬語はいらぬと言ったはず。そもそも私より十歳年上ではないか。」
私:「そうでしたっけ。」
和尚たちは顔を見合わせた。
古渓:「人が変わったな利休。以前より丸くなった。良い事かもしれないな。」
私:「では、茶席へどうぞ。」
春屋:「私は次客が良いので、正客は古渓和尚にお任せして良いかな。」
古渓:「わかりました。では玉甫和尚は詰に座るように。」
玉甫:「はい。」
私は、四畳半の茶室に三人を通し、麩の焼を作って縁高で出した。
濃茶席になり、古渓が私に質問してきた。
古渓:「あの麩の焼は利休が作ったのか?」
私:「はい。良くご存知で。」
古渓:「なに、献立を宗恩殿に聞いた時に、小耳にはさんだのでね。」
私:「宗恩に聞いたのですね。美味しくなかったですか?」
古渓:「味はともかく、あの麩の焼からは優しい気持ちが伝わった。そなたが目指す草庵の茶が、垣間見れた気がする。」
私:「ありがとうございます。」
春屋:「古渓和尚が人を褒めている。めずらしいこともあるものだ。」
古渓:「春屋和尚、私とて褒める時には褒めますよ。」
茶席も終わり、三人は満足して帰って行った。
私:「さて、もう少し練習するかな。」
この作品は「YouTube(
https://www.youtube.com/watch?v=s94sSkkDsbE&list=PLH33wsaeFCZWtchkfIIltAH2CqFwbjcH8&index=5
)」にも掲載しています




